128 / 256
学園編~五学年~
19 エスコートの申し込みと視点変更
しおりを挟む「サラ!待ってくれ!」
引き止める声を耳にし私は立ち止まり振り返ると、そこにはさっきまで剣を振っていたユーゴがいた。
大きな体に鍛え上げられた肉体には、汗で張り付くように服がくっついている。
それだけ汗をかいているのだろう。
なにせ私達よりも騎士科のユーゴ達はハードなトレーニングを受けていたのだから納得だ。
それでもユーゴは息を荒くした様子も、辛そうな雰囲気もない。
いつも通りの訓練メニューをこなしていると、全身で訴えていた。
やっぱりすごいなと思いながら近寄るユーゴを見上げる。
「どうしたの?」
ユーゴは一瞬体を硬直させた後、言いずらそうに口籠る。
ちなみに体はなんだかくねくねとさせていた。
大きな体で鍛え上げられている筋肉が、汗で張り付いた服からもはっきりと確認できるため、体をくねくねさせるユーゴに私は思わず苦笑する。
「あ、あのさ、卒業試験後のパーティーのことなんだけど…」
「…パーティー?」
私は首を傾げた。
「ああ、卒業試験に合格した生徒と、その保護者が参加するパーティーのことだよ。
その時にさ、もしサラがよかったら、お、俺と……」
「え、待ってユーゴ!保護者も参加するの!?」
「そ、そうだけど……」
「やばい!」
私は初耳だった。
パーティーという言葉自体初耳だが、貴族の子が多い学園。
しかもタイミングがあれば王族だって通う学園なんだから、一回くらいパーティーをするだろうと納得できるが、保護者も参加するなんてと衝撃的な事実に耳を疑う。
嫌なんかじゃないよ?
寧ろ嬉しい方だよ?
魔法研究室から帰ってきて、自分の実力も結構伸びたと感じた私は「卒業試験絶対見に来てね!」と手紙を送ったくらいだ。
でもパーティーのことなんて頭の片隅にもなかったし、両親も参加するとなったら話は別だ。
あ、もう一度言うけど嫌とかじゃない。
私が心配しているのは準備のことだ。
貴族の子が多い学園で行われるパーティーなんだから、出席する保護者の服装だって気を付けなければならないことは言われなくてもわかる。
でもそれがめちゃくちゃ心配なんだ。
だって平民にとってのパーティーは、家族の誕生日とか家の中で祝う様な小さなもの。
当然ドレスとか用意しないし着たりもしない。
パーティーに参加する為のドレスを手配するだけでどれくらい時間がかかるのかなんてわからないけど、それでもすぐに用意できる者じゃないという事だけは知っている。
だから私は驚いて、そしてお母さんに早く伝えなくちゃと踵を返したのだ。
「え、ちょ、サラ!?」
後ろでユーゴの声が聞こえるけど、明日聞くからと返しつつ目が合ったレロサーナとエステルの手を掴んで連れて行く。
「私たち迄?!」
狼狽える二人には悪いけど、お母さんたちにどんな服装がいいかをアドバイスできる人がいないと手紙の書きようもないから、ここは甘んじて受け入れてほしいところだ。
「疲れてるところごめん!でもお願い!協力して!」と二人に頼みながら、私は二人と一緒に寮へと帰宅したのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
視点変更
まるで嵐のように去っていくサラの後姿を、悲観的な表情で見つめ続けるユーゴの姿に一部の魔法科Aクラスの生徒たちは狼狽えた。
魔法科と騎士科は今回を除くと一度だけ合同授業をしただけで、顔見知りという関係が適切なのだが、それでも魔法科Bクラスと比べては人格的に好まれる生徒が騎士科には多くいたためにいい印象があった。
だが、いい印象があったとしても友情止まり。
一度の合同授業でまさか好意を向けられるほどに好かれているとは思っていなかった。
また魔法科Aクラスの生徒はレルリラがサラに好意を寄せていることを知っている。
その為いくらいい印象を持っている騎士科の生徒でも、悲観するユーゴにどう反応していいのかわからず、狼狽えるしかなかった。
そんな中ユーゴに話しかけたのはレルリラだった。
「……諦めろよ」
まるでサラの後姿をこれ以上見させないとばかりにユーゴの正面に立つレルリラは、挑発的に言葉を告げる。
そしてユーゴもレルリラの言葉を自分への挑戦状と受け取ったのか、レルリラよりも高い位置から目を細めて見下ろした。
「何故本人でもない人から言われないといけないんだ」
「お前に返事をしなかったのが答えだろう」
「サラは明日話を聞くと言ったんだ!」
睨み合う両者に一部の生徒が目を輝かせる。
それは主にレルリラとサラの今後の展開が気になる女子生徒に多かった。
そして最後のユーゴの荒げた声に他の騎士科の生徒と、魔法科と騎士科を受け持つ先生達が寄ってくる。
「どうした」と声を掛けたテヨンにユーゴは鋭くさせた目のまま振り返った。
「…本当になにがあった?」
テヨンはユーゴではなく、彼らの周りにいた魔法科Aクラスの生徒たちに尋ねた。
だが誰も口にしない様子からテヨンはヒルガースに視線を向ける。
ヒルガースは溜息をつきながら「サラ関係か?」と生徒たちが話し出しやすい形で問いかける。
すると頷く生徒たちに「詳しく話してくれ」と告げた。
「……あ、…えっと、大したことでないんですけど…サラのやつ、卒業試験後のパーティーの事知らなかったみたいで、親御さんにも伝えられてなかったからこの場にはいないんですけど……」
渋々話を切り出すサーにヒルガースは顎に指先を触れながら(そういえば話してなかったな)と考える。
だがサラと同じく平民のサーも知っているのだから、友人から話を聞けているのだろうと言わなかった自分に落ち度はないと納得させた。
「で?なんで二人がこんなにもケンカ腰なんだ?」
「…あっ、と…、パートナーとしてサラにお願いしようとしてたユーゴに、レルリラが…」
最後までいうことはなかったが、それでもそこまで話せば誰でも想像はつく。
現にヒルガースは「あぁ、それで」とやる気が削がれた表情を浮かべていたが、隣にいたテヨンは「そういう事なら先生はユーゴを応援するぞ!」と何故か張り切っていた。
頼むから刺激しないでくれとサーは思いながら、この場をどう鎮めるかとヒルガースに視線を向ける。
6
あなたにおすすめの小説
報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?
小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。
しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。
突然の失恋に、落ち込むペルラ。
そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。
「俺は、放っておけないから来たのです」
初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて――
ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する
五色ひわ
恋愛
エミリーが多勢の男子生徒を従えて歩いている。王子であるディランは、この異様な光景について兄のチャーリーと話し合っていた。それなのに……
数日後、チャーリーがエミリーの取り巻きに加わってしまう。何が起こっているのだろう?
ディランは訳も分からず戸惑ったまま、騒動の中心へと引きづりこまれていくのだった。
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる