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冒険者編①
44 審査役の冒険者
しおりを挟む「よく寝たぁ!!」
閉じられたカーテンを開けた私は全身が伸びるように腕を天井に向けて突き出した。
ふらふら状態だった私はたっぷりと寝たことで完全復活できたため、シャワーを浴びて、結局昨日送れなかった手紙を書くために机へと向かう。
試験内容は不明の為、昇級試験の為に王都に来ていること、数日以内に試験が始まること、無事ランクをあげることが出来たらまた連絡することを書いて、レルリラに向けて手紙を飛ばしてから宿を出た。
出るとき今日も利用するかと尋ねられたが、試験はいつ始まるのか不明の為曖昧に答える。
それでも営業スマイルを崩さない店員さんに私は軽く頭を下げてからギルドへと向かう。
『サラ、朝ごはんの分もしっかり食べるんだよ!』
どれだけ酷い顔色をしていたのか、昨日は布団に直行させられたために自分で確認していなかったが、朝…といっても昼近くまで寝て起きた私の顔色をみたフロンは満足げに頷いた。
そして宿を出た私に先程の言葉を告げるのだ。
「なんだか、フロンお母さんみたいだね。最近」
『そ、そこはお父さんじゃない?僕の性別は男なんだから』
「あ、否定するのはそこなのね」
私は少しどもりながらも想定していなかった部分を指摘をするフロンに笑うと、食べる場所の提案をする。
「ごはんはさ、ギルドの食堂を使ってみようかなと思ってるんだよね」
『ギルドの食堂?』
「そう。昨日二階に食堂があるのがみえたからさ、宿も割安で泊まれたから食堂の方はどうなのかなって思ってね」
私の言葉にフロンはパッと表情を輝かせ『いいね!早く行こう!』と上機嫌で前を歩く。
長い尻尾はピンと伸びて歩行に釣られるように少しだけ揺れていた。
□
混む時間帯を過ぎてもそれなりに人がいるギルドの中、私とフロンはそそくさと二階へと向かう。
食堂だと書かれていたが、イメージしているような雰囲気ではなく、複数のお店が同じ空間に入っているといった感じだった。
ガッツリ肉料理を取り扱うお店、学園でも食べたような魚料理を扱うお店、またお酒のつまみを主に取り扱っているが軽食を提も供しているお店に、スイーツを扱っているお店などなど。
複数のお店が壁に沿って並び、あいている真ん中の空間にはテーブルと椅子が複数設置されていた。
ここならどんな人でもどんなに大人数でも大丈夫だろう。
だって様々なジャンルの食事を選ぶことができる。
値段も以前王都の広場で買い食いしたような、平民でも懐に優しい値段設定になっていた。これもギルドと提携しているからか、流石ギルド内に設置されるだけあるってもんね。
『サラはなにを食べるの?』
小さくなって肩に乗るフロンに私は周りを見渡した。
肉も魚もいいけどやっぱり一日の始まりとしては重くないメニューに食べやすさを感じる私としては軽食一択だ。
卵やレタス、トマトなどが挟まれているサンドイッチと飲み物がセットになった軽食に五百オーレを支払い、私は適当な席について口に含む。
「…もしかしてサラ・ハールさん?」
二口目を食べようと口を大きく開けた時、名前を尋ねられ私は口を開けたまま顔を上げた。
爽やかそうな見た目の男性が、少し不安げな雰囲気を出しながら私を見ている。
『サラ、答えなくていいの?』と耳元で教えてくれたフロンに我に返り、「そうです」と答えると、男性はホッと胸を撫で下ろし愛想がいい笑みを浮かべた。
「よかった!俺たちは君を監督する冒険者で、俺はルドウィンっていうんだ。
で、こっちのデカいのがイライアンで、こっちの露出が高めの服を着ているのがナード、そしてエルフ族の二コラ、よろしく!」
次々と紹介されて、私は慌てて頭を下げる。
「こちらこそよろしくお願いします」
顔を上げて周りにいる四人をそれぞれみた。
まずパーティーメンバーを紹介してくれたルドウィンさんは、表情や雰囲気からみても明るくて、パーティー内のムードメーカー的な存在のようだ。そして雷属性がもつ金色の髪色に、黄土色に近い瞳の色から間違いなく雷属性なのかなと推測する。
そしてルドウィンさんよりも二十センチは背が高いイライアンさんは私と同じ水属性なのか、藍色の髪色に水色の瞳を持っている。
次にナードさんはルドウィンさんが言ったように露出度が高い服装から、しっかりと胸の谷間が見えて、女性の私までどこに視線を向けていいのかわからない、いわゆるセクシーな女性だ。そして緩やかにウェーブがかけられている茶色の髪を緩く結んでいることから、土属性かなとドキドキしながら考える。
そして最後にエルフ族と紹介された二コラさんは薄い緑色の髪に、薄いブルーの瞳。
日焼けなんて縁のない真っ白な肌と華奢な体つきがか弱さを醸し出しているが、純粋なエルフは人族よりも寿命が長いと聞いたことがあるし、アラさんからも見た目と年齢に沿わないエルフの冒険者がいたことで、ちょっとした問題があったと聞いたから、二コラさんも実際には私よりも年上なのかもしれないと思った。
でも、それ以前に髪色と瞳の色が違う人が珍しいと私はすこし驚く。
基本的な外観の特徴としては、属性の色を持つことが多く、例え違う色を持ったとしても属性とは違う色が殆どだ。
二コラさんのように風属性の髪色に、水属性の瞳の色の両方を持つ人は少ない。
もしかしたらレルリラと同じく複数属性なのだろうかと私は思った。
レルリラも普段は髪も瞳も赤色だけど、明りがない薄暗い場所では瞳の色がかわるから。
「…見すぎ」
「あ!ごめんなさい!その…綺麗だなって…」
その言葉は嘘ではない。
私よりも背が低くはあるが、それでもまるで絵本に出てくる妖精のような見た目がとても幻想的で思わず見続けてしまったことは事実。
だから正直に答えると、ルドウィンさんが焦ったように私と二コラさんの間に入り込んで必死で首を振った。
「だめだめ!こいつ綺麗とか禁句なんだよ」
焦ったように告げるルドウィンさんに、私は首を傾げながらも「ごめんなさい」と頭を下げる。
「……別に、アナタならいい」
怒られるかなと不安に思っていたが、素直に謝罪すると誠意が伝わったのか二コラさんは怒らなかった。
それどころか許可(?)してくれたのだ。
いや、ルドウィンさんが禁句といったから今後も二コラさんに綺麗と告げることはしないけどね。
でもそんな二コラさんの反応がメンバー的には驚くほど有りえなかったらしく、ルドウィンさんとナードさんは私が驚くほどに顔を引き攣らせていた。
「え!?どうしたの!?」
「いつもなら怒るのに!」
「……ハールは綺麗。目を見ればわかる。だから構わない」
正直よくわからないが、とりあえず「ありがとう」と伝える。
同じパーティーメンバーの人たちも首を傾げていたので、他人の私がわかるわけがないよね。
「まぁ、とりあえず…俺たちも一緒に座ってもいいか?」
「はい、構いませんよ」
いつの間にかイライアンさんが人数分のご飯を買ってきていて、それをメンバーに渡していた。
私が頷くと、私の隣に二コラさんが座り、その隣にナードさん、正面にルドウィンが座り隣にイライアンさんが座った。
「二コラ…あなた本当にどうしたの?」と二コラさんに尋ねているナードさんに首を傾げつつ、私は目の前のルドウィンさんに話を切り出した。
「さっき、私の監督といってましたけど…」
「そうそう。その話をしたくてさ。早速だけどサラ……、あ、サラって呼んでもいい?」
「はい、好きに呼んでください」
私が許可すると、隣に座っている二コラさんやナードさんが便乗し「私もサラちゃんって呼ぶね」とか「じゃあサラって呼ぶ」と嬉しそうに話しているとルドウィンさんはにこりと笑う。
「ギルドからさ、俺たちにサラの昇格試験の監督をやってくれという話をされたんだ。サラはパーティーを組んでいなく一人で活動しているんだろ?それで試験内容はなににしようかと考えていたんだけど…」
ルドウィンさんは一度そこで話を区切る。
もったいぶらないで教えて欲しいと、食事をする手が止まる私を見てクスリと笑った。
「サラには護衛を担当してもらうことに決めたんだ」
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