恋愛初心者の恋の行方

あおくん

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冒険者編①

13 王都②

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そうして私はクエストが貼りだされている掲示板へと向かい、人で溢れている掲示板を遠くから確認する。
望遠の魔法を使って様々なクエストを見てみると、基本的に低ランク向けな依頼が多かったマーオ町に比べて、高ランク向けの依頼が多かったことに気付いた。
なるほど。だから人はランクが上がったら王都に向かうのね。
冒険者の殆どが王都に行く理由もわからず、私もランクが上がったら王都に行くと考えていたけど、まさかこういう理由があるのだと知らなかった。
まぁこういう理由がなくても、私はレルリラに約束した通り王都を活動拠点にするつもりではいたが。

(レルリラとの約束もあるし)

『どう?』

フロンがクエストを確認する私に尋ねる。

「うん、やりがいのあるクエストがたくさんあるね。
魔物退治の半分近くが騎士団からの依頼ということもあって、結構報酬がいい内容ばかりだわ」

『じゃあ受ける?』

「ううん。流石にこの中に入っていくつもりはないよ」

いいクエスト内容に人が群がり、僅かな差で張り紙の用紙をとれなかった人がとった人にケンカを売っている場面がちょこちょこ見受けられる。
マーオ町ではそんなことなかったのだけど、こういう面が冒険者の印象を下げているのかなと私は思った。

(てか、王都に来たら私もこの中に参戦しなくちゃいけないんだよね…?ちょっとやだなぁ)

ちょっとじゃなくてだいぶ嫌だけど。
でもレルリラが私に指名依頼するのだって、きっとまだまだ先だろう。
まぁそんなことを今考えても、まだ私はお父さんたちに言ったようにマーオ町から出るつもりはないから、この問題は王都に来てから考えても遅くない。

『クエストは受けないんでしょ?この後はどうするの?』

「ん~、お母さんの用事にもまだ早いと思うから…朝ごはんでも食べようかな」

『うん!』

フロンは笑うかのように目を細めて頷いた。
私はそんなフロンの頭を指先でよしよしと撫でる。
……あぁ、癒される。

『そういえば来る途中美味しそうな匂いがしていたね』

「うん。パン屋さんだと思うよ。よし!開いてるかわからないけど行ってみようか!」

『うん!』

そういって私はギルドを出て、来た道を戻るように歩いて行った。
マーオ町のギルドは町はずれの場所に作られていたが、王都のギルドは意外にも飲食店に近い場所にあった。
深夜でもギルドは開いている為、多少賑やかになってもいいように飲食店、しかもお酒を取り扱うお店の近くに建てられたのだろうと思う。
だからパン屋さんまでは距離はあったが、それでもかなり遠いというわけではなく私はあっという間に辿り着いた。

そしてちょうどよく今オープンしたのだろう、店員さんが扉にかけられている札を営業中という表記に変えていたところだ。

私はフロンを一度元の世界へと戻す。
元の世界というのは霊獣が住む星域だ。
さすがに飲食店に霊獣とは言え、見た目動物のフロンを連れていけないと考えたからだ。

(マーオ町でもお断りのお店もあるからね)

私はトレーとトングを手に持ち、惹かれるパンとフロンが好きそうなパンを選んでいく。
それにしてもこのパン屋さんは素晴らしかった。
値段もマーオ町よりは高いものの、王都で営業していることを考えればとてもリーズナブルな価格設定になっているのに、種類が豊富にある。
定番のバゲットにバターを練り込ませサクサク触感のクロワッサン、形に特徴がありベーコンやチーズを練り込ませたエピは勿論、フルーツやナッツ、クリームなどをふんだんに取り入れたまるでデザートのようなパンもあった。
流石に美味しそうでも朝からデザートのようなパンは…と思い私は定番のパンを選んで店を出る。

そして以前レロサーナとエステルと共に王都に来た時に教えてもらった誰でも利用できる小さな公園へと向かった。
公園といっても子供が遊ぶような遊具はなくて、噴水と休むために腰を下ろすベンチがあるくらい。
それでも朝ごはんを食べるにはちょうどいいので、私はその公園を利用することにしたのだ。

星域に戻したフロンを再び呼び出し、私はフロンと共に朝ごはんを食べる。
ベンチに座りながら噴水を視界に入れる。
後ろには数は少ないが、それでも整備された緑地が広がっていて、王都なのになんというか、とてもまったりとした気分になれた。

「たまにはこういう時間もとろうね」

『うん。とても大切な時間だ』

ひとしきりまったりした後にはやっとお母さんの用事に向かった。
教えられた店に向かい、そして営業中かを確認してから店の中に入る。

店は一軒家と同じような見た目だったけれど、中に入るとずらりと商品が陳列されていて、住宅のようなイメージは流石に消えた。
そしてフードを被った店員に私は話しかける。

「すみません。ララ・ハールという者の代理で商品を受け取りに来たのですが…」

私がそういうとその人物は「ああ、君がララの娘だね」とまるで知り合いに話しかけるように返すとフードをとった。
お母さんと同じ風属性の髪色で、とがった耳。
エルフはみんなそうなのか、とても綺麗な顔立ちをしていた女性が私に柔らかい笑みを浮かべていた。

「私は君のお母さんの同郷だよ。といっても君のお母さんのようにハーフエルフではないがね。
さて、ララからの頼みで来たんだよね。受け取るといいよ」

お母さんの同郷のエルフは、そういうと小さな箱を取り出すと私に渡す。
お金はお母さんがもう支払い済みなのか、開けて開けてと目を輝かせるエルフの人に私は箱のふたを開ける。

するとそこには小さな鞄があった。

「……鞄?」

肩にかけて斜め掛けできる小さな鞄。
デザインはとてもシンプルだけど、私の服に合わせやすいデザインだ。

『…とても大きな魔法が込められているね』と耳元で話すフロンの言葉に被るようにエルフの人は笑って告げる。

「それ魔法の鞄だよ」

「え!?」

魔法の鞄とは一般的に亜空間鞄のことを示す。
見た目によらず大容量の荷物が入れられることから、魔法の鞄_そのように魔法を鞄に掛けていること、そして何でも入れることが出来る様子から魔法の様だといわれたことがきっかけ_ともいわれるようになった。
そして前にもいったと思うがこの亜空間鞄、もとい魔法の鞄の値段はめちゃくちゃ高い。
平民が気軽に買うことが難しいくらいめちゃくちゃ高い。
職人が自らの手で一つ一つ縫っていく必要がある中、更に膨大な魔力も製作段階で必要になるからだ。
それに職人がかけた魔法が維持されるように生地や糸、魔石などの素材も高品質なものが求められる。
色々な理由で値段が高いのだ。

「ララから冒険者になりたい娘がいるからと頼まれてね、私が作った。
流石に魔力がそんなに多くないから製作時間も多くかかってしまってね、そこはすまない。でも機能は保証するよ」

「じゃあ、これお母さんが私に…?」

エルフの店員さんはそうだと頷く。

「あの、ありがとうございます!」

「お礼はララに言ってやってくれ。これは私なりの罪滅ぼしの意味が込められているからねっと、これは聞き流してくれ」

「?は、はい……」

エルフの人の言葉がよくわからなかったが、それでも聞き流してくれということはいいたくないということだろうと、私は素直に頷いた。
『よかったね、欲しかったんでしょ?』と話すフロンに私は「帰ったらお母さんにお礼しなきゃ」と答える。

まさかお母さんの用事が私の為の物だと思わなかったから、本当にサプライズで驚いたけど、それ以上に嬉しかった。




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