130 / 256
学園編~五学年~
21 卒業試験
しおりを挟む
◇
あっという間に月日が経った。
走り込みばかりだった授業は三か月も続いたが、その後は走り込みは減らされ筋肉トレーニングが追加された。
だけど流石に騎士科のように筋肉ムキムキな肉体が仕上がることがなかったが、それでもかなり鍛えられた気がする。
肉体的にも精神的にも。
懸念事項だったお母さんとお父さんのドレスコードもレロサーナとエステルのお陰で何とかなったと思う。
そして私のドレス。
最初は学生なんだから制服で参加しようと思っていたけど
『うーん……確かに問題ないが、確実に浮くぞ』
と答えた先生の言葉で、私はエステルからドレスを借りることになった。
もう本当エステルには感謝しかないよ。
ちなみに何故いつもエステルに借りているかというと、背丈が一緒だからだ。
いつの間にか大人顔負けに成長したレロサーナから服を借りても、着こなせない自信しかない。
そして遂に卒業試験の日がやってきたのだ。
◇
卒業試験は二段階の試験がある。
まずは筆記試験。
科によって流石に試験内容は変わるが、それでも魔法科にずっと在籍していた私達には馴染み深い魔法陣のテストが主な内容で、次に多かったのは魔物の特徴だった。
実戦までも経験した為、流石に皆の顔には余裕がある。
そしてすぐに先生の手によって採点され、合格基準を満たした私達は別の会場へと移動した。
「うわぁあ!広いね!」
卒業試験でしか使用されない闘技場に入場した感想は、かなり広い、そしてすごい迫力、だ。
実際に闘う場も、観客席も、授業で使っていた闘技場とは比べ物にならないくらい広いし、なにより観客席に人が埋まっているとそれだけで印象が違う。
オーレ学園の卒業試験で行われる実技試験には、勧誘目的で人選調査に来る者が四割、ただの娯楽で三割、そして生徒の家族が三割といった具合で、多くの観戦者が来場するのだ。
そのため空きの席はなく、寧ろ人気が高すぎて手に入らない人が出るほどだ。
私たち生徒は先生から家族にと招待券を予め配布されたため、私の両親は問題なく座れているだろう。
ガヤガヤと賑わう闘技場の観客席は、私がいる場所から見ると人の顔も小さく見え、本当に両親を探せるのか不安になるほどだ。
だけどそんな不安も杞憂で終わり、私の目にはお父さんとお母さんの姿がはっきりとわかった。
両親の周りには煌びやかな服装を身に着けている人で囲まれているため、ちょっと居心地悪そうにしているけど、たぶん保護者枠の席で、近くに座ってるのはきっとクラスメイトの親だろう。
「お父さん…お母さん…」
流石に観客席に向かって駆け寄ることも、大きく手を振ることもしないが、私が久しぶりに目にした両親の姿から目を離せないでいると、後ろからぬっと現れた人物が横に並ぶ。
「あれがサラの両親か?」
レルリラだ。
隣に並ぶレルリラに顔を向けることなく私は頷いた。
何故かお母さんはにやにや笑い、お父さんはショックを受けた様子に変わるから、意味がわからない私は首を傾げる。
(まだ始まってもないし、負けるつもりもないんだけど?)
でもそんなことよりも私のお願い通り来てくれたことが嬉しかった。
「そう、私の両親。お父さんもお母さんも来てくれたんだ……」
見に来てくれと強く希望したのは自分だけど、忙しかったら無理しないでとも書いていた。
だから可能性は低かったけど、それでも来れないんじゃないかと少なからず思っていたから、私は嬉しくて、そして思わずレルリラを見上げた。
そして驚いた。
レルリラがあまりにも綺麗に微笑んで私をみているものだから。
だから私は咄嗟に視線をずらした。
「そ、そういえばレルリラのお母さんは来てるの?」
「いや、母上は来ない」
「え?でも卒業してから会うんじゃなかったっけ?」
私は以前レルリラが見せてくれた手紙を思い出して問いかける。
「本当は父上と共に来るはずだったのだが、糞…いや、クソ爺が来るといいはった所為で断念したんだ」
「いや、言い直しているようだけど全然言い直されてないからね?」
文面的に表記が違うだけだけど、聞いている方としては全く同じだ。
まぁ事情を聞いた私としてはレルリラがそう言いたくなる気持ちもわかるから、改めさせることはしないけどさ。
「それにしてもどうして?レルリラの成長にすごく興味があるとか?」
「気持ち悪いことを言わないでくれ。
そうじゃなく、オーレ学園の運営は王族も関係があるからな、卒業試験という学生のイベントだが王族も顔を出すんだ。それで挨拶をするとわめいた糞爺が来ることになった」
「へ、へぇ…そんなんだ」
さっきの表情をどこにやったのか、げんなりと顔をゆがませるレルリラに私は苦笑した。
レルリラはすぐにいつもと同じ表情に戻る。
「…まぁ、どちらにしろやることは一緒だ」
「そうだね。手加減、しちゃだめだからね」
「…どうしようかな」
「だめだってば!」
私が怒るとレルリラは楽しそうに笑って「わかっている」と告げたあと、保護者席側の観客席にお辞儀をし、自分が整列する場所に向かった。
この学園では身分関係なく励むことを重要視しているが、流石にこのように一般公開される場では、身分の上の者から整列することになっている。
だから公爵家であるレルリラは当然のごとく最前列だし、平民の私は列の後ろ側だ。
『あー、…こほん』
全員が並び終えると、私達の担任でもあるヒルガース先生の声が会場内に響く。
私達生徒も、そして観客席側も試験開始を察して静まり返った。
『これより卒業試験を開始する。試験内容は…』
先生はそこで口を閉ざした。
そして続きを話すことなく、よく私達生徒に見せていた”いじわるそうな笑み”を浮かべ、腕を高く上げたあと指を鳴らす。
その瞬間私達の足元がパァっと光った。
何度も経験した先生の転移魔法。
卒業試験でもこれかと、逆に卒業試験でもいつも通りの展開で安心感も湧いてくる。
そして光は徐々に強くなり、私達は会場から消えたのだった。
あっという間に月日が経った。
走り込みばかりだった授業は三か月も続いたが、その後は走り込みは減らされ筋肉トレーニングが追加された。
だけど流石に騎士科のように筋肉ムキムキな肉体が仕上がることがなかったが、それでもかなり鍛えられた気がする。
肉体的にも精神的にも。
懸念事項だったお母さんとお父さんのドレスコードもレロサーナとエステルのお陰で何とかなったと思う。
そして私のドレス。
最初は学生なんだから制服で参加しようと思っていたけど
『うーん……確かに問題ないが、確実に浮くぞ』
と答えた先生の言葉で、私はエステルからドレスを借りることになった。
もう本当エステルには感謝しかないよ。
ちなみに何故いつもエステルに借りているかというと、背丈が一緒だからだ。
いつの間にか大人顔負けに成長したレロサーナから服を借りても、着こなせない自信しかない。
そして遂に卒業試験の日がやってきたのだ。
◇
卒業試験は二段階の試験がある。
まずは筆記試験。
科によって流石に試験内容は変わるが、それでも魔法科にずっと在籍していた私達には馴染み深い魔法陣のテストが主な内容で、次に多かったのは魔物の特徴だった。
実戦までも経験した為、流石に皆の顔には余裕がある。
そしてすぐに先生の手によって採点され、合格基準を満たした私達は別の会場へと移動した。
「うわぁあ!広いね!」
卒業試験でしか使用されない闘技場に入場した感想は、かなり広い、そしてすごい迫力、だ。
実際に闘う場も、観客席も、授業で使っていた闘技場とは比べ物にならないくらい広いし、なにより観客席に人が埋まっているとそれだけで印象が違う。
オーレ学園の卒業試験で行われる実技試験には、勧誘目的で人選調査に来る者が四割、ただの娯楽で三割、そして生徒の家族が三割といった具合で、多くの観戦者が来場するのだ。
そのため空きの席はなく、寧ろ人気が高すぎて手に入らない人が出るほどだ。
私たち生徒は先生から家族にと招待券を予め配布されたため、私の両親は問題なく座れているだろう。
ガヤガヤと賑わう闘技場の観客席は、私がいる場所から見ると人の顔も小さく見え、本当に両親を探せるのか不安になるほどだ。
だけどそんな不安も杞憂で終わり、私の目にはお父さんとお母さんの姿がはっきりとわかった。
両親の周りには煌びやかな服装を身に着けている人で囲まれているため、ちょっと居心地悪そうにしているけど、たぶん保護者枠の席で、近くに座ってるのはきっとクラスメイトの親だろう。
「お父さん…お母さん…」
流石に観客席に向かって駆け寄ることも、大きく手を振ることもしないが、私が久しぶりに目にした両親の姿から目を離せないでいると、後ろからぬっと現れた人物が横に並ぶ。
「あれがサラの両親か?」
レルリラだ。
隣に並ぶレルリラに顔を向けることなく私は頷いた。
何故かお母さんはにやにや笑い、お父さんはショックを受けた様子に変わるから、意味がわからない私は首を傾げる。
(まだ始まってもないし、負けるつもりもないんだけど?)
でもそんなことよりも私のお願い通り来てくれたことが嬉しかった。
「そう、私の両親。お父さんもお母さんも来てくれたんだ……」
見に来てくれと強く希望したのは自分だけど、忙しかったら無理しないでとも書いていた。
だから可能性は低かったけど、それでも来れないんじゃないかと少なからず思っていたから、私は嬉しくて、そして思わずレルリラを見上げた。
そして驚いた。
レルリラがあまりにも綺麗に微笑んで私をみているものだから。
だから私は咄嗟に視線をずらした。
「そ、そういえばレルリラのお母さんは来てるの?」
「いや、母上は来ない」
「え?でも卒業してから会うんじゃなかったっけ?」
私は以前レルリラが見せてくれた手紙を思い出して問いかける。
「本当は父上と共に来るはずだったのだが、糞…いや、クソ爺が来るといいはった所為で断念したんだ」
「いや、言い直しているようだけど全然言い直されてないからね?」
文面的に表記が違うだけだけど、聞いている方としては全く同じだ。
まぁ事情を聞いた私としてはレルリラがそう言いたくなる気持ちもわかるから、改めさせることはしないけどさ。
「それにしてもどうして?レルリラの成長にすごく興味があるとか?」
「気持ち悪いことを言わないでくれ。
そうじゃなく、オーレ学園の運営は王族も関係があるからな、卒業試験という学生のイベントだが王族も顔を出すんだ。それで挨拶をするとわめいた糞爺が来ることになった」
「へ、へぇ…そんなんだ」
さっきの表情をどこにやったのか、げんなりと顔をゆがませるレルリラに私は苦笑した。
レルリラはすぐにいつもと同じ表情に戻る。
「…まぁ、どちらにしろやることは一緒だ」
「そうだね。手加減、しちゃだめだからね」
「…どうしようかな」
「だめだってば!」
私が怒るとレルリラは楽しそうに笑って「わかっている」と告げたあと、保護者席側の観客席にお辞儀をし、自分が整列する場所に向かった。
この学園では身分関係なく励むことを重要視しているが、流石にこのように一般公開される場では、身分の上の者から整列することになっている。
だから公爵家であるレルリラは当然のごとく最前列だし、平民の私は列の後ろ側だ。
『あー、…こほん』
全員が並び終えると、私達の担任でもあるヒルガース先生の声が会場内に響く。
私達生徒も、そして観客席側も試験開始を察して静まり返った。
『これより卒業試験を開始する。試験内容は…』
先生はそこで口を閉ざした。
そして続きを話すことなく、よく私達生徒に見せていた”いじわるそうな笑み”を浮かべ、腕を高く上げたあと指を鳴らす。
その瞬間私達の足元がパァっと光った。
何度も経験した先生の転移魔法。
卒業試験でもこれかと、逆に卒業試験でもいつも通りの展開で安心感も湧いてくる。
そして光は徐々に強くなり、私達は会場から消えたのだった。
2
あなたにおすすめの小説
報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?
小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。
しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。
突然の失恋に、落ち込むペルラ。
そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。
「俺は、放っておけないから来たのです」
初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて――
ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する
五色ひわ
恋愛
エミリーが多勢の男子生徒を従えて歩いている。王子であるディランは、この異様な光景について兄のチャーリーと話し合っていた。それなのに……
数日後、チャーリーがエミリーの取り巻きに加わってしまう。何が起こっているのだろう?
ディランは訳も分からず戸惑ったまま、騒動の中心へと引きづりこまれていくのだった。
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる