恋愛初心者の恋の行方

あおくん

文字の大きさ
216 / 256
冒険者編②

14 これからのこと②

しおりを挟む
「そうだな。ヴェルナスのいう通りだ」

アルヴァルト殿下はそういうとパラパラと捲るだけだった本を持ち上げて、適当な場所を開いた後書かれていた本、いや日記の内容を読み上げた。

「『初めて魔物を見せられた。怖かった。
地球では辞典でもテレビでも見たことがない生き物の見た目をしていたことは勿論だけど、でもそれ以上に怖かったのはこの国の皆が瘴気とよんでいた悪霊が、悪霊の数がもっと怖い』
『いくつもの恐ろしい顔が魔物に纏わりついて、悪霊たちは私に手を伸ばしてくる』
『アレに触れられたくない。呪われたくない。なのに王子たちは私の背中を押す。魔物に近づいて浄化しろと命じてくる。アレに必要なのは聖女でも何でもない。悪霊を祓ってくれる霊媒師だ!』
『誰もわかってくれない。説明しても私がおかしいもののようにみてくる。黒いもやのようなものが見えるということは、みんなが悪霊を見えているということなのに、誰も私の話を理解しない』
『苦しい…、本当にこれが正しいやり方なの?私の体が私の物じゃなくなる感覚、そして私にこの国の人達が言う浄化という除霊のやり方をするたびに、私の心がなくなっていく気がする。あぁ、帰りたい。家に。国に。元の世界に。日本に帰りたい』」

読み上げられたその内容は、ところどころわからない単語があったけど、それでも嫌がる聖女様の心情がよくわかる内容だった。

「時系列から考えると、これはまだ浄化の試験段階中だろう。まだ浄化に出向いてもいない段階で、聖女様はこれだけの疲労を精神的にも、そして肉体的にも受けていたと考えられる」

そして続けて読み上げられた内容は、聖女様の護衛として選ばれた者たちとの旅の様子だった。
私が見た夢のように、まるで世話係のような召使い扱いからどんどんエスカレートして、遂には奴隷のように扱われていく聖女様の心境が綴られていく。

そんな中で恐る恐るといったように手を上げる者が一人いた。
アルヴァルト殿下に名を呼ばれたその騎士は、胸に手を当て立ち上がるとちらりと私に視線を向けるとすぐにアルヴァルト殿下に向き口を開く。

「聖女様が虐げられていたことはわかりました。そして第二王子の発言により、聖女様を伴いこれから魔国へと瘴気の魔物の調査をする必要があるということも。
ですが、何故騎士団でもない彼女がこの話し合いに参加しているのですか?
聖女様を守るために、今日は身代わりとしてパーティーに参加したと伺ってはいますが……」

なるほど。
さっきから攻撃的だなと思ってはいたけれど、私がこの場にいること自体が気にくわないと、そういうことかと悟った。
それでも私はレルリラの同行者として行動することを許されている。
ということは、特務隊の任務にも同行してもいいはずだ。
第一私だって聖女様を守りたい。
今の聖女であるヤマダ マコ様を魔の手から守りたいと、本気でそう思っている。
だから許されるのであれば魔国へだって着いて行きたいと考えているのだ。

「そもそも、記憶の魔物の件も本当かわかりません。虐げられたといわれる事実と同じだったからといっても、その女性が先に聖女様が残していた日記を見たという可能性はないのですか?」

「確かにそうですね。聖女様、そして王族と関わりたいからと平民が考えそうなものです。あらかじめ内容を把握し、それを闇市場に流してから得ていた内容を伝えたと考えてもおかしくはないのではないですか?」

敵意を向ける騎士にレルリラが反論する。

「……日記は聖女様の世界の言葉で書かれていましたが?」

「それはそうだろう。聖女様が残したものだからな」

「その言葉は王家で保管している書物とは違う言語だった、と言っても?」

「なっ!」

「そんな聖女様以外誰も知らない言葉を平民の彼女がどのように知り、どのように読み進めたというのですか」

レルリラの言葉に騎士の人は悔しそうにしながら口を閉ざした。
そして視線はアルヴァルト殿下に向けられる。
アルヴァルト殿下は「はぁ」とわざとらしく息を吐き出すと、「仕方ない」と口にした。

「パーティー会場でわかったと思うが、彼女は聖水を作れるんだ」

「聖水を!?」

驚く騎士の方々に私も驚く。
同行者という存在を知っているのに、私が聖水を作れること知らなかったの!?というか、聖女様の代わりに私が参加したことを知ってるのなら、あの瘴気の魔物だって私が浄化したとわかるでしょう。
この人たちは一体私のことをなんだと思ってるのか。
色々情報共有されてなさすぎなのではないか?
こんな杜撰な体制で本当に聖女様を守ろうとしてきたのだろうかと不安に駆られた。
それでも新人であるレルリラがいるということは、きっと実力主義なのだろう。
そうじゃなかったらどんな人選をしているのだろうかと不安だらけだという視線を思わずアルヴァルト殿下に向けてしまうのも仕方ないことだよね。

「こんなただの平民が聖女様の子孫だとでもいうのですか?!」

それはどういう意味だと反論したくなるのを私はぐっとこらえる。
以前レルリラから聖水を作れる聖女の子孫は身分がしっかりとしていると聞いたから、”ちゃんとした家柄”を持った人たちしか聖水を作るものがいないのだろう。
それこそ私の存在に意を唱えるくらい守りたくなるほどの。

「……どの家系が関わっているのかはまだ調査段階だが、聖水を作れるということから、彼女の存在は君たちよりも十分に重要な立ち位置になることはわかるよね」

にっこりと笑みを見せたアルヴァルト殿下に、流石にこれ以上騒ぐことはなかった。
というか、これ以上言ってみろ?ああん?という副音声が聞こえてきたのは私の勘違いだったのかもしれない。

「さぁ、情報共有も済ませたことだし、まずは魔国へと向かう人選だ。
特務隊からはラルク・レルリラ、ピエール・クロード、トマ・ウィルム、そしてヴェルナス・レルリラの四名。残った二人には少々酷だがいない間民を守ってやってほしい。
そして冒険者サラ・ハールに私、最後に聖女山田 眞子嬢だ」

アルヴァルト殿下が選んだ人選に私は思わず立ち上がった。
そして聖女様が参加することに意を唱えると、アルヴァルト殿下ではなくヤマダ マコ様自身が口を開いた。

「ハールさん、これは私からの希望でもあります」

微笑むヤマダ マコ様に私は困惑する。
だって聖女様は”力がない”と言っていた。
浄化の力だけではない、この国なら誰もが使える魔法の力も聖女様にはないのだ。
それなのに危険な場所に向かう必要はない。
というか向かってはいけないだろう。危険すぎる。

「も、もしかして聖女様の役目だから、ですか?それなら私が髪色を変えて…」

「違うんです。私も役に立つことが出来ると、そう思ったからです」

聖女様の言葉の意味がわからず、じっと見つめていると隣から手を引かれる。
「座れ」と小さく促され、私が腰を下ろすと聖女様は話し出した。

「瘴気の魔物は召喚されてきた聖女たちの魂を狙っている。そういう話だったと思います。
実は私、霊感が……あ、亡くなった人の魂を見ることが出来るのです。魂を狙っているのなら、まだ取り込まれていない魂を見つけ守ってあげることも対処の一つ。
だから着いて行きたいと願ったのです」

ニコリと微笑んだ聖女様は、まるで前から覚悟しているかのように不安も、焦りも見えなかった。
私は「他に言いたいことは?」と問われ、渋々ながらも「いいえ」と否定する。

「では人選はこれでいいね。出発は明後日だ。それまでに各自準備をしておくように」

以上だ、と話は終わり退出していく。
「足を引っ張るなよ」とかなんとか悪態を着く人が二名ほどいたが、誰に向かって言ってるんだと私は苛立ちを思えたまま「お互いにそうならないように気を付けましょう」とだけ返しておいた。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?

小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。 しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。 突然の失恋に、落ち込むペルラ。 そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。 「俺は、放っておけないから来たのです」 初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて―― ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する

五色ひわ
恋愛
 エミリーが多勢の男子生徒を従えて歩いている。王子であるディランは、この異様な光景について兄のチャーリーと話し合っていた。それなのに……  数日後、チャーリーがエミリーの取り巻きに加わってしまう。何が起こっているのだろう?  ディランは訳も分からず戸惑ったまま、騒動の中心へと引きづりこまれていくのだった。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

【本編大改稿中】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...