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アレン視点⑤
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学園の催しである長期休暇前のパーティーに必要なミレーナ様のドレスを注文するため、俺はミレーナ様と共にブティックへと向かう途中の事だった。
「アレンの洋服も買いに行きましょうよ!」
閃いた!という雰囲気を装っているミレーナ様だが、心の中では【最近アレンに洋服をプレゼントしていなかったし、そろそろ買ってあげたい!どんなデザインがいいかなー?色も黒ばっかだしたまには違う色もいいと思うんだよね!】と考えていることが手に取るように分かっていた。
「私には不要です」
「ええ!?ここ何年もアレンの服を買っていないのよ!?
この機会にアレンも新調しておくのがいいと思って言っているのよ?」
俺が拒否すると心の中で考えていたことに近い内容のセリフが返される。
ミレーナ様は基本嘘はつかない。
裏表のない人物なのだ。
たまに可愛らしいお茶目な悪戯のために嘘をつく程度で、基本的に嘘はつかない。
そんなところも好感が持てる。
傍にいてとても居心地がいい女性だ。
ミレーナ様の要望なら全て叶えてあげたいと思うのは自然の事だった。
だがそれは今じゃない。
というか、ミレーナ様の為になるようなものであればが前提で、今回のミレーナ様の願いは俺の為になることだ。
しかもここ何年も、とミレーナ様はいっているがこの洋服だって二年前にお作り頂いたもの。
既製品ではなく、わざわざ特注で。
「今履いているこのズボンも上着も裾はまだまだ伸ばせますし、素材もいいので痛んでおりません。十分着られます」
「そんな……、せっかくの機会なのだからお揃いの服でもと思っていたのに…」
「え」
断るべきだとそう思っていた考えが、ミレーナ様の一言で気持ちが大きく揺らいだ。
“お揃い”。
お・そ・ろ・いだと…!?
ミレーナ様と同じ物を自分も持つことが出来る…!?
そんな光栄なことがあっていいのか!?
だが自分はミレーナ様の従者、将来は執事としてミレーナ様のお役に立つ人材にならなくてはならない。
主と同じ物を持つ資格は……
【アレンとお揃いの服を着たかったな…】
しかも服!?
………、……くっ
ミレーナ様の心の声に理性が欲望に負けた瞬間だった。
「…あ、あの……やっぱり一着だけ…」
「そうよね!?そうこなくっちゃ!!」
満面の笑みで喜ぶミレーナ様をみて、(まぁいっか)と思える。
この笑顔を守るために俺がいるのだから。
□
それからミレーナ様のドレスを注文し、ミレーナ様と俺のお揃いの服を考案する為に、デザインを担当する者と何時間も打ち合わせた。
乗馬服と言っても男に合わせたデザインと、女性に合わせたデザインは別物といえる。
しかもミレーナ様はとても可憐な容姿をしているのだ。
ミルクティー色の髪色は口に触れると甘そうで、晴天を映したような青い瞳は純粋で穏やかな印象を与えている。
抱きしめたら骨が砕けてしまいそうな華奢な体は儚げな印象だ。
ミレーナ様はまるで天使のようなのである。
そして肌も髪も瞳も黒い俺では決して釣り合うことが無い美しい存在だ。
そんなミレーナ様と俺のお揃いの服だから話し合うのも長い時間をかけた。
結局店を出たのは空が赤く色づいた頃だった。
「……なんかこんなに喋ったの久しぶりかも…」
店を出て近くに待機させていた馬車に向かう途中ミレーナ様が言った。
確かにすこしだけ声が擦れている。
「なにか飲み物を買ってきましょうか?」
「んー、じゃあお願いしてもいい?」
「畏まりました。それではすぐに戻ってきますので、馬車の中でお待ちください」
確か近くにドリンクを専門に販売している店があったはずだと、俺はミレーナ様に許可を貰ったあとすぐに駆け出した。
馬車との距離もさほど離れていない。
目で見える距離であるし、人通りもあるから飲み物を買いに行く時間くらい大丈夫だろうと、その判断を後悔した。
ミレーナ様は甘い物が好きだが甘い飲み物はあまり得意ではない。
本人曰く【前歯がむし歯になりそうな気がする】と甘いスイーツは食べるのに、飲み物は遠慮するのだ。
だから糖分が控えめで、すっきりな飲み心地が味わえるライムミントソーダを選んだ俺はミレーナ様が待っているだろう馬車へと向かった。
「…ミレーナ様?」
馬車の中には人影すら見えない。
普段なら待機するにしても必ず近くにいるはずの御者の姿すらなかった。
その時だった。
「待て!!待ってくれ!」
切実で大きな声が聞こえてくる。
そしてそれは聞いたことがある声。
レリスロート子爵家で働いている、今日この馬車を操縦してくれた御者でもある人物の声だとすぐに分かった。
俺は手にしていたライムミントソーダを地面に落とした。
そして声が聞こえる方向へと駆け出す。
「ミ、レーナ、様!!!」
息を切らせ、手を必死で伸ばした御者の姿に、俺は引き止めて簡潔に事情を聞いた。
御者も状況が思わしくない事をわかっているだろう、本当に必要なことを簡潔に伝えた。
「男が二人ッ!あの、荷馬車に、ミレーナ様が、いるんだ!」
息も絶え絶えに御者が伝えた内容、御者が指差す荷馬車を俺はしっかりと確認した。
「レリスロート家に戻り、旦那様に事情を話して兵を連れてこい」
「…は、は?」
「いいな!?」
戸惑う御者から、携帯している小型のナイフを拝借し、ミレーナ様が乗せられている荷馬車を追いかけた。
学園の催しである長期休暇前のパーティーに必要なミレーナ様のドレスを注文するため、俺はミレーナ様と共にブティックへと向かう途中の事だった。
「アレンの洋服も買いに行きましょうよ!」
閃いた!という雰囲気を装っているミレーナ様だが、心の中では【最近アレンに洋服をプレゼントしていなかったし、そろそろ買ってあげたい!どんなデザインがいいかなー?色も黒ばっかだしたまには違う色もいいと思うんだよね!】と考えていることが手に取るように分かっていた。
「私には不要です」
「ええ!?ここ何年もアレンの服を買っていないのよ!?
この機会にアレンも新調しておくのがいいと思って言っているのよ?」
俺が拒否すると心の中で考えていたことに近い内容のセリフが返される。
ミレーナ様は基本嘘はつかない。
裏表のない人物なのだ。
たまに可愛らしいお茶目な悪戯のために嘘をつく程度で、基本的に嘘はつかない。
そんなところも好感が持てる。
傍にいてとても居心地がいい女性だ。
ミレーナ様の要望なら全て叶えてあげたいと思うのは自然の事だった。
だがそれは今じゃない。
というか、ミレーナ様の為になるようなものであればが前提で、今回のミレーナ様の願いは俺の為になることだ。
しかもここ何年も、とミレーナ様はいっているがこの洋服だって二年前にお作り頂いたもの。
既製品ではなく、わざわざ特注で。
「今履いているこのズボンも上着も裾はまだまだ伸ばせますし、素材もいいので痛んでおりません。十分着られます」
「そんな……、せっかくの機会なのだからお揃いの服でもと思っていたのに…」
「え」
断るべきだとそう思っていた考えが、ミレーナ様の一言で気持ちが大きく揺らいだ。
“お揃い”。
お・そ・ろ・いだと…!?
ミレーナ様と同じ物を自分も持つことが出来る…!?
そんな光栄なことがあっていいのか!?
だが自分はミレーナ様の従者、将来は執事としてミレーナ様のお役に立つ人材にならなくてはならない。
主と同じ物を持つ資格は……
【アレンとお揃いの服を着たかったな…】
しかも服!?
………、……くっ
ミレーナ様の心の声に理性が欲望に負けた瞬間だった。
「…あ、あの……やっぱり一着だけ…」
「そうよね!?そうこなくっちゃ!!」
満面の笑みで喜ぶミレーナ様をみて、(まぁいっか)と思える。
この笑顔を守るために俺がいるのだから。
□
それからミレーナ様のドレスを注文し、ミレーナ様と俺のお揃いの服を考案する為に、デザインを担当する者と何時間も打ち合わせた。
乗馬服と言っても男に合わせたデザインと、女性に合わせたデザインは別物といえる。
しかもミレーナ様はとても可憐な容姿をしているのだ。
ミルクティー色の髪色は口に触れると甘そうで、晴天を映したような青い瞳は純粋で穏やかな印象を与えている。
抱きしめたら骨が砕けてしまいそうな華奢な体は儚げな印象だ。
ミレーナ様はまるで天使のようなのである。
そして肌も髪も瞳も黒い俺では決して釣り合うことが無い美しい存在だ。
そんなミレーナ様と俺のお揃いの服だから話し合うのも長い時間をかけた。
結局店を出たのは空が赤く色づいた頃だった。
「……なんかこんなに喋ったの久しぶりかも…」
店を出て近くに待機させていた馬車に向かう途中ミレーナ様が言った。
確かにすこしだけ声が擦れている。
「なにか飲み物を買ってきましょうか?」
「んー、じゃあお願いしてもいい?」
「畏まりました。それではすぐに戻ってきますので、馬車の中でお待ちください」
確か近くにドリンクを専門に販売している店があったはずだと、俺はミレーナ様に許可を貰ったあとすぐに駆け出した。
馬車との距離もさほど離れていない。
目で見える距離であるし、人通りもあるから飲み物を買いに行く時間くらい大丈夫だろうと、その判断を後悔した。
ミレーナ様は甘い物が好きだが甘い飲み物はあまり得意ではない。
本人曰く【前歯がむし歯になりそうな気がする】と甘いスイーツは食べるのに、飲み物は遠慮するのだ。
だから糖分が控えめで、すっきりな飲み心地が味わえるライムミントソーダを選んだ俺はミレーナ様が待っているだろう馬車へと向かった。
「…ミレーナ様?」
馬車の中には人影すら見えない。
普段なら待機するにしても必ず近くにいるはずの御者の姿すらなかった。
その時だった。
「待て!!待ってくれ!」
切実で大きな声が聞こえてくる。
そしてそれは聞いたことがある声。
レリスロート子爵家で働いている、今日この馬車を操縦してくれた御者でもある人物の声だとすぐに分かった。
俺は手にしていたライムミントソーダを地面に落とした。
そして声が聞こえる方向へと駆け出す。
「ミ、レーナ、様!!!」
息を切らせ、手を必死で伸ばした御者の姿に、俺は引き止めて簡潔に事情を聞いた。
御者も状況が思わしくない事をわかっているだろう、本当に必要なことを簡潔に伝えた。
「男が二人ッ!あの、荷馬車に、ミレーナ様が、いるんだ!」
息も絶え絶えに御者が伝えた内容、御者が指差す荷馬車を俺はしっかりと確認した。
「レリスロート家に戻り、旦那様に事情を話して兵を連れてこい」
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