【完結】転生ヒロインに婚約者を奪われた私は、初恋の男性と愛を育みます

あおくん

文字の大きさ
26 / 92

26 選択①

しおりを挟む
「ま、待ってよ!私あの三人から選ぶつもりなんて…」

「ないのですか?一週間とはいえ私の目にはアリス様は三人に特別な感情を寄せているように見えていたのですが……」

「そ、それは物語上仕方なく…」

「物語?」

「あ、違くて…だから私は……」

アリスは口ごもり、話を止めた。
おろおろと視線を彷徨わせ、この展開をどう切り抜けようかと考えている様子にも見える。
そんなアリスの様子をみたアリエスは口角をあげていた。
だがアリスの言った“物語”という言葉の意味は分かっていない。あくまでも、アリスの目的の相手はこの三人にはいないという事実と、三人から選ばないということが重要だった。

アリエスはマリアとキャロリンに目配せするとマリアたちは立ち上がり、アリエスと共に今は誰もいない食堂の配膳スペースへと深く頭を下げた。
アリスとカリウス達は不思議そうな面持ちでアリエス達を眺めたままだったが、それもすぐに驚愕に包まれる。
誰もいない暗い空間だったそこから、思いもよらなかった人物が現れたからだ。
将来自分たちの主となる王太子殿下とその婚約者エリザベス・シャンティ公爵令嬢だ。

男たちの中でも一際顔を青ざめさせたのは宰相候補であるカルンだった。
頭のいい彼には今後の展開が痛いほどすぐに思いつくからだ。
反対に王太子殿下の登場に驚きはしたが、それだけだったのはアリエスの元婚約者であるカリウスだ。

「……婚約解消については私の方からも手続きが早く済むように告げておこう」

王太子殿下はエリザベスがアリエスから婚約解消の書類を受け取るのを横目で見つつ、しっかりとサインの書かれたそれに目を通しそう告げた。
そんな殿下の言葉にカルンは息を飲む。
この場に彼らが足を踏み込んでから誰一人入ってくる者はいなかったということは、最初から殿下は食堂の何処かに身を隠していたということ。
食堂は確かに身を隠すのならば最適な場所だが、それでも広さの所為で食堂の中心部分で話していた会話がどこまで殿下に聞こえていたのかまでは推測できなかった為、カルンは内心恐怖を抱きながらも探りながら話を重ねていけば大丈夫だろうと考えていたのだ。
何故なら殿下の側近として、カルン達は婚約者であるエリザベスよりも常に殿下のそばにいた。
そして貴族社会に慣れていないアリスのことを、たまにでいいから気にかけてあげるように頼まれていたから。
だが今殿下のそばにはエリザベスがいる。
アリエス、マリア、そしてキャロリンの友人であるエリザベスが殿下の側にいて、しかもこの婚約破棄を訴えられた場所にいるということは、明らかに自分たちの今までの行動が筒抜けになっていることを表していた。
アリエスがカルン達の行動の結果となる証拠を消すと言っても、将来の主である殿下に伝わっていると思われる今となってはもう遅かった。

(……くそ!サインなんてしなければよかった…!それならばまだ言い訳が出来ていたはずなんだ…!)

カルンは悔しそうに歯を食いしばり顔を俯かせる。
そんなカルンは殿下が次に告げる言葉に、俯かせたばかりの顔をすぐに上げることになった。

「令嬢達には悪いが、彼らにチャンスを与えてもいいだろうか?」

「で、殿、下…」

思ってもいなかった王太子の言葉にカルンは涙を薄く浮かべながら言葉を漏らす。
カルンの言葉は小さすぎて王太子には届くことがなかったが、両隣にいるロジェとカリウスには届いていた。
ロジェはカルンと同様に縋るような眼差しを王太子へ送っていたが、カリウスは隣にいるカルンに小さく呟く。

「結局アリスは誰を選ぶんだ?」

カルンは感極まっていた感情が一気に静まり、カリウスを信じられないという眼差しで見つめた。
それもそのはず。婚約者を、いや、元婚約者を放置し、一人の女性に入れ込んでいたという事実と、先ほどの女性に対する発言をそのまま殿下に聞かれているかもしれないこの状況で、今後側近として殿下の隣に立てるかわからなくなった今、期待という感情が王太子に注がれることはあっても、アリスの選択なんて今の時点では然程重要ではないのだ。
それにもかかわらずカリウスは王太子よりもアリスの選択に胸を躍らせている。



しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

平民だからと婚約破棄された聖女は、実は公爵家の人間でした。復縁を迫られましたが、お断りします。

木山楽斗
恋愛
私の名前は、セレンティナ・ウォズエ。アルベニア王国の聖女である。 私は、伯爵家の三男であるドルバル・オルデニア様と婚約していた。しかし、ある時、平民だからという理由で、婚約破棄することになった。 それを特に気にすることもなく、私は聖女の仕事に戻っていた。元々、勝手に決められた婚約だったため、特に問題なかったのだ。 そんな時、公爵家の次男であるロクス・ヴァンデイン様が私を訪ねて来た。 そして私は、ロクス様から衝撃的なことを告げられる。なんでも、私は公爵家の人間の血を引いているらしいのだ。 という訳で、私は公爵家の人間になった。 そんな私に、ドルバル様が婚約破棄は間違いだったと言ってきた。私が公爵家の人間であるから復縁したいと思っているようだ。 しかし、今更そんなことを言われて復縁しようなどとは思えない。そんな勝手な論は、許されないのである。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

婚約破棄されたので、聖女になりました。けど、こんな国の為には働けません。自分の王国を建設します。

ぽっちゃりおっさん
恋愛
 公爵であるアルフォンス家一人息子ボクリアと婚約していた貴族の娘サラ。  しかし公爵から一方的に婚約破棄を告げられる。  屈辱の日々を送っていたサラは、15歳の洗礼を受ける日に【聖女】としての啓示を受けた。  【聖女】としてのスタートを切るが、幸運を祈る相手が、あの憎っくきアルフォンス家であった。  差別主義者のアルフォンス家の為には、祈る気にはなれず、サラは国を飛び出してしまう。  そこでサラが取った決断は?

『「女は黙って従え」と婚約破棄されたので、実家の軍隊を率いて王都を包囲しますわ』

放浪人
恋愛
「戦場の銀薔薇」の異名を持つ天才的な軍略家、ヴィクトリア・フォン・ローゼンベルク公爵令嬢。彼女は、王国最強と謳われる東部辺境領主の一人娘として、故郷と民を深く愛していた。 しかし、政略結婚の婚約者である第一王子アルフォンスは、彼女の才能と気高さを妬み、夜会の席で公然と侮辱する。 「女は黙って従え」 その一言と共に婚約指輪を奪われたヴィクトリアは、もはや偽りの淑女を演じることをやめた。彼女は、腐敗しきった王家と国を内側から変革するため、たった一人で戦うことを決意する。 故郷ローゼンベルクへと帰還したヴィクトリアは、父であるゲルハルト公爵と、彼女を女神と崇める領民たちの絶大な支持を得て、ついに反旗を翻した。その圧倒的なカリスマ性と軍略の才は、瞬く間に領地を一つの強固な軍事国家へと変貌させ、周りの辺境諸侯をも巻き込んでいく。 一方、王都では聡明な第二王子エリオットが、兄と宰相の暴走を憂い、水面下でヴィクトリアに協力する。二人の間には、国の未来を憂う同志としての固い絆が芽生え、やがてそれは淡い恋心へと変わっていく。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

処理中です...