恋愛初心者の恋の行方

あおくん

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冒険者編②

8 息抜きの合間の話

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「来てくれてありがとう!」

淑女教育の最中、遊びに来てくれたエステルとレロザーナに私は出迎えると開口一番にそう言った。
言葉自体は変ではないにしても、もういっぱいいっぱいだった私としてはこのタイミングでの訪問者は神に近く、もう泣くほど感謝していたために、二人は不思議そうに首を傾げている。

二人の訪問者にエルシャさんも「…わかりました。休憩としてドレスの試着でもしましょう」と妥協する。
ドレスと言っても仮仕立ての状態で今日の朝方届けられたばかりだ。
昨日確かにレルリラの家の方で負担するとかなんとかいっていたけど、昨日の今日で……。
ドレスって作るの大変そうなのに、もしかしてめちゃくちゃ圧力かけた?とでも思ってしまいたくなる。
それでもパーティー参加まで一週間。
ドレスもそうだけど、私自身覚え直しのために昨日帰宅してからエルシャさんに付きっきりになられて教わっていた。
ちなみにパーティーは立食式らしいので食べる飲むの動作は最低限に、それよりも基本のカーテシーや姿勢、歩き方、表情の作り方をまず学んでいた。
エルシャさんの基準点は先生よりも高く、ビシバシとダメ出しをされている。
一日も経ってないのに気が滅入りそうになっていた。

「ねぇサラ、ドレスって?」

事情を知らない二人に私は詳しくは話せないからと「冒険者としての仕事だよ。とあるパーティーに参加することになったの」と告げる。
二人は守秘義務というルールを知っているようで、クエストの内容をそれ以上尋ねることはしなかった。

そして二人の前で仮仕立て状態のドレスを身に着けた私は、エルシャさんにおかしなところがないか確認してもらう。

「……もしかして凄く忙しかった?改めたほうがいいかしら?」

「ううん!そんなことはないから!」

必死に引き留めようとする私にエステルは「そう?」というので私は「そうそう!」と何度も頭を動かした。

「それって既製品じゃないわよね?サラが注文したの?」

「ううん、レルリ_」

「えぇ!」「あら!」

急に大きな声を出す二人に途中で話すのを止め視線を向けると、口元を隠して私を見ていた。
それでも目から喜んでいるような、そんな感じがして私は首をかしげる。

「進展ないと聞いていたから心配していたけど、ちゃんと進んでいたのねあなた達!」

「はい?」

「ドレスを贈られる関係になったのよね」

「え?」

私の返答に疑問を抱く二人は互いの顔を見合わせる。

「「違うの?」」

「これは、……このドレスはクエストの為に必要な物だから、レルリラじゃなくてレルリラ公爵家から“貸してもらう”ものなの」

本当はレルリラが選ぶとかなんとか言っていたけど、レルリラのお兄さんは“こっちで用意する”とか言っていたから私の認識で間違っていないはずだ。
いやでも、依頼は第一王子だからもしかするとレルリラ家じゃなくて、第一王子負担、もしくは騎士団負担かな?

二人はため息をつく。
小さくなにか聞こえた気がしたが、視線を向けると残念そうなレロサーナと俯くエステルが見えただけだった。

「……エステル?どうしたの?」

そう問いかけると、エステルは勢いよく顔を上げる。

「ねぇ、もしも!もしもの話よ?」

なんだか必死な様子を伺えるエステルの反応に、私は不思議に思いながらも「う、うん。わかってるよ」と言葉にする。
エステルは私の言葉にホッと胸を撫でおろしながら、言いずらそうにしながらも話した。

「も、もしもの話なんだけど…」

「うん、もしもだよね」

「……、サラは、貴族の方にこ、告白されたらどうする?」

エステルは言葉にした後、ギュッと目を瞑って私の反応を待っていた。
私は思わずレロサーナにどういう意図を含んでいるのかと視線を送るが、レロサーナもエステルの質問の意図がわかっていないのかニコリと微笑むだけだった、

「…その貴族の人が私にとってどういう人なのかわからないけど、……普通に断るよ」

私は答えるとエステルは瞑っていた目を開いてぎょっとする。
まるで想定外の答えを聞いたかのような反応を見せるが、私は私で何故そう考えるのかがわからない。
だって貴族と平民の結婚は許されていないことは私でも知っていることだ。
好きだと告白されて付き合って、それで結婚出来るのならいいけれど、付き合ってそれでお終いという終わりが見えているのに付き合う意味がわからなかった。
私はその考えをエステルに話すと、エステルは「じゃあ!」と血相を変えて口にする。

「じゃあ!その人が仲がいい人なら!?サラはどうするの!?」

私はエステルの話がよくわからなくて、すぐに答えることが出来なかった。
それは言葉通りの意味ではなく、ただ想像が出来なかっただけ。
実際に最初の学年では相手の性格まで把握している者が少なかったのだろう、殆どの貴族の生徒は婚約者が決定しておらず“そういう雰囲気”になることも多かった。
だからこそお菓子作りが得意な私が引っ張りだこになっていたのだろう。
でも学年が上がるにつれて婚約者を決める生徒が増え始め、次第に調理実習でも私を巡っての争いは少なくなっていっていたのだ。

だから私と親しい貴族が私に想いを伝える、という場面が想像できなかった。
何故なら皆婚約者がいる身であるからだ。

でもエステルは私の考えとは逆に、そういうことが起こると予言するかのような目を私に向ける。

「ねぇ、サラ…」

私が返事をするよりも先にエステルが話を続ける。

「もし、もしね、そういう場面があった時はよく考えて欲しいの……。すぐに断るんじゃなくて……、私はサラの幸せを願っているから……」

呟くそうに言われたエステルの言葉に同調するように、レロサーナも口にしていたグラスを置いて私に微笑んだ。

「確かにそうね。…私の予想じゃサラは親しい人に、それも貴族に告白されたら断るけど、友達関係は持続させたいと思っている筈。
でもそれは叶わないことだと知らないからこそ言葉にできること。サラにはちゃんと考えて欲しいの」

そのように告げたレロサーナに私はよくわからずに「どういうこと?」と口にする。
エステルは苦笑してレロサーナに目配せをするから私はレロサーナに尋ねるしかないのだ。
そしてレロサーナは口を開く。

「サラは友達として付き合いが深い人に告白されたら、さっきいったように断るのでしょう?
でも友達関係を維持したい。何故なら友情と恋情は別だから」

「…ん~、そんな体験したことないからわからないけど……、でもたぶんそうかも。せっかく仲良くなれたんだから、友情まではなくしたくないかな」

するとレロサーナは「やっぱりね」と口にする。
私はわからなかった。それが普通なんじゃないのかと思っているからだ。
でもそうではないとレロサーナはいう。
男女の仲に純粋な友情だけの関係はないと、もし一方が恋心を持ってしまったのならば、関係が変わるのは当たり前なのだと。
だから、”これからも友達でいよう”という返しはしてはならないのだとそう話す。
もしそう返すのなら、エステルがいってるように一度よく考えてほしいと。

私は首を傾げた。
やっぱりわからなかったからだ。
恋心を持ったとしても、ごめんなさいと断っている以上、それ以上の関係にはならないと伝えて相手もわかっている筈。なのにどうして?と不思議に思う。

そしてレロサーナはこういった。

「だってそれは愛されたいって言ってるのと同じだもの」

私はその言葉の意味がよくわからなかった。
言葉の裏に潜んだ卑しさを理解せずに、私は首を傾げるだけだった。

確認を終えたエルシャさんは仮仕立てのドレスを返送するといい、待っている時間は自由にしてもいいというので、私はとりあえず二人をもてなすために部屋を移動したのである。



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