恋愛初心者の恋の行方

あおくん

文字の大きさ
172 / 256
冒険者編①

28 視点変更 フロンの正体

しおりを挟む

霊獣は星域の中で自然に生まれる。
生まれた場所が関係するのか、霊獣はどんな生物よりも強く、そして儚い存在だった。







星域の中で一匹の霊獣が誕生した。
生まれたばかりだとしても、人間や動物の様に成長への手助けが必要ないのが霊獣だ。
生まれた時から立ち上がることが出来、目も見え、他の霊獣と言葉も交わせる。
だけどやはり生まれたばかりの霊獣は一回りも二回りも体の大きさは小さく、同族の中でも可愛いと人気だった。

サラが契約したフロンも生まれたばかりはとても人気だった。
猫という動物は人間にも人気は高いが、霊獣の中にはあまり見ない容姿でもあることから、非常に物珍しく注目を集めた。
だからなのか、注目され過ぎたフロンは良く一人、いや一匹で行動するのが好きだった。
そしてものぐさな性格なのか、何事にもやる気がでない、興味がない、そんな性格をしていた。

ある日、いつも寝ているフロンが湖の水面を眺めていた。
フロンを良く知る霊獣たちは起きていることを珍しがった。
だけど構うことはない。
生れたばかりの小さな姿は可愛くても、成長し大きな姿になると興味がなくなるからだ。

一方フロンは湖を通して人間界の様子を見ていた。
霊獣が長く生きる為には、限りある魔力を一切使用しないか、もしくは人間と契約することで寿命を延ばせる。
魔力と呼ばれる力の源が体の中にあるにもかかわらず、霊獣は魔力の生成が出来ず、回復が出来ない構造をしていたからだ。
その為魔力が尽きれば命も失う。
逆に言うと、魔力を使わなければいつまでも生き延びられる。
脅威も何もない星域の中はとても安全で穏やかだが、同時に暇でもあった。
フロンは自身の体に保有している、とても膨大な量の魔力を少しずつ使い、人間界の様子を眺めるようになっていた。

フロンはある女性が気になっていた。
白い色を持っている女の子だった。

突然だがフロンには色が見える。
怒っている時は赤、悲しんでいる時は青、喜んでいる時は黄色と言ったように、感情から色が見えていた。
その中で誰も持っていない白色を持つ女の子がいたのだ。
フロンはその色がなんなのか気になった。
だから寿命にも直結する魔力を使ってまで人間界を見ていたのだ。

女の子は常に穏やかだったが、それでも赤だったり黄色だったり、青色だったりと様々な色をフロンにみせた。
それでも白色の色だけは失われることはなく常に女の子を取り囲むように現れていた。
フロンはその色がなんなのかがわからなかった。
気になって気になって、そしてやっと気付く。
この子は特別でそしていい子なんだと。

そう思ってからは早かった。
よく見れば感情を示す色の他に、灰色だったり黒だったり、とにかく白とは全く違う色を常に持つ大人が多かったのだ。
女の子とは正反対の色を持つ大人たちは、普段からあまりいい感情を持ち合わせてはいなかった。
だからフロンは気付いたのだ。
あの子は特別なのだと。
だから自分はこんなにもあの子の事が気になるのだと、フロンはそう思った。

そして人間と契約した同じ霊獣の話を聞き、自分が契約するのなら白の色を持つあの子しかいないと決めていた。
あの子の傍にいた人間と契約した霊獣を捕まえて、自分を紹介するように頼んだ。

ものぐさだったフロンはサラを観察するようになってから、よく動き、そしてよく笑うようになっていた。





だがフロンは自分の認識が違っていたことを知る。

今フロンの目の前には、キラキラとした魔法の残滓が降り注いでいた。
その光景はとても綺麗だった。
すぐに消える魔法だと知っていても、思わず手を伸ばして捕まえたいという衝動に駆られる程だった。

だがフロンが魔法の残滓に触れた時、ある記憶が蘇った。

自分が神という存在であったこと。
一人の人間の女性を愛し、そして己の所為で愛した人間を失ったことを。
兄と呼んでいたもう一人の神と共に作り上げ、大事に大切に見守っていた世界を、愛した人間を失った悲しみで暴走し、壊してしまう寸前まで陥らせてしまったことを。
そして再び目覚めた時、愛した人との子供を殺され、そして守れなかった時の絶望感がフロンを襲った。

フロンは神だった自分の記憶を見ながら泣いた。
頭が酷く割れそうに痛くても、息が出来ない程に胸が締め付けられても、流れてくるその記憶を拒否することは出来なかった。
寧ろ食い入るように見ていたのだ。大切で大事な記憶を、一つでも見落とさないようにと。
まるでもう二度と、再び見ることは敵わないとわかっているかのように。

全ての記憶が蘇った瞬間、フロンは一部の記憶が消えてしまったような喪失感が生れた。
神として存在していた頃の記憶だ。
その為神の力を手放した後、人間になった前世のフロンが愛した人間との記憶はあっても、どうやって出会ったのか、その記憶を思い出すことができなかった。
そして子供が授かった後の事も、フロンの中から記憶は失われていた。

まるで誰かが意図的に記憶を消したように。

子供はどうなったのか。
死んでしまった彼女の墓を作ることが出来たのか。

フロンは疑問に思った。
だがその疑問に答えることが出来る人は誰もいない。
どんなに長い間を生きることが出来る種族だったとしても、世界が作られた当時から生きている者なんてこの世に存在しないからだ。
それこそ、神の加護でもない限り。
だが神は平等だ。
贔屓なんてしない。してはならない。

そしてフロンはこれだけはわかった。
愛した人との子供の生まれ変わりが、サラなのだと。

記憶が失われたとしても、何故か感じる絶望感と喪失感と共に、次こそはと感じる使命感。

生まれたばかりの頃のフロンが、好奇心旺盛な他の霊獣たちとは違い、何事にもやる気が起きなかったのも、魂に刻み込まれた感情が無意識のうちに影響していた。

フロンは記憶がなくてもわかっていたのだ。
色があるからとか、他にはない白を持っているとか、そんなこと最初から関係なかったことを。
サラを見守るだけで、心が穏やかになっていた自分の感情を、当時のフロンは無理やりにでも理由づけたかった。
何故このような気持ちになるのかを。
自分の寿命ともいえる魔力を使ってまで、見る価値があるのかと。
だが人間と契約してしまえばそれこそ一生の付き合いになる。
気軽に契約など出来るはずもなく、それでもサラを見てしまうフロンには理由が必要だった。
だからフロンに見えていた色の存在が、理由作りにぴったりだっただけ。

答えがわかれば簡単な話だった。

自分の子の生まれ変わりでもある娘の成長をフロンはただ見守りたかっただけで。
その娘の傍にいたいと、ただそれだけで契約したいという気持ちがあったのだ。
自分にとってとても大切な存在である娘の成長を、記憶もなにもなかったフロンは、魂に刻まれた感情だけで無意識に行動していたのだ。

そしてフロンは思う。

記憶はなくなったが、より強く感じる喪失感と絶望感は、前世の自分が愛する人と共に子供すらも守れなかったことの証ではないかということを。

この幻想的な光景を生み出したサラが、世界が求めている特別な存在そのものなのだとしたら

今度こそ守らなければならない。と、フロンは決意した。








■視点変更終わり
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?

小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。 しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。 突然の失恋に、落ち込むペルラ。 そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。 「俺は、放っておけないから来たのです」 初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて―― ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する

五色ひわ
恋愛
 エミリーが多勢の男子生徒を従えて歩いている。王子であるディランは、この異様な光景について兄のチャーリーと話し合っていた。それなのに……  数日後、チャーリーがエミリーの取り巻きに加わってしまう。何が起こっているのだろう?  ディランは訳も分からず戸惑ったまま、騒動の中心へと引きづりこまれていくのだった。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...