恋愛初心者の恋の行方

あおくん

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冒険者編③

12 聖女の存在②

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「サラ・ハール、まず初めに君が聖女ではないことを伝えておこう」

アルヴァルト殿下はそう言った。

私は首を傾げて殿下をじっと眺めることしかできなかった。

色々な事情が私が聖女なのではないかと伝えているから、そう告げる殿下の心が本当に思っていることなのかがわからなかった。
でも殿下の言葉は聖女が不必要な存在であるというわけではない。
眞子さんが召喚された事実が、その証拠だからだ。

「まず、先程ヴェルナスが話した瘴気の浄化に対しての推測が正しければ、歴代の聖女たち、そして眞子嬢には謝りきれぬが、それでもこれ以上国が脅威になるようなことにはないと考えている。
勿論きちんとした検証後に判断するべきことだが、推測通りならば今後も聖女が必要になることはない」

だが聖女召喚については私の意見だけではどうにもできない、とアルヴァルト殿下は言った。

確かにレルリラの話の通りなら、今後異世界の人が聖女様として呼び出される必要性はなくなるだろう。
後は王様が許可してくれれば…と願いながら、それでももう聖女として召喚された眞子さんが苦しむことはないと考える。
私はひとまず安堵しながらも、続けて話すアルヴァルト殿下に目を向けた。

「次に聖女召喚で呼ばれた者は君ではなく、山田眞子嬢だからだ」

アルヴァルト殿下は言った。
聖女召喚の魔法陣には、瘴気の魔物対策の為に必要な力を保有している者を召喚しているのだと。

それがどんな召喚内容なのかは魔法陣を見たことがない私にはわからないけど、確かに召喚魔法で召喚されなかった私が聖女なわけがないと思い直す。
それでも疑惑は晴れないが。
でももし私が聖女だったのならば、眞子さんはどうなるのだろうと考えると、私が聖女であることなんて議題はそもそもなくしてしまったほうがいいとも思えてきた。
そもそも殿下の言う通り召喚術によって呼び出されなかった私は、瘴気の魔物に対する人物ではないことは明らかなのである。

ちらりと眞子さんに目を向けると、眞子さんは私を真剣に見つめ、にこりと微笑んだ。
安心して、と告げているかのような眞子さんに私は口をつぐむ。

もしかして眞子さんは全部わかってた…?

王子が話している他に動揺を見せる人物はいない。
ならこの場にいる人たちはすでに真実となる事実を知っていたのか。

今更ながらだが、いくら聖水を作れるからといっても、平民の一介の冒険者を調査メンバーに加えたりしないだろう。
私は私の隣に座るレルリラをみあげると、レルリラは気まずそうに目を逸らした。
そのレルリラの仕草で私はレルリラが嘘をついたのだと悟る。
いつレルリラが嘘をついたのかというのなら、私が聖女ではないと、断言したあの時だ。

「”聖女なんていう特別な存在は元からいない”、魔物たちが告げたその言葉を私は、この国の将来のための言葉として受け止めているんだ」

殿下のその言葉に私は”本当の”聖女が誰なのかを、当言葉を飲み込んだ。








あれから私達は一時の休息を貰えた。
…わけではなく、とても目まぐるしい日々を過ごしていた。

まず検証の場が設けられた。
話し合った後、今後の方針について決めるためには、必要なこととしてレルリラの推測を確かめなければならないからだ。

すでに外はどっぷりと日が落ち暗くなってはいたが、それでも時間が足りないということで寝る間も惜しんで再び魔法研究所に向かったが、瘴気の魔物の数が足りず、私たちは墓地へと向かことになった。
なぜ森ではなく墓地なのかというと、眞子さんには亡くなった人の魂がみえるということがわかったためだ。
瘴気の黒いもやが魔物に取り込まれた魂の色だとしたら、瘴気の魔物を探さなくとも人の魂を探せばいいのではないかということになり、墓地へと向かったのである。

そこで私はなんとも居心地の悪い、肌にチクチクと刺さるような気持ち悪い空気を感じた。
目にはなにも見えないはずなのに、何かがあると直感で感じていたのだ。
眞子さんはビクビクと怯えながらも、私たちを案内する。
彼女の目にはなにがみえているのか、レルリラのお兄さんの腕を掴む眞子さんの手はガタガタと震えていた。
それでも初めてきた場所とは思えないほど迷わず向かう彼女は立ち止まり指をさす。
良くない魂があると告げた眞子さん。

人は同じようなタイプの元に集まるというが、魂となってもそれは変わらないらしい。
悪い考えを持った魂が複数体いると眞子さんは指さした先にいると告げ、私はその場所に少量の聖水を生み出した。
するとキラキラと何かに反応した聖水は眩い輝きを見せる。
眞子さんは「消えた…」と呟いて、私は問題なく浄化できたことを知った。
その後はレルリラのお兄さん、アルヴァルト殿下と続き、皆が浄化できた事を確かめた。
勿論瘴気の魔物に効果があるかは分からないが、それでも魂を浄化できたことが知れたことで次の行動に移れることと判断する。

まず私は一冒険者として、聖水を生み出せるという力から瘴気の魔物討伐に参戦したことを明らかにすることを告げられた。
瘴気を浄化できる者が二人いることから、魔国の森では二手に分かれ行動した。
その結果国全体に張られた結界に気付き、結界の解除に努めたこと。
その結界が私達の魔法に干渉していることも含め明らかになったが、洞窟の神殿で出会った魔物の存在については伏せることを決めた。
今まで魔物が張った結界に気付かなかったことが明らかになれば、国の頂点に立つ王様の尊厳にかかわるからだ。
ではその結界は何のものだったのかという説明が求められるだろう。
事実と異なることになるが、初代聖女様が民を守るものとして張った結界だということ、死の間際だった為に詳細が伏せられていたことにすると決めた。

次に聖女である眞子さんのことだ。
浄化の力は使えるが、その力は不安定なものだと決めた。
はっきり使えないと言ってしまえば、パーティーの際に見せた浄化は誰のものかと疑われ、顔が似ている私に飛び火するからだ。
平民の私が王族、そして貴族たちを騙したこと。
また浄化の条件が本当に“敬う心に対しての力”であるのなら、国を救うために召喚された眞子さんに使えないはずがないと反感が生まれないようにするためだ。
勝手に呼んでおいて、しかも魔法の力もない人に何を言っているのかと思うが、言いたいことを適当に口にする人たちにはそんな常識は伝わらない。
だから浄化の力の条件も伏せることで、眞子さんに力はあるがそれを確かめる場を与えられても言い訳ができるように決めたのだ。
だが眞子さんには瘴気の元になる源が見えるということを発表することに決めた。
これも結界の影響で以前はあまり見えていなかったが、結界がなくなったことで見えるようになったこと。
そして聖女の子孫だけではなく、普通の人にも対応が可能ということが判明したのだと、眞子さんの力によってわかったことと決める。

『……いいのですか?手柄を横取りして』

眞子さんがレルリラに話しかけた。

『構いませんよ。貴方には聖女としてい続けて貰うつもりですから』

でしょう?とレルリラがアルヴァルト殿下に尋ねると、殿下は『そうだな』と告げる。
聖女じゃなくても瘴気を浄化できるというのに何故?と首を傾げると同時に、やっぱり眞子さんを聖女ではないと考えているのだなと私は思っていた。

『平民の魔力コントロールが弱いからだ。例え能力があるとしても属性魔法と治癒魔法、両方を同時に発動しなければ浄化はできない』

『……あぁ、教育水準を上げる必要があるってことね』

私は納得した。
確かに平民の魔力値は低い。
それを補うために物理攻撃の術を持っているけど、魔力値を上げようとする人は少ないんじゃないかと思うほどに魔法を極める人は少ない。
だから浄化できる条件に当てはまったとしても、環境を整えなければ結局聖女が必要だという声が上がってしまう。
その為に眞子さんには聖女として居続けてもらうために功績を積んでもらわなければいけない。
それも浄化とは違う功績を。

でも私はそれで本当にいいのだろうかと考えていた。



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