拾われた孤児は助けてくれた令嬢に執着する

あおくん

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誘拐犯の災難(別視点)

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商人が荷物を運び移動する為に選ぶ大きな荷馬車が町を出てから、ガタガタと大きな音を立てながら走り続ける。
余程急いでいるのか馬を操っている大柄な男は何度も何度も馬に鞭を入れ、馬を無理やり奮い立たせていた。

「お、おい!いくらなんでも飛ばし過ぎだぞ!」

酷い操縦をする大柄の男に、隣に座っている痩せ型の男は注意を促す。
だが大柄の男は聞く耳を持たず、構わず鞭を打っていた。

「おいって!」

「うるせぇ!こちとらそれどころじゃねえんだよ!!」

大柄の男に何があったのか、また何を知ってしまったのかわからない痩せ型の男は、困惑したまま何があったのかを尋ねる。
すると男は歯噛みをしながら答えた。

「後ろだっ、追って来てんだよ。
化け物みてーな人間がな!」

「…は?」

痩せ型の男は何を言われているのかわからなかった。
だが、顔を引きつらせ汗迄流す男を見て、それが嘘でも冗談でもない事を悟った男は、振り落とされないようしっかりと馬車に捕まりながら後ろを確認した。

「ヒィ!!!!」

思わず声を上げた男に、大柄の男は舌打ちする。

「な、なんだあの男は!?」

「知らねーよ!知るわけねーだろ!
だが町を出る時気付いたんだ!物凄い形相で追いかけてくる男に!だからこうして飛ばしてんだろ!」

「それでも馬車をひいてるとはいえ、馬のスピードについてこれる人間がいるわけないだろ!?」

「だから化け物だっていってんだろ!」

二人の男は恐怖に支配された。
馬車のスピードに付いてくるほどの男の脚力もそうだが、なによりあの男の形相が恐ろしかったのだ。

生気がないと言えばいいのか、かなりのスピードで走っているにも関わらず一切乱れることもない表情。
いや、追いかけてくる男には表情がなかった。
二人の男たちはその能面のような男の顔を一瞬しか見ていない。
だがそれでも十分だった。
感情が読めない表情の裏に、殺人者と勘ぐってしまう程の冷徹さ、無慈悲さが伝わってくる。
二人の男の脳裏には恐怖以外の適切な言葉が思いつかなかった。

それから男たちは一切振り向くことはなかった。
振り向く勇気がなかったともいえよう。
ただひたすらに馬を走らせ続け、そして少女の誘拐を依頼した依頼主が待つ小屋へと向かった。





「おい、……あいつはいるか?」

「…………いや、見えない」

小屋までの距離が近くなった頃、大柄の男は尋ねた。
そして痩せ型の男は緊張した面持ちで周囲を確認する。
じっくりと周りを見渡し、人影が見えない事を確認してほっと安堵の息をついた。
大柄の男はその言葉を聞いてやっと体から力を抜き、馬に鞭を打っていた手を止める。

「…ハハ、さすがにここまで追ってこれるわけねーんだよ。
どれほどの距離があるとおもってんだ」

「確かにな、あのスピードで走れたとしてもすぐに息切れるのはわかりきったことだ」

そう互いに言い合っている男たちだが、馬のスピードを落とすことはしなかった。
早く小屋に着きたい。
早く終わらせたい。
早く帰りたい。
その一心で小屋へと続く道を走らせた。

そして目印が見えたところで馬車を止めた。
馬は長距離を無理やり走らされたことで舌をダランと垂れ下げ、ダラダラと涎を流していた。
もう少し無理させていれば転倒すら起こしていたかもしれないと知った男はゴクリと息をのむ。
だが、このまま放っておいてもどこかにいくような、そんな余裕はなさそうだと感じた痩せ型の男は大柄の男の肩に手を置いた。

「おい、早く済ませるぞ」

「…ああ」

馬を走らせただけで自分が走っていたわけではないはずなのに、ガクガクと震える体を自覚した男はパンと自分の頬を叩く。
正気を取り戻した男は痩せ型の男と共に、馬車の中に入っていった。

「お、起きているじゃねーか」

「あの走行で寝てられる奴なんているかよ」

吐き捨てるように告げた言葉は正直な気持ちを言っていた。
少女が起きているということは、口元を塞いでいる為叫ばれることはないが、それでも逃げようと暴れられれば小屋に運ぶのも苦労する。
そして例え睡眠剤を少女に嗅がせたとしても、あの乱暴な運転の中では起きてしまうだろうとも思っていたのだ。
本来であれば顔を見られないうちに攫い、そして静かに小屋へと運び込む。
一切姿をみられることなくスムーズに行うことが、貴族からの依頼を受ける上での守るべき暗黙のルールだったのだが、今回ばかりはそうはいかなかった。
イレギュラーな存在がいた。
依頼主からは【一人の時に攫う事】と指定があったが、それは普通の当たり前の条件だった為に気にもしていなかった。
まさかあんな化け物がいたとはと二人は今更ながらに依頼を引き受けたことを後悔した。
だが今更引き返すことは出来ない。

「は!ちげーねぇな!」

「お前がいうなってんだよ!」

それでも二人は笑いあった。
乾いたような笑いだったが、恐怖を少しでも薄れさせたかったのだろう。
男たちはさっさと少女を小屋へと連れて行った。
撒いたとはいえもしかしたらすぐそばにいるのではないかという不安が、恐怖が、一刻も早くここから去りたいと思わせていたのだ。

小屋の扉を開けた。
すると小さな灯の近くに、小柄な体形の人がフードを目深に被って待っていた。

「ちょっと、随分早かったじゃない」

その発せられた声から、依頼主は随分若い女性だということが予想できた。
なにも社会の厳しさもわからなそうな、そんな若々しい声だ。
二人の男は舌打ちをしそうになったところをスンでて止めた。

「わりいな。変なやつに後つけられてたんだ」

そういった大柄の男に依頼主である女が食い掛る。

「え、なによそれ。追手を連れてきたって事?」

「連れてきてたらこんな暢気に話すわけねーだろ」

そうは言っても男たちはここから早く逃げ出したかった。
そして女から金を受け取った男たちは平然を装いながらもすぐに小屋から出ていく。

一歩二歩と歩いていた歩みは、駆け足に変わった。

「おい、早く、早く逃げるぞ」

「ああ!」

ガサガサと草むらをかき分けながら、来た方向とは真逆の方向へと足を向けた。
これなら絶対にあの化け物と鉢合わせる事なんてないと、男たちが考えた結果だった。

だが目の前に見える一つの人影に、先頭を走っていた男の足が止まる。

「おい、どうしたんだよ…」

「あ、あれ…」

「は…?」

大柄の男が震える手で差し示した先を痩せ型の男が確認した時だった。
目と鼻の先に人がいた。
あの時見た化け物だ。

「ミレーナ様に危害を加えた者を生かしておくと思っているのか」

感情のない瞳に、抑揚のない声が二人の男の耳にこだました。






その後の二人の姿は誰も目にすることはなかったが、レリスロート家の騎士たちが森を捜索したとき金貨の入った袋だけが発見された。



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