「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん

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㉖つづきのつづき

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「さて、貴方にはすぐに屋敷から去って貰いますがよろしいですよね。
公爵邸も同じ王都にあるわけですから遠いというわけでもないですし」
「え!?ど、どうして!?」
「どうしてもなにも屋敷にスパイが見つかったのです。
この屋敷には重要な書類があるわけではありませんが、異常がないかを確認しなければなりませんし、なにより妻が心配です」
「妻!?」
「ええ、そうですよ。貴方も先日結婚式に参加したでしょう?」
「あ、あの子なら今いないわ!そうよ!そ、それに貴方がいない間この屋敷を母である私が管理していたのだから、私が確認したほうが異常があるかがすぐにわかるわ!
貴方は帰ったばかりなのだからしっかり休んでいた方がいいわよ!ね!?」
「いえ、騎士団長を任されている私がこれくらいのことで疲れてなんていませんから大丈夫です。
それに、俺の雇った使用人の顔も名前も知らなかった貴方に異常なんて確認できますか?易々とスパイを侵入させた貴方に」
「ッ!」

義母は顔を青ざめさせた。
女性が使う白粉をこれでもかと厚く塗りたくっている筈の肌色が青く見える程、顔色を変える義母に内心笑いがこみ上げる。
だがそれは“面白い”という意味ではなく、嘲笑うという意味だ。
メアリーに危害を加えた人物を、俺は決して許さない。

「……に、荷物をまとめるから、時間を頂戴…」
「わかりました」

力なくそう答えた義母は懸命に思考を回転させているのだろう。
目が忙しなく動きブツブツと何かを呟きながら心ここにあらずと言った様子を見せていた。

それもそうだ。
この部屋まで案内してくれたメイドのサーシャ・クタの話によると、メアリーの為の部屋には今この女の実の娘である女が居座っているというのだ。
『“効率”って重要でしょ?アナタの部屋よりも使用人の部屋からの方が近いのだから、仕事に慣れるまで部屋を移動してはどうかしら?』
そう理由のわからないことをメアリーにいい、メイドの仕事と屋敷の管理に追われ、思考能力を奪われたメアリーは戸惑いながらもその提案を受け入れたというのだ。
『貴女のためのことを思って言っているのよ』『少しでも早く慣れるように』『時間を無駄にしたくないでしょう』
そんな言葉を並べて彼女を彼女の為の部屋から追い出した。
『慣れて時間に余裕が出来たら、部屋を戻ればいいじゃない』
そう言いながらも、屋敷の管理を誰がしているのかも理解してない頭で一人では当然終わらないような仕事を押し付け、メアリーが知らない間に部屋を奪ったのだ。この女たちは。

「あ、そうそう。先ほど妻はいないと言っていましたが、帰ってくるときデルオ家の主治医とすれ違いましてね、メアリーの診察をしていたといっていましたよ。
何をもっていないと断言したのかわかりませんが、俺の妻の状況も知らない人に、屋敷を管理していた。とは言われたくありませんね」

俺は義母にそう言った。
自分の世界に入り込んでいるのか、何の反応も見せない義母に構うことなく義母付きのメイドを片手に抱え部屋を出る。

義母の取る行動はわかっているつもりだ。

メアリーが休んでいる部屋の前には筋肉隆々なシェフを配置している。
クタにも丁度見回りにやってくるだろう騎士を連れてくるように指示を出した。
主治医もメアリーの追加の検査に必要な道具だけではなく、今の状況を公爵家に報告してくれるだろう。
義母がこの家に来て問題を起こしていることを考えれば、高い可能性で父上がやってくる。
今迄浪費する以外の事はやっていなかった義母が、やっと離縁にこぎつけられそうな問題を起こしているのだ。
母上にだけ愛を誓った父上なら、例え王命で再婚したとあっても離縁できるかもしれない機会を見逃すはずはない。

(……それに実の娘がいるならば、自分だけ逃げるように去ることはないだろう)

例え出て行けと伝えたとしても、娘がいる以上簡単には出ていかないはずだ。

本当に娘に愛情を抱いているのならば。




俺は廊下を歩き進め、玄関ホールに気を失っている女を下し、メアリーが眠る部屋へと向かった。





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