拾われた孤児は助けてくれた令嬢に執着する

あおくん

文字の大きさ
16 / 26

アレン視点④

しおりを挟む



暫く時間が経つと客室へ案内してくれた人じゃない違うメイドが現れた。
そして護衛も兼ねている俺をミレーナ様から引き離そうとするメイドに不信感を覚えた。

「……今回のお茶会は男子禁制と伺っております。
他の令嬢たちもその旨を了承しており、男性の従者については別室でお待ちいただいています。
どうかご了承願います」

その言葉と心の声に齟齬がないことを確かめた俺はミレーナ様に判断を任せた。
正直に言えば離れたくはない。
ミレーナ様を守るために筋肉をつけ、体を鍛えた。
そしていかなる武器の扱いも学んだ。

「…大丈夫よ、私行ってくるわ」

不安そうに告げるミレーナ様。
心の中では【他の人も承諾しているのだから私だけわがまま言ってはいけないわ】と告げていた。
離れたくはないがミレーナ様が受け止めているのならこれ以上俺に言えることはなかった。

「何かありましたら声を上げてください。ミレーナ様の声なら聞き漏らしません」

これは本当のことだ。
心の中の声が聞こえると知ってから、俺はこの特性を伸ばすことも視野に入れていた。
知識を蓄えても、体を鍛えても、ミレーナ様に迫る危険に間に合わなければ意味がない。
だからこそ能力を伸ばした。
俺のこの能力は旦那さまと執事のセバス様にだけ伝えている。
あの女の家から来た引き抜きを断る際に二人に告白した。

(ミレーナ様には伝えられていないが…)

この能力をミレーナ様が知ったとき、どう思われるのかが怖かった。
『心の整理ができたら、ミレーナにも話してあげなさい』
と告げた旦那様に俺は頷くだけで、心の整理なんていつまでも出来そうになかった。

「ふふ、それならとても頼もしいわね。
任せて、鍛え上げた肺活を聞かせてあげるわ」

少しでもミレーナ様の不安が薄まったことを悟った俺は、冗談のように告げられた言葉に笑みを浮かべた
上手く笑えているかわからないが、ミレーナ様の肺活は確かにある。
普通の令嬢よりも大きな声も余裕で出せるだろうことを知っている。
だから、…というわけではないが、なにかあったらすぐに助けに向かう自信がある。
だけど傍を離れるのは心苦しかった。

そして俺はミレーナ様を見送り、他の令嬢たちの護衛たちと合流するため別の案内の者についていったのだった。




「どういうことですか、これは」

案内の者についていった先には、今頃ミレーナ様と茶会をしているだろう主催者がいたのである。
俺は困惑しながらも、女の心の声、そして周りの心の声を聞いた。
そして知る。
【何故こんな男のために】と妬む声。
【どうせ顔で選んでいるのだろう】と侮る声。
女の声はわざわざ耳を澄ませて聞かなくてもわかった。
自ら口にし始めたからだ。

「どういうこと?それはこちらのセリフよ。
バルオット侯爵家からの誘いを断るだなんてそんなこと許されないもの。
だから貴方が自ら来たいと懇願するように機会を設けた。それだけのことよ」

家の力が通じないことを理解した女は、実力行使にでたようだった。
俺を痛めつけ、逆らえない環境に陥れ、そして自ら望むように。
その気もないのにミレーナ様に謝罪の為と偽りの言葉を並べ、持て成す気持ちもないのに茶会へと呼びつけたのだ。
この女は。

【え…?】
と呟く声が背後から聞こえた。
俺をこの部屋に案内した者の声だ。
どうやらこいつだけは詳細を知らされていなかったらしい。

だから気づかなかった。

女の指示で部屋で待機していた男たちが同時に剣を抜いた。
痛みつける、というのはある程度動けなくなるほどの負傷を負わせるというような意味なのだろうと理解した。

ならば俺も手加減しない。

胸ポケットに常備しているペンを取り出す。

「ハハ!この男ペンなんて取り出してどうする気だよ!」
「もう降参か?それでサインでもするつもりかよ」

好き勝手言いながら嘲笑う男たちの声に俺は口端を上げた。

「弱い奴ほどよく喋るな。自分で実力がないと言っているようなものだぞ」

笑っていた男たちは顔色を変えた。
怒りに染まった男たちに俺は消えない余裕を見せつける。

一斉に斬りかかる男たちに俺は構えた。
【ヒィ!】と心の中か本当の声なのか怯える声を小さくして足に力を入れて床を蹴った。

死ぬのなんて怖くないと昔は思っていた。
だがミレーナ様と出会い、ミレーナ様に尽くそうとそう決めた俺はミレーナ様だけに忠誠を誓った。
強くなるために仕方ない事とはいえ傷ついた俺の姿にミレーナ様は悲しんだ。
擦った肌の傷にも、青く色づいた肌にも、ミレーナ様は悲しんでくれたのだ。
『無理はしないで』と綺麗な心でミレーナ様は俺に願った。願ってくれた。
俺は強くなった。
ミレーナ様の剣になるために、ミレーナ様の盾になるために。
これから先の人生をミレーナ様と共にいる為だけに強くなった。
そして今もう死ぬのが嫌だと考えている。
死ぬのだけは嫌だと思っているんだ。

こんな男たちに負けることも、こんな女の元につくこともそうだが、ミレーナ様に悲しい顔をさせることが一番嫌だ。一番したくないことなのだ。

冷静な頭の中、男たちの心の声に耳を傾け、斬りかかる剣を次々と躱していった。
そして人の急所となる部分にペンを食い込ませる。
次々と倒れていく男たちに、女は顔を引きつらせていった。

【そんな…!この“キャラ”はこの時点では“まだ”弱い筈よ!
ここまで強くなっていないはず…!それなのに何故!?】

心の中の女の声を聞き、俺はペンを胸ポケットへと戻した。

どうやらこの部屋に案内したメイドが何も知らなかったのは、俺に対する対策ではなかったらしい。
ミレーナ様の推測では、アイテムを介して…という誤った部分があったが俺が心の声が聞こえることをこの女は知っている。
だがそれがいつからなのかを知らないようで、寧ろ最初から聞こえているという事実なんて予想もできていないようだ。
そして俺が自分の能力を活かすことも、強く体を鍛えたこともまだ先だと考えていたらしい。

それならもういい。

(こんな汚い奴の声なんて聞きたくもない…)

人を人として見ない。
ミレーナ様が推測したようにこの女は初めから“作品のキャラクター”としか認識していないのだ。
俺の気持ちも、ミレーナ様の気持ちも、周りの気持ちも理解しようとしない。
そんな女の声などもう聴きたくなかった。

そしてまだ扉付近で待機しているだろう案内人のメイドへと振り返り平然と告げる。

「それで、他の令嬢たちの護衛たちがいる部屋はどこでしょう?
まさかここではないですよね?」

ガタガタと震えていた女は何度も頷き、自分の主であるだろう女の指示を仰ぐことなく部屋を出た。

(このメイドも、仕える人を間違えたようだな)





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

処理中です...