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学園編~五学年~
20 視点変更②
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ヒルガースは話してくれたサーの頭に手を置いて「先生に任せろ」と微笑みながら告げた。
「俺が女だったら先生にぜってぇ惚れてるわ」と呟くサーに、ヒルガースは(頼むから惚れてくれるな)と心の中で祈る。
ヒルガースの恋愛対象は女性だったからだ。
勿論サーの恋愛対象も女性だが、サーの好みは年上の女性。誰にも言ったことはない為知る人もいなかった。
「はい、ストップー」
バチバチと火花が飛び散る二人の間にヒルガースが割り込んだ。
成長途中の子供の頃から激しいトレーニングをすれば、体に負荷がかかり身長が伸びなくなるという一説もあるが、ヒルガースよりも高い身長に成長したユーゴを見れば、そんな主張も意味をなさないなとどこか他人ごとの様に考える。
だが生徒同士のケンカを止めるのも先生の務め。
寧ろ今まで大人しく“良い”生徒たちだった自分の教え子たちの初めてのトラブルだと、先生として先生らしいことが出来ると思考を切り替えた。
「先生、邪魔しないでくださいよ」
「邪魔って……」
「ええ、そうです。先生は関係ありません」
「か、悲しい…」
ストレートに言葉をぶつけられ、ヒルガースは撃沈する。
だがすぐに復活した。
「聞いたぞ。お前ら卒業試験後パーティーでどっちがサラとパートナーになれるかを争ってるんだってな」
ヒルガースの言葉にレルリラとユーゴは体をビクリと硬直させる。
どうやらサーの話を最後まで聞いていなかったが、推測は的中したようだった。
だがヒルガースは不思議に思った。
今迄サラの傍にくっついていたレルリラだったが、一度も一線を超えようとはしなかったのだ。
今まで通りならパーティーでもサラをパートナーに誘うことなく、楽し気にパーティーを過ごすサラを遠くから眺めているか、近くで観察でもするだろうと考えていた為に、ユーゴとその場を掛けて争っているなんで信じられなかったのだ。
しかし二年の頃から早くも囲い込もうとしていたレルリラのことだ。
卒業を前に急に考えが変わったとしても不思議ではない。
「最後の思い出を作りたいと思うお前らの気持ちもわかるが、サラの気持ちも尊重してあげてほしいと先生は思うぞ」
ヒルガースの言葉にレルリラとユーゴが反応した。
ヒルガースに向けられた視線は鋭い視線のままだが、互いを睨み合うことから一歩進めたことが嬉しいと感じさせた。
「どういうことですか…」
「別に俺は押し付けるつもりはなかったですけど」
それぞれが口にする言葉は例えそうだとしても、サラの気持ちよりも自分の感情を優先させているとヒルガースは感じる。
だからこそヒルガースは左右にゆっくりと首を振った。
「サラはオーレ学園に入学してから一度も地元に帰省していないんだ。そんなサラにパートナーを申し込むのは、久しぶりに会う家族ではなく、お前らを優先させろといっているように聞こえるけどな」
「「!」」
ヒルガースの言葉に今度こそレルリラとユーゴは反応し、考え込んだ。
サラが一度も帰省したことがないのはレルリラも知っていること。
しかも毎月手紙を出し、トレーニング後に両親からの手紙が届いていると嬉しそうにしていたことを思い出す。
それにレルリラにも家族に会えていない辛さはよくわかっていた。
レルリラは一度帰省はしていても、一番会いたくて、そして謝罪したかった母親にはまだ顔を会わせられていない。
サラとレルリラは事情が違うとはいえ、それでも大切な家族に会えず、辛い思いをしていることは同じだった。
一方ユーゴは愕然としていた。
一度も家族の元に帰っていない事が衝撃的だったのだ。
成長したかと毎回聞いてくる父や、そんなにムキムキになったら嫁が見つかりづらくならない?と変なところを心配する母親、年頃に成長した妹はキモ…と自慢の筋肉を歪んだ表情で見つめてくるのがユーゴの家族だが、それでも年に一度でも顔を見ると安心するというものだ。
そんな家族に会えていないサラのことをとても気の毒に感じていた。
「サラってば帰省してなかったの?」「片道一週間かかるらしいから」と話すサラと同じ魔法科の話を聞いて、仲が悪いわけでもなく、ただ日数の関係で会えずに過ごすことを“強要”されていただけと悟った。
そしてレルリラとユーゴは思う。
((サラと家族の時間を邪魔してはいけない))
と。
ユーゴはサラが冒険者になったら、どうせ王都で活動するだろう。そうなったらまた家族とも離れ離れだ。と考え
レルリラもサラが冒険者になりランクを上げたら俺の元に来る。それまで家族の時間を過ごしてもらおう。と考えていた。
似たような二人の思考は似た結論を出す。
「…先生の言うとおりですね。サラの事を考えたら諦めも大切です」
「…サラが家族と楽しく過ごせるように努めよう」
ユーゴの言葉にはなにも考えなくても頷けるが、ヒルガースはレルリラの言葉には首を傾げた。
いったいこいつは何をどう頑張ろうというのだろうかと。
昔、ヒルガースは一度サラに『お前がトレーニングしようって頼んだのか?』と聞いたことがあった。
サラとレルリラは言葉を交わすことがなかったが、サラが一方的にレルリラをライバルの様に見ていることを知っていたのだ。
だからサラとレルリラが共にトレーニングをするようになって、ヒルガースは不思議に思ったのだ。
だがサラは否定する。
『アイツが始めたことよ』
と答えたのだ。
貴族が平民を気にすることも稀だが、平民の為にこんなにも時間を割く貴族も稀だ。
いやこの国を探してもレルリラ以外いないかもしれない。それだけ珍しい行動なのだ。
だからヒルガースは首を傾げた。
サラがご両親と楽しくパーティーを過ごすために、コイツは一体なにをするのかと。
それでも今までに問題になることは一度も起こしていない事から、ヒルガースははぁと小さく息を吐く。
「お前らなら大丈夫だと思うが、まずパーティーよりも卒業試験に意識を向けろよ」
そう言葉を告げて、ヒルガースはこの場を納めた。
視点変更終わり
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「俺が女だったら先生にぜってぇ惚れてるわ」と呟くサーに、ヒルガースは(頼むから惚れてくれるな)と心の中で祈る。
ヒルガースの恋愛対象は女性だったからだ。
勿論サーの恋愛対象も女性だが、サーの好みは年上の女性。誰にも言ったことはない為知る人もいなかった。
「はい、ストップー」
バチバチと火花が飛び散る二人の間にヒルガースが割り込んだ。
成長途中の子供の頃から激しいトレーニングをすれば、体に負荷がかかり身長が伸びなくなるという一説もあるが、ヒルガースよりも高い身長に成長したユーゴを見れば、そんな主張も意味をなさないなとどこか他人ごとの様に考える。
だが生徒同士のケンカを止めるのも先生の務め。
寧ろ今まで大人しく“良い”生徒たちだった自分の教え子たちの初めてのトラブルだと、先生として先生らしいことが出来ると思考を切り替えた。
「先生、邪魔しないでくださいよ」
「邪魔って……」
「ええ、そうです。先生は関係ありません」
「か、悲しい…」
ストレートに言葉をぶつけられ、ヒルガースは撃沈する。
だがすぐに復活した。
「聞いたぞ。お前ら卒業試験後パーティーでどっちがサラとパートナーになれるかを争ってるんだってな」
ヒルガースの言葉にレルリラとユーゴは体をビクリと硬直させる。
どうやらサーの話を最後まで聞いていなかったが、推測は的中したようだった。
だがヒルガースは不思議に思った。
今迄サラの傍にくっついていたレルリラだったが、一度も一線を超えようとはしなかったのだ。
今まで通りならパーティーでもサラをパートナーに誘うことなく、楽し気にパーティーを過ごすサラを遠くから眺めているか、近くで観察でもするだろうと考えていた為に、ユーゴとその場を掛けて争っているなんで信じられなかったのだ。
しかし二年の頃から早くも囲い込もうとしていたレルリラのことだ。
卒業を前に急に考えが変わったとしても不思議ではない。
「最後の思い出を作りたいと思うお前らの気持ちもわかるが、サラの気持ちも尊重してあげてほしいと先生は思うぞ」
ヒルガースの言葉にレルリラとユーゴが反応した。
ヒルガースに向けられた視線は鋭い視線のままだが、互いを睨み合うことから一歩進めたことが嬉しいと感じさせた。
「どういうことですか…」
「別に俺は押し付けるつもりはなかったですけど」
それぞれが口にする言葉は例えそうだとしても、サラの気持ちよりも自分の感情を優先させているとヒルガースは感じる。
だからこそヒルガースは左右にゆっくりと首を振った。
「サラはオーレ学園に入学してから一度も地元に帰省していないんだ。そんなサラにパートナーを申し込むのは、久しぶりに会う家族ではなく、お前らを優先させろといっているように聞こえるけどな」
「「!」」
ヒルガースの言葉に今度こそレルリラとユーゴは反応し、考え込んだ。
サラが一度も帰省したことがないのはレルリラも知っていること。
しかも毎月手紙を出し、トレーニング後に両親からの手紙が届いていると嬉しそうにしていたことを思い出す。
それにレルリラにも家族に会えていない辛さはよくわかっていた。
レルリラは一度帰省はしていても、一番会いたくて、そして謝罪したかった母親にはまだ顔を会わせられていない。
サラとレルリラは事情が違うとはいえ、それでも大切な家族に会えず、辛い思いをしていることは同じだった。
一方ユーゴは愕然としていた。
一度も家族の元に帰っていない事が衝撃的だったのだ。
成長したかと毎回聞いてくる父や、そんなにムキムキになったら嫁が見つかりづらくならない?と変なところを心配する母親、年頃に成長した妹はキモ…と自慢の筋肉を歪んだ表情で見つめてくるのがユーゴの家族だが、それでも年に一度でも顔を見ると安心するというものだ。
そんな家族に会えていないサラのことをとても気の毒に感じていた。
「サラってば帰省してなかったの?」「片道一週間かかるらしいから」と話すサラと同じ魔法科の話を聞いて、仲が悪いわけでもなく、ただ日数の関係で会えずに過ごすことを“強要”されていただけと悟った。
そしてレルリラとユーゴは思う。
((サラと家族の時間を邪魔してはいけない))
と。
ユーゴはサラが冒険者になったら、どうせ王都で活動するだろう。そうなったらまた家族とも離れ離れだ。と考え
レルリラもサラが冒険者になりランクを上げたら俺の元に来る。それまで家族の時間を過ごしてもらおう。と考えていた。
似たような二人の思考は似た結論を出す。
「…先生の言うとおりですね。サラの事を考えたら諦めも大切です」
「…サラが家族と楽しく過ごせるように努めよう」
ユーゴの言葉にはなにも考えなくても頷けるが、ヒルガースはレルリラの言葉には首を傾げた。
いったいこいつは何をどう頑張ろうというのだろうかと。
昔、ヒルガースは一度サラに『お前がトレーニングしようって頼んだのか?』と聞いたことがあった。
サラとレルリラは言葉を交わすことがなかったが、サラが一方的にレルリラをライバルの様に見ていることを知っていたのだ。
だからサラとレルリラが共にトレーニングをするようになって、ヒルガースは不思議に思ったのだ。
だがサラは否定する。
『アイツが始めたことよ』
と答えたのだ。
貴族が平民を気にすることも稀だが、平民の為にこんなにも時間を割く貴族も稀だ。
いやこの国を探してもレルリラ以外いないかもしれない。それだけ珍しい行動なのだ。
だからヒルガースは首を傾げた。
サラがご両親と楽しくパーティーを過ごすために、コイツは一体なにをするのかと。
それでも今までに問題になることは一度も起こしていない事から、ヒルガースははぁと小さく息を吐く。
「お前らなら大丈夫だと思うが、まずパーティーよりも卒業試験に意識を向けろよ」
そう言葉を告げて、ヒルガースはこの場を納めた。
視点変更終わり
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