恋愛初心者の恋の行方

あおくん

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冒険者編①

20 異変

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今はまだ寝ているだろうお父さんとお母さんを起こさないよう外に出てみると空はまだ薄暗かった。
それでも明かりがなくても周りの景色が見えるし、遠くを眺めると空と地面の境界がオレンジ色に変わっていて、これから太陽が昇り始めるぞというところ。
私は朝の冷たい風で熱くなった頬を冷ましながらギルドに向かう。
大きな体のフロンは私の隣を歩いていた。

『…なんだか騒がしいね?』

フロンが言う。
先ほどから耳がピクピクと動いていたからなんだろうと気になっていたけど、どうやらフロンには私の耳に届かないくらい遠くの音までも聞こえているようだ。

「変だね…、マーオ町のギルドは王都並みに混まないはずだけど…」

王都では見てきた通りクエストの内容のレベルが高いのに対し、挑戦者が多い。
逆にマーオ町ではクエスト内容のレベルが低くても、いつの時間帯でもクエスト内容が選べるほどに余裕がある。
だからこんな早朝の時間帯にフロンが騒がしいと表現するほどに、冒険者が依頼を受けに集まることが考えられないのだ。

私はフロンの背に乗ってギルドまで急ぐ。
走ってもいいけど、フロンに乗ったほうが確実に速いからだ。

そうして見えてきたギルドは確かにいつもより人が多い。
だけど賑わっているというよりは、なにかがあって慌ただしく動いている、というような印象を受ける。

慌ただしく動いている中にお父さんを見つけた私は、フロンから降りて駆け寄った。

「お父さん、なにかあったの?」

「サラ、帰ってきてたんだな」

お父さんは私に気づくと足を止め立ち止まる。
家で休んでいるだろうと思っていたお父さんがいたことも驚いたけど、それよりもなにがあったかを知りたいと思った私は尋ねるとお父さんは話してくれた。

「…昨日の夜、町の周辺に魔物が多く出たんだよ。流石に他の町に要請を出すほどではなかったらしいが、それでも町にいた冒険者とギルドの一部の人が討伐に出ることになったんだ。今はもう片付いたが、前線で戦ってくれた冒険者に怪我人が多く出たみたいで、後方を任されていた俺たちも治癒をしたり、こうしてポーションを運んだりしてるんだ」

ほらこれ、と足元に置いた木箱の蓋を開けて、たくさんのポーションが入った中身を見せるお父さん。
なるほど、と思う一方私は落ち込んでいた。
お酒に酔っぱらって呑気に寝ている間に町が大変なことになっていて、起きたらほとんど片付いているというのだから。

「…お父さんは、怪我してない?」

「してないよ。お父さんはサラと同じくCランクだから後方に配置されていたんだ」

お父さんは「おかえり」といいながら私の頭をよしよしと撫でる。
まるで私がなにを考えているのかわかっているぞといっているように、いつものようにニコニコと笑っていた。

「そうだ。サラ、クエストの受注なら昼過ぎにしたほうがいい。討伐完了から時間が経っているとはいえ、今は流石に忙しそうだからな」

「…うん」

「……なにを落ち込んでるんだ?いや、これは不貞腐れているのかな?」

お父さんは明るめの声でいった。
見上げると表情は呆れたというよりも、不貞腐れた子供に対してしょうがない子だなとでもいっているようだったから、私は素直に思っていることを口にできる。

「だって、私なにもしなかったもの…。お父さんたちが大変な思いをしているのに、暢気に……寝ていた。
……私、強くなって卒業して帰ってきたはずなのに、ためになれるようなこと、何もできてない」

「サラ、そんなこと思わなくていいんだ」

「え?」

私が首を傾げるとお父さんは「よいしょっと」とポーションが入っている木箱を持ち上げ歩き出す。
私はお父さんの後を追いかけるように付いていった。

「サラはオーレ学園を卒業したからか、自分がやらないとという気持ちが大きい。だけどサラがいなくてもマーオ町は今まで平和にやってこれていたんだ。
そりゃあ戦力が多い方が助かるだろうが実際のところ、誰一人死ぬことはなく討伐し終えているだろ?」

私はうんと頷いた。

「それに俺にとってサラはいつまでもかわいい娘だ。一緒に仕事出来ることは嬉しい時もあるが、危ない場所や場面にはいつだって行って欲しくない。例えサラが俺より強くてもだ。
だからサラには負い目とか感じないで、久しぶりにあった友達とどんなことを話したかとか、……お母さんからのサプライズの話とか、そういうことを聞きたいな」

最後は少し寂しそうに話すお父さんは、私がお母さんから亜空間鞄を受け取ったことを知っているようだ。
そして私がまだマーオ町にいる理由が、亜空間鞄を購入できないでいることを知っていたから、亜空間鞄を手にした今マーオ町にいる理由はないと思っているのだ。
昔他の冒険者と同じく旅をしていたお父さんは、私もすぐにマーオ町から出ていくのだろうと思っているのだろう。
そんな寂しそうな表情をしているお父さんに私は声を掛ける。

「お父さん、私_」

「娘とずっと暮らしていきたいと思う一方で、子の成長を願っているのも親心、ということはわかってくれよ?」

私の言葉に被せるようにお父さんは言った。
その言葉に私は話そうとしていた言葉を飲み込む。

だって言えるわけがない。
私の成長を願っているといってくれたお父さんに、“お父さんが寂しいならまだ町にいる”なんて言葉。

「サラ、体調がいいのならお母さんの方を手伝うといいよ。
腹をすかせるだろうからと、討伐に参戦した冒険者にご飯をふるまうと張り切った店主が、お母さんたち従業員に手伝いを要請してるんだって。
それで戦闘要員でもないのに昨日から駆り出されているんだ」

そういって苦笑するお父さんに私は頷いた。

「……あ、でもけが人は?多いんでしょ?」

「多いといっても殆ど治癒魔法で治っているから、あとはポーションで回復するだけ。だから討伐した魔物の運搬以外やることはないよ。
今一番忙しいのはお母さんがいるお店か、魔物の解体作業場だろうな」

お父さんの言葉に私は今度こそ頷いて、反対方向を向いて駆け出す。

「そうだサラ!この大量のポーション、サラがほとんど作ったものだって聞いたぞ!それだけで十分貢献してるじゃないか!」

離れた私に聞こえるようにお父さんが大声でそう伝えた。
ポーションを作っていたのは累積報酬額を増やすためがほとんどの目的だったけど、それでもこうして役に立てていることを実感すると途端に心が軽くなる。

「お父さんのお陰で元気出たよ!ありがとう!」

また後でねと手を振りながら私はお母さんの元に向かう。

お母さんが働く飲食店はお酒を取り扱っていることから、ギルドに比較的近い場所にある。
だから私の足でもすぐに着く。

『…サラは父親にとても愛されているね』

「どうして?」

愛されていることがわからないとか、そういう意味ではなくて、突然フロンがそういった意味が分からなくて私は理由を尋ねた。
するとフロンは体を小さくさせて私の肩に飛び乗る。

『泣いてる声が聞こえたから』

「え!?」

私は足を止めてその場に立ち止まる。
もしかして私の前だから無理しているのではないかとお父さんがいる方向を振り向こうとした時、フロンが続けてこういった。

『“まだ絶対嫁には行かせんぞ”とも言ってるね』

「………」

『あれ、父親のところにはいかないの?』

無言でお母さんがいる場所へと駆けだした私にフロンが首を傾げる。

「そういう言葉をいうときは全然大丈夫な時だからね」


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