恋愛初心者の恋の行方

あおくん

文字の大きさ
193 / 256
冒険者編①

49 ランク昇格

しおりを挟む


そうして二コラさんに連れていかれる形で王都へ戻ってきた私よりも前に、辿り着いていたルドウィンさん達が目を輝かせてギルドの受付に前のめり気味に話す姿に私は息を飲む。
傍から見たら受付のお姉さんを口説こうとしている光景だったからだ。

「ラスティアさん!サラちゃん凄いよ!合格!!」

ラスティアさんというのは、今まさにルドウィンさんの相手をしている王都のギルドで受付を担当している方の名前らしい。
私への評価を伝えたルドウィンさんの様子に、ラスティアさんは目をぱちくりとさせた。

「……詳しい説明をお願いしてもよろしいでしょうか?」

ルドウィンさんの高いテンションに飲み込まれることもなく、ラスティアさんは微笑みながら席を立ちそう告げた。
周りの目もあるためか、ルドウィンさんを連れて別室に案内するラスティアさんの後をイライアンさんもついていく。
その様子を私は二コラさんの隣で眺めていると、ナードさんが肩に手をまわした。

「大丈夫よ!心配しなくてもサラちゃんは昇級確定だから!」

「うん。私達四人を相手にしてた。それだけで十分」

不安に思っているだろうと思ったのか、私を二人が励ましているとルドウィンさんとイライアンさんと共に別室へと姿を消したはずのラスティアさんが現れ、私の名を呼んだ。

「わ、私です!」

「ではこちらに着いて来ていただきますようお願いします」

私は二コラさんとナードさんに軽く会釈をしてからラスティアさんに着いて行った。
わかってはいたが、案内された部屋には既にルドウィンさんとイライアンさんが並んでソファに座っている。
ちなみにマーオ町のギルドの応接室のように殺風景といった感じのインテリアではなく、色々と飾っていた。
ちらっとしかみてないけど、児童福祉教育賞とかなんかそういう賞状やトロフィーが飾られている。

「一応俺たちからの評価を伝えたんだが、最後にお前の意思を確認したいって言われてな」

ルドウィンさんが私を見ると口角を上げて笑みを浮かべる。
私の意思?とラスティアさんをみると、こくりと頷かれた。

「サラ様、ルドウィン様たちから昇級試験の合格を伝えられていますが、昇級に当たり問題はありませんでしょうか?」

勿論。問題なんてあるわけがない。







さて。どうしようか。

私は返してもらったフロンと共にこれからのことを考えていた。

王都にいるからレロサーナを探してみる?
あ、でも勤務中か。邪魔しちゃ悪い。

なら、一度マーオ町に帰ってお父さんお母さんに自慢しちゃう?
っていう距離でもないね。
私がAランクに上がったとレルリラに伝えたら、きっと近いうちにクエストに行くか、レルリラの仕事の同伴者として行動することになる筈だからこのまま王都にいた方がいいに決まっている。

なら、早速Aランクのクエストを受けちゃう?
…って、レルリラが一緒ならって許可してもらえたのに、一人で受けられるわけがない。
そもそも隣町から王都まで移動して、更に昇級にあたっての手続きを済ませた後だから今はもう夕暮れ。
流石にこれからクエストを…っていう時間でもない・

そんな感じで悩みながらもランクが上がることが出来た私はルンルンと気分よく過ごしていた。
たった一日でもフロンと顔を合わすことが出来なかった私は「会いたかったよ」とふわふわな毛並みに顔を埋めながら、『サラお疲れ。Aランクおめでとう』と祝ってもらっていると人影が私達を覆う。

私はフロンのふわふわから顔を上げ、影の人物を見上げる。
私の手紙を読んだからと、私の姿を探していたその人と話していると、何故か高級そうなお店の中にいつの間にかいた。

「………なんで?」

「なにがだ?」

レルリラが首を傾げて私を見た。

レルリラに手紙で伝えたのは昨日だ。
私の試験の監督役がまだ王都に戻ってきていなく、いつ試験が始まるのかわからないこととか書いて手紙を送った筈なのに、なんで私を探していたのかわからないけどレルリラがタイミングよく私の前に現れたこともそうだけど、それ以上にレルリラと向かい合いながら高級レストランに来ている意味が分からなかった。

「晩飯、まだ食べてないだろ?」

「それはそうだけど……」

「ならAランク昇格祝いに丁度いいだろ」

レルリラに言われて私は(そうかも)と口を閉ざす。
レルリラはメニューに目を通して、やってきた店員さんに注文するとメニュー表を手渡した。
メニュー内容を見ていない私はいくらするのか見当もつかないけど、きっと高いのだろうということはわかる。
個室なのに広い店内。
心穏やかな雰囲気にさせる温かみのある照明に、会話の邪魔にならない程度にムード感ある曲が流れている。
いや、これ本当いくらするの?

私が冷や汗だらだらしていると、果実酒を運んできた店員がグラスに注いでいく。
店員はグラスに注ぎ終わると、微笑みを浮かべながら頭を下げて部屋を出た。

「…私、お酒は…」

「炭酸水で割っているからそんなにアルコール度数は高くないと思う」

差し出されるグラスに尻込みしているとレルリラがいう。
その言葉によく見ると私のだけしゅわしゅわと泡立つ様子が見てわかった。
確かに私が潰れたのはアルコール度数が高いと言われるワインで、炭酸水で割っている果実酒ならば…とグラスに手を伸ばす。

「…ありがとう。……奢り?」

なんとなくこの雰囲気というか空気感がムズムズして、気恥ずかしくなった私は誤魔化すようにレルリラに尋ねると、レルリラはなにか可笑しそうに口角を上げた。ちょっとだけだけど。

「ああ、祝い事だからな。俺のおごりだから遠慮しなくていい」

え、本当にいいの?

「…あとでお金請求されても払わないよ?」

「請求なんてしない」

「…ありがとう」

グラスを少しだけ傾けて少しだけ口に含んだ。
初めて飲んだお酒よりも甘く、口触りのいい林檎の果実酒に私は目を見開いた。
飲みやすいと普通に思った。
まるでジュースのような味わいで、これなら私でも飲めると思えるほどに美味しかった。

「…平気か?」

私の失態を目撃…というか世話をさせてしまった経験があるからこそ、心配そうな眼差しを向けるレルリラに私は頷いて答える。

「大丈夫。これ飲みやすいよ」

平気そうな私にレルリラは安堵したように頷いた。
そして「アルコールはちゃんとあるから、飲みすぎなければ平気だろう」と告げる。
確かにジュースみたいに甘く美味しいから飲みすぎてしまうとそれなりのアルコールを摂取することになるだろう。
私はレルリラの忠告を素直に受け止めて、飲み過ぎないようにゆっくり飲むことを意識した。

いや、そうじゃないだろう。私。

「…それで?私を探してた本当の理由はなに?」

グラスを置いて私はレルリラに尋ねる。
昇級試験に合格することは当然のこととして、いつやるのかもわからないのにレルリラが祝うために私を探していた
ということに違和感を感じていた。
だって普通なら合格したことを知ったうえで私を探す筈でしょ?
前祝いだとしても、これから試験を控えている人をお酒を飲む場所には連れていかない筈だ。しかも私みたいにお酒の弱い人を。

レルリラは私に注がれたお酒とは全く違う、色が濃い、まるで初めて私が飲んだお酒のような赤ワインを一口飲むと私を見た。

「お前を家に呼べと言われた」

「……え?なんで?」

レルリラの家?って貴族の家だよね?しかも公爵家ですっごい身分が高い爵位だよね?
私はなぜ?と理由がわからずに首を傾げる。
だって見知らぬ貴族が平民に会う理由ってなくない?

「俺の兄は第一王子の側近で、俺が所属している特務隊の隊長を務めているんだ。だからお前と行動をするというのも兄に対して話すことになる……んだが、兄がお前に会いたいと、言ったんだ」

レルリラは言いずらそうになりながらも話した。
冒険者と行動すること自体は否定されたのかを尋ねると、私の聖水を作り出す力を話すと否定はされなかったという。
私に利用価値があると判断してくれたのなら、実際にあってもあれこれ言われることはなさそうだと考えた私はレルリラに「いいよ」と答えた。
というかそういうしかないでしょう。貴族の招待を平民が断れるわけがない。

顔を上げ嬉しそうに微笑むレルリラに、私は運ばれてきた料理に手を伸ばす。
あ、この生ハム美味しい。
程よいしょっぱさと脂身がお酒によくあった。
このチーズも。

「ありがとう」

レルリラの嬉しそうな笑みを見ながら、私は(聖水を実際に作ってみろとか言われたらどうしよう)と今更ながらに不安になる。
自分の意思で作った事なんてないからだ。

あーでもいいや。
了承してしまったし、レルリラの嬉しそうな笑みを見たら今更拒否なんて出来ないもの。

今はレルリラがご馳走してくれたご飯を堪能しよう。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?

小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。 しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。 突然の失恋に、落ち込むペルラ。 そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。 「俺は、放っておけないから来たのです」 初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて―― ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する

五色ひわ
恋愛
 エミリーが多勢の男子生徒を従えて歩いている。王子であるディランは、この異様な光景について兄のチャーリーと話し合っていた。それなのに……  数日後、チャーリーがエミリーの取り巻きに加わってしまう。何が起こっているのだろう?  ディランは訳も分からず戸惑ったまま、騒動の中心へと引きづりこまれていくのだった。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...