158 / 256
冒険者編①
14 王都③
しおりを挟むそうして用事が済み、お昼近くになっていたことに気付いた私は、レロサーナとエステルと約束していた場所へと向かう。
待ち合わせ場所はお金持ちが多く利用しているような高級そうなお店通りではなく、私がさっきまでいた公園やギルドの近くにある広場だ。
じゃあ朝食だって広場で食べればいいと思うかもしれないけれど、ここでは屋台が出店することが多くてのんびりとした時間が味わえない。
ほら、目の前で開店準備をせっせとしている人の前でゆっくり食べずらいと思わない?そんな感じだ。
広場に着くと今はもう昼近くという時間もあって、広場のあちこちに屋台が開かれ、人通りも多く賑わっている様子だ。
広場にある時計の近くでは待ち合わせをしている人が多いのか、かなりの人数が辺りを見渡しながら待っている。
その中にレロサーナとエステルはいないかと探すと、エステルが待っていた。
以前私に貸してくれたようなレースとフリルが着いた白いシャツに清楚な感じのスカートだ。
「サラ」
私に気付いたエステルが胸元まで上げた手を振る。
「エステル、久しぶりだね。レロサーナは?」
「レロサーナはまだよ。それよりサラ、貴方それが普段の服装なの?」
「そうだけど、どこか変?」
王都に来るまでの道中、雨風にも耐えられるように素材がしっかりとしたローブを羽織り、中には汚れが目立ちにくいくるぶしまであるワンピースを着ている私は、どこか変な部分があるのかとエステルの前で全身を確認する。
するとエステルは一つため息をつくと私の体へと指さした。
「私の中の冒険者のイメージは皆肌の露出が多いけれど、お洒落をしているわ。
なのにサラは全然よ。サラのクローゼットの中を見させてもらった時、成長しても問題ないようにシンプルな服を持ってきたとか言っていたけど、まさか家にあるクローゼットの中全てが同じような服だといわないわよね?」
「…え」
「その反応はもしかしてそうなのね!こうなったら洋服店に行くわよ!
サラに似合う洋服を私が選んであげるから」
なにやらエステルの気分を悪くさせてしまったのか、ぷんぷんしながらエステルは私に言った。
「でもレロサーナを待たなきゃ。それにお昼ご飯を食べるところだって予約しているんでしょ?店の人に悪いわ」
「レロサーナなら私の意見に賛同してくれる筈…ってサラ、肩に乗せているのはもしかして霊獣?」
そう言ったエステルは体を小さくさせて肩に乗せているフロンに気付き、目を輝かせる。
そして小さく「かわいい」と呟いた。
「うん。最近契約したの。名前はフロンっていうのよ」
フロンの頭を撫でながら紹介すると、フロンも『よろしく』と告げる。
契約した私には言葉として伝わっているけど、きっとエステルには契約する前の私と同じようににゃあにゃあ鳴いているように聞こえるだろう。
まぁそれでもかわいいのは変わらないんだけどね。
「ご挨拶ありがとう。私はエステル・シメオネよ。よろしくね。
……それにしても羨ましいわ。私はまだ霊獣と出会えてすらいないから」
「冒険者の方が出会いが多いからね。そこの差はしょうがないかも」
エステルは以前私に教えた通り、学園を卒業してから家業が行っているポーション制作に関わるお仕事に着いた。
実際に家を継ぐことは別の人かもしれないが、それでも店を経営する為に色々と学んでいるとエステルからの手紙で知っている。
だからこそ、外に出ることが少ないエステルは霊獣との出会いもないのだろう。
「あ、そうだ」
思い出した私は早速使い始めた亜空間鞄からハンカチを取り出した。
学園最後の日、エステルから借りたハンカチだ。
しっかりと洗濯をして、皺が残らない様にアイロンもかけておいたハンカチをエステルに手渡す。
「覚えていたのね」
「当たり前よ。これを返すために、私何度も二人の日程を確認していたでしょ?」
学園を卒業してから半年以上たって、やっと三人が再会したのは私が放置してきたことが理由ではないことだけは言っておこう。
仕方がないとはいえ、騎士団に入団したばかりのレロサーナと、ポーション稼業についたエステルが様々なことを学ぶために時間をとられ、すぐに再会してハンカチとドレスを返す予定がここまでずれ込んでしまったのだ。
「じゃあ今度はなにを貸そうかしら?」
「ちょっとまって、私まだドレス返してないからね?」
「ふふふ。そうだったわ。まだ返してもらう物が残っていたわ」
「…もう。それに貸してもらわなくても私だって二人に会いたいんだから、わざわざ理由作りをしなくても大丈夫だよ」
「そう?」
「そう!」
そんなやり取りをしていると、レロサーナが私とは違うお洒落なデザインのワンピース姿で現れた。
スタイルがいいレロサーナがワンピースを着ていると大人の女性の雰囲気がだだ洩れていて、同じ女性ではあるが思わず目の行き場に困ってしまうような気がしてくる。
だけど妖艶な雰囲気だけではなく、流石貴族といった感じに上品でしかも優雅な足取りで私達の方に向かって歩いていたレロサーナはとても綺麗だ。
レロサーナとエステルが並べばタイプは違うけど、でも絶対に男たちの視線を釘付けにするだろう。
(そんな中にちんちくりんの私が並ぶんだよね…)
なんだがかなり気が滅入ってしまうが、自慢の友達をもったということで気にしないでおこう。
そんなことを考えていると、つかつかと途端に早足になったレロサーナが表情を怖くさせていることに気付く。
「サラ!アナタ学園を卒業しても全然あか抜けていないじゃない!
エステル!食事の前にサラの洋服を買いに行くわよ!」
「え?」
「わかっているわ。私もそうしようと思っていたところなの」
「え?え?」
ガシッと両腕を二人に固定されて私は飲食店が並ぶ通りではなく、洋服店が多く並ぶ通りに連れていかれた。
あれもこれもと洋服を選ぶ二人に試着をするように促され、洋服店を出るころにはすっきりとした二人とげっそりとした私がいたことだろう。
それでも私がアラさんに忠告された言葉を伝えたことで、露出控えめな服装を選んでくれた二人に感謝をした。
12
あなたにおすすめの小説
報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?
小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。
しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。
突然の失恋に、落ち込むペルラ。
そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。
「俺は、放っておけないから来たのです」
初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて――
ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する
五色ひわ
恋愛
エミリーが多勢の男子生徒を従えて歩いている。王子であるディランは、この異様な光景について兄のチャーリーと話し合っていた。それなのに……
数日後、チャーリーがエミリーの取り巻きに加わってしまう。何が起こっているのだろう?
ディランは訳も分からず戸惑ったまま、騒動の中心へと引きづりこまれていくのだった。
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる