恋愛初心者の恋の行方

あおくん

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冒険者編②

9 任務開始です!

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そして決戦(?)の日。

さあ行こうと決意した視線の先で、天井近くまである両開きの扉が開く。
第一王子であるアルヴァルト殿下と聖女であるヤマダ マコ様の名前を読み上げる人の声で、“私”は会場へと足を踏み入れた。

吹き抜けの天井から吊された煌びやかなシャンデリアと、その輝きが映る大理石の床。
王族が腰を下ろす二階にまで敷かれる真っ赤な縦断の上を、私はアルヴァルト殿下のエスコートで会場内を歩き進めていた。

聖女の姿を初めて見たのか、それともあまり姿を現さないことで珍しさがあったのか、近くの者同士で話していた人たちは口を閉ざし、アルヴァルト殿下と並ぶ私へと注目する。

___その視線の先は私であって、私ではないけど。

今から一週間と少し前、私は見事CランクからAランクへと昇級した。
そして気になっていた家賃問題なども見事にクリアし、活動拠点を王都に移したのだが、私に向けられた指名依頼があるということをギルドの方から教えられ、私は依頼内容に書かれていた場所へと向かったのだが、そこにいたのは今隣で私をエスコートしているこの国の王子であるアルヴァルト殿下だったのだ。
アルヴァルト殿下は私に聖女の影武者になることを依頼した。
聖女と似ている容姿の私、そして聖水を作れる力から適任者は私しかいないということを自分自身でも納得し、私はその依頼を引き受けた。
そしてこうして聖女様の代わりに聖女に見えるように髪色なども変えて、王様の誕生祭であるパーティーに参加しているわけなのだが……。

(視線が多い!!!!)

一週間の間でビシバシと扱かれた淑女教育に私は泣いた。
学生の頃には指摘されなかった姿勢や表情筋や、歩く際の歩幅、お辞儀の角度。
いや、確かにさ、聖女様は王族との婚姻が定められているってことは平民でも知っていることだから、教育が厳しいってことはわかっていたつもりだったけど、なにも影武者である私にまでその厳しい教育がされるとは思わないじゃない?
勿論私は本当に聖女様の代わりに王子と婚姻することはないから、されたのは淑女教育なわけなのだけども。
でも、だからこそ、これだけの視線を浴びた私の口角はずっと上向きなのを保つことが出来ているのだが。

(でも私がそんな努力をずっと出来たのも、遊びに来てくれたレロサーナとエステルの励ましのお陰のようなもんだよね)

依頼内容については箝口令というか契約というか、とにかく詳しく話すことが出来なかった私は何故淑女教育を受けていることを二人に話すことが出来なかったが、それでもランクが上がった事、王都で活動することを手紙で伝えていたから祝いをするために来てくれたのだ。
そのことがどれだけ気分転換に…いや嬉しかったか。

怒涛の一週間を思い出しながら、私は浴びるように向けられる視線をやり過ごし、そして遂にこの国の王様である、ヴァイス・レン・キュオーレ陛下の前で立ち止まった。
先に王様の息子であるアルヴァルト殿下が挨拶をし、その後に私が挨拶をする。

「我が国の太陽である国王陛下にご挨拶申し上げます。わたくしは、聖女として召喚されましたヤマダ マコと申します」

床にドレスが触れないようにドレスの裾を摘まみ、深く腰を落とす。
平民の間でもカーテシーなるものはあるが、どれも腰を垂直に曲げて頭を下げるだけに留めるものだ。
膝を曲げて足をプルプルさせることはしない。
だけどこの姿勢は、貴族の、それも女性の間では常識であることを私は授業で習っている。
ちなみに私、カーテシーだけは一発合格を貰っているからね!学生の頃一番頑張ったんだから!

頭を下げながらドヤ顔する私は王様の言葉で顔を上げた。
ちなみに私が聖女様の影武者になっていることを王様が知っているのかなんてわからない。
そこまでの情報私は聞かされていないからね。
強制的に帰らされたし。
でもきっと知っていると思っている。
流石に聖女の偽物をエスコートして連れて行くとか、それくらい伝えるべきでしょ。親子関係が悪くなかったらだけど。

そして陛下へお誕生日おめでとうって言葉を伝えて_というかアルヴァルト殿下に「こう言って」と指示された言葉をいっただけ_踵を返す。

よし!これで私に託された任務は本題だけ!

私はそう意気込んだ。
元よりこの依頼は、浄化の力を自由に引き出せないという設定の聖女様と、聖女様を保護する第一王子であらせられるアルヴァルト殿下を榴弾する計画を立てている第二王子の策略を知ったアルヴァルト殿下が私に依頼したこと。
つまり王様へのお誕生日おめでとうメッセージはおまけにすぎない。
本題は第二王子の魔の手から聖女様を守ることなのだから。

私は視界に入り込んだ真っ白なテーブルクロスの上に並べられた、数々の美味しそうな料理を映しながらごくりと唾を飲み込んだ。
ごくりと唾を飲み込んだ音が聞こえたのか、アルヴァルト殿下が小さく笑う。

だって仕方ないじゃない!
朝から入浴からマッサージやらされて、その上でドレスを着させられたから、殆どなにも食べていないと同じなの!

「…大丈夫だ。女性の努力については婚約者から耳が痛いほどに聞かされている。
あとで軽食を用意させておくから少しだけ我慢してくれ」

そのように呟かれた殿下に私は驚いた。
あれ、王子って聖女と結婚するんじゃなかったんだっけ?と。
だけど軽食を用意してくれるのならそれはなによりだと私は頷き、輝きを放ちながら私を誘惑しようとする料理たちに目を背けた。



そして陛下への挨拶が順々に行われ、手持ち無沙汰気味になった私は気持ちに余裕が生まれているのか、王様に挨拶する貴族たちを観察していた。
ふんふん、ほぉー、あ、こういう言い方あるのね、あーピンヒールでの挨拶は辛いよねわかるわかると、鍛えられた表情筋の下で暢気に思っていた。

そんな時こそこそと話し声が聞こえる。
何を話しているのかなと耳を澄ませると聞こえてきた単語にレルリラという言葉があった。

(そういえば参加してるのかな?まぁしてるよね、聖女様を守る特務隊に所属してるんだもん)

実際に参加してるのは私だから守る必要はないけど、それは秘密なわけだから特務隊として参加は必須。
ならレルリラはどこにいるのかなと私はゆっくりと視線を動かした。

そして視界に飛び込んできた光景に私は驚く。

振り返った先に並ぶ二人の男女。
エスコートしているのだから当然のことなのに、それでも私のよく知っている男性の腕に手をまわしている女性との姿が信じられなかった。
夢でも見ているのかと思ったくらいだ。

だって”あいつ”はそんなことに興味がなかった筈だから。
だからこそ、誰の誘いも一切受けずにトレーニングばかりしていた。
私と一緒に。
毎日、トレーニングばかりしてきたんだ。

エルシャさんによって鍛えられたはずの表情筋が強張る。
私は思わず俯こうとしたが、それだと不自然な為に、少しだけ顔を下に向け視線を落とした。

落ち着け、落ち着け。
レルリラだって貴族なんだから、一人で参加するわけがないでしょ。

そう思っていても胸がドキドキと大きく鼓動し、息苦しさを感じる。
なんでこんなに動揺しているのかわからなかった。

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