82 / 92
82 断罪
しおりを挟む「……何故、このような状況になっているか、わかるか」
怒りが孕んだかのような低い重低音がイマラの耳に響く。
以前は主でもあったセドリックにイマラは伏せた顔が上がらなかった。
なにも答えず小さく震えるイマラにセドリックは「質問を変えよう」と告げる。
「お前が産んだ子と私とで血縁鑑定を行った。その結果赤の他人、つまり血縁関係がないことが分かった。これに対してお前の知っていることを話せ」
淡々と話すセドリックの言葉に、イマラだけではなく他の使用人にも戸惑いの色が見えた。
それも当然だ。
ユージンはイマラに知られないよう水面下でひっそりと調査を進めていたのだ。
知っているのはユージンと祖父母、そしてセドリックの他に、実際に調査を依頼するように指示をだした執事と、情報を持ってきたユージンの従者たちだけである。
その為、今までセドリックの子息だと思い世話をしてきた使用人は戸惑いの色を見せたが、すぐに意識を切り替える。
ナルシスと似ても似つかないイマラ。
六年という長い間素直で愛らしくて他人を気遣う優しさを持つナルシスに仕え、ずっとお世話をしてきた自分たちにとってナルシスは自慢の主だ。
養子として子を引き取れば血の繋がらない家族が出来上がるな。
今更血が繋がっていないことがわかったとしても、イマラと結婚したセドリックの息子だということは確実で、離縁したあとだってセドリックがナルシスを追放しなければ、これから先も自分たちの主であることは変わらない。
使用人たちはそのように考えた。
セドリックの言葉に思ったよりも混乱の波が小さかったことにユージンは安堵する。
今この場にナルシスはいないが、それでもこれから先ナルシスを世話する使用人たちが、血縁関係について知らないのは後々面倒しかなかったからだ。
どうせなら、尾ひれはひれもつかない状態で真実を知ってもらい、その上でナルシスに仕えてもらいたいと考えていたため、すぐに我に返り頼もしい表情をする使用人たちの姿を見て自然と口角があがった。
「話せないのか…」
何も答えずただ震えるだけのイマラにセドリックはもう一度問いかけた。
イマラは泣きそうな顔をあげると、セドリックを見つめる。
そして今まで自分が何をしてきたのか、たった今、本当の意味で理解したかのように顔を青ざめさせた。
「……詐欺罪でも高位貴族の乗っ取りともとれる行為は十分に大罪だぞ」
「違います!!!!」
セドリックの言葉にイマラは叫ぶ。
声を荒げるつもりなんてなかったのだろう。
イマラは我に返り、ハッとした表情を浮かべた後俯いた。
「違う?ならなんだというんだ。他の男と体を重ね、私に襲われたと嘘を付き、子を孕んだと男と口裏を合わせ公爵夫人となったお前が!!
私だけでなくユージンをも狙ったこと、もはや知らないなどといわせないぞ!!」
ユージンは言い終えた後咳込んだセドリックの背中を優しく撫でた。
イマラはぶるぶると体を震わせると、冷たい大理石の床についた指先に力を込める。
セドリックからイマラへと視線を移したユージンは、イマラの真っ白になる指先をじっと見つめた。
「私が一度、ユージンを殺そうとしたお前を追及しなかったのは、十分な証拠がなかったからだ。デクロン公爵家には敵が多い。新しい者を迎え入れた時には隙が生まれやすく、その隙を付いて仕掛ける輩もいるんだ。
だからお前がユージンを殺そうと暗殺者を仕向けたという証拠が足りなかった。ユージンが暗殺者の手から逃れ、私に助けを求めた時には既に暗殺者の姿は消えていたからな」
ユージンはセドリックの話を聞いて、自分が誤解をしていた事に気付いた時の感情を思い出す。
父上は自分を見捨てたわけではなかったのだと、祖父母がしていた話の通り、幼かった自分のことを考え、イマラから逃がしたのだと知ったときの気持ちを。
それでも幼かった頃アリエスとの手紙のやり取りに、手を加えた人物がセドリックであった事実は変わらないため、複雑な思いを抱いた。
だがそれでもセドリックは自分のことを守ろうとしてくれた。
ユージンは怒りを見せる父親の後ろ姿を、口を挟むことなく見つめた後、目を閉じる。
■
412
あなたにおすすめの小説
遊び人の令嬢が目を付けたのは、私の真面目な婚約者でした
おいどん
恋愛
子爵家の令嬢エリーネと伯爵家の次男のノルトが婚約を結んだのは、半年前だった。
真面目で優秀なノルトに相応しい婚約者であろうとするものの、エリーネには自信がなかった。
ある日、遊び人と噂の令嬢べルティーナとノルトが共にいるところを見てしまう。
「真面目クンは壁さえ破っちゃえばこっちのもんだからね〜」
「きっと、彼女の美しさに嫉妬しているのだわ…」
「…今度は、ちゃんと言葉にするから」
【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?
時
恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。
しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。
追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。
フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。
ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。
記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。
一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた──
※小説家になろうにも投稿しています
いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!
「神に見捨てられた無能の職業は追放!」隣国で“優秀な女性”だと溺愛される
佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢アンナ・ローレンスはグランベル王国第一王子ダニエル・クロムハートに突然の婚約破棄を言い渡された。
その理由はアンナの職業にあった。職業至上主義の世界でアンナは無能と言われる職業を成人の儀で神に与えられた。その日からアンナは転落人生を歩むことになった。公爵家の家族に使用人はアンナに冷たい態度を取り始める。
アンナにはレイチェルという妹がいた。そのレイチェルの職業は神に選ばれた人しかなれない特別な職業と言われる聖女。アンナとレイチェルは才能を比較された。姉のアンナは能力が劣っていると言われて苦しい日常を送る。
そして幼馴染でもある婚約者のダニエルをレイチェルに取られて最終的には公爵家当主の父ジョセフによって公爵家を追放されてしまった。
貴族から平民に落とされたアンナは旅に出て違う国で新しい生活をスタートする。一方アンナが出て行った公爵家では様々な問題が発生する。実はアンナは一人で公爵家のあらゆる仕事をこなしていた。使用人たちはアンナに無能だからとぞんざいに扱って仕事を押し付けていた。
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
妹に婚約者を奪われましたが、私の考えで家族まとめて終わりました。
佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・フォンテーヌ公爵令嬢は、エドガー・オルレアン伯爵令息と婚約している。セリーヌの父であるバラック公爵は後妻イザベルと再婚し、その娘であるローザを迎え入れた。セリーヌにとって、その義妹であるローザは、婚約者であり幼馴染のエドガーを奪おうと画策する存在となっている。
さらに、バラック公爵は病に倒れ寝たきりとなり、セリーヌは一人で公爵家の重責を担うことになった。だが、イザベルとローザは浪費癖があり、次第に公爵家の財政を危うくし、家を自分たちのものにしようと企んでいる。
セリーヌは、一族が代々つないできた誇りと領地を守るため、戦わなければならない状況に立たされていた。異世界ファンタジー魔法の要素もあるかも?
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる