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第3章 シュルトーリア
続・環境整備④
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目に留まったのは先ほど作った解体作業台。その中でも台の側面に浮かぶ鉄板と石板の層だ。
最後の鉄のインゴットを取り出すと剣身の腹の部分に合わせてインゴットを引き延ばす。これを2枚、剣身の両面分作る。これにも付与術を施す。こちらには剣身に付与したのと同じハードとヘビーウェイト。さらに先ほど入れられなかった触れたものを滑らせるスムース。
続けて銅のインゴットを取り出して今作った2枚と同じ形、大きさでなるべく薄い銅板を作る。この銅板にもハードとヘビーウェイト、衝撃を分散させて耐衝撃性を上げるレジストインパクトを付与する。
これと剣身の腹を合わせて鉄板、銅板、剣身、銅板、鉄板というように鉄板と剣身で銅板を挟みスキルで圧着する。これで一つに剣に3重のハードとヘビーウェイトが掛かり、強度も重量も相当上がっているはずだ。腹で攻撃を受け止めたときも3重のハードと中央のレジストインパクトの効果で大剣へのダメージを分散できるはず。鑑定で確認しても各パーツごとに付与術が発動していることがわかる。
「(完成か?)」
「あぁ、持ってみてくれ。」
ガルドが台から柄を両手で持ち、腕に力を籠める。筋肉が盛り上がり、切っ先が上を向く。そのまま高く持ち上げると一気に振り下ろした。
振り下ろされた大剣は先ほどの鋭い風切り音ではなく今までのような、それでいて今まで以上に風を巻き込む轟音を響かせて地面にぶつかる直前にピタリと止まった。ガルドはそのまま薙ぎ払い、斬り上げを行い満足したように頷いた。
「(うむ、実に良い。ずっしりと腕にくる重さ。風を切り裂くのではなく厚い剣身が風を巻き込む音。)」
「付与術を掛けてあるからな、切れ味も武器としての耐久性も上がってるはずだ。」
「(では、少し試してみよう)」
そういったガルドは森に近づいていく。程ほどの距離を取って1本の木に向かうと大剣を正眼に構える。
「フッ!」
踏み込みと同時に大剣を振り上げ、短く息を吐きながら大剣を振り下ろした。ガサガサと音を立てて太い枝が切り落とされる。
「(ここまでの切れ味とは……。これならば……。)」
ガルドはそのままガルドの胴体程の太さの木の幹に向かって大剣を水平に構える。
「お、おい!いくら何でもそれは……。」
「フッ!」
俺が言い終わる前にガルドは再び短く息を吐いて大剣を振り抜いた。大剣は木の幹に刃をめり込ませても勢いが衰えず、そのまま両断して見せた。バキバキと周囲の枝を折りながら横倒しになる木を見ながら俺は目を見開いた。
「付与術を掛けてあるとはいえ、ただの鉄の大剣がここまでの物になるなんて……。」
ガルドは切株の切断面と手に持った大剣を交互に見比べ大きな笑い声を上げた。
「ブハハハハ!(良い、実に良いぞ!妻よ、我はこれが気に入ったぞ!)」
「そ、そうか、それは良かった。」
正直ガルドにここまでの業物は危ない気もするが気に入ってしまったものはしょうがない。余計な騒ぎが起きないことを祈ろう。
「(ガルドいいな~。)」
「(ご主人様、僕たちにも何か作ってくださいよ。)」
ガルドの大剣を見たバラムとロアが寄ってくる。
「そうだな。ガルドだけってわけにはいかないからな。今は材料が無いし、2人に何を作ったらいいか考えたいからまた今度作るよ。」
「(わ~い!約束だよ、ご主人さま~!)」
「(ありがとうございます、ご主人様。)」
とはいえ、2人は武器を使わないから前と同じようにブースト付与術を掛けた装飾品にするしかないかもしれない。
喜ぶ2人を見ながら俺はガルドが切り倒した木を異空間収納に片付けておく。
「今日はありがとうございました。また明日からもよろしくお願いします。」
陽が傾き始める前に川を離れた俺達は空が紅く染まり、ちょうど夕方の鐘が鳴る頃にツェマーマン達を工房に送り届けていた。
「おう。また明日、今日と同じ時間にな。」
ツェマーマンの見送りを背に受けて今度はギルドに向かう。ギルドは依頼から帰ってきた冒険者たちで溢れていたが幸い列の進みも早く、並び始めてすぐに順番が回ってきた。
俺はギルドカードを提示して顔合わせの件を伝えるとすぐに奥からファナさんがやってきた。
「タカシ様、お待たせいたしました。会議室にご案内しますのでこちらへどうぞ。」
ファナさんの案内を受けて2階に上がり、資料室の向かいの扉の前に立った。
コンコン。
「おう、入れ。」
ファナさんが扉をノックすると聞き覚えのある声で返事が返ってきた。
扉を開けて中に入るファナさんに続いて俺も部屋に入ると部屋にはベルグさんと初老と呼ぶにはまだ少し早そうな壮年の男性が4人、席に座っていた。
「失礼します。依頼主のタカシ様をお連れしました。」
「来たな。とりあえずこっち座れ。」
4人と向かい合って座るベルグさんが自分の隣を指さす。それに従い席に着くとベルグさんの進行で話が進み始めた。
「こいつがさっき話した今回の依頼人のタカシだ。タカシ、こいつらが今回ギルドが仲介するランクCパーティ『大地の盾』だ。」
「『大地の盾』のリーダー、ダイクンだ。」
向かって左から2番目の男性が手差し出す。
「タカシです。よろしくお願いします。」
その手をしっかりと握り、握手をすると他のメンバーも紹介してくれた。
一番左にいるのが剣士のウォレス。
左から二番目が握手をしたリーダーでタンクのダイクン。
その隣がサブリーダーで魔法使いのレクター。
一番右が斥候のクルツ。
「『大地の盾』はときどき下位ランクの冒険者に訓練場で戦闘の指南や外に連れ出して野営訓練とか後進の育成に力を入れてくれていてな。お前さんの依頼を受けるにはピッタリだろ。」
「依頼内容はギルドマスターから聞いているが、冒険者についての基礎中の基礎の座学と戦闘訓練、野営を含めて実際に依頼をこなしながら各注意点を説明していくということでいいか?」
「はい、それでお願いします。」
「期間は4~5日の予定だったな。それなら1日目に座学。2日目に訓練。3~4日目に掛けて野営込みで泊りがけの依頼を受けよう。覚えの速さ次第では座学か訓練を1日伸ばすことになるかもしれないが。構わないか?」
「はい、大丈夫です。」
ツェマーマンの送り迎えのことはあるが泊りがけの依頼の時は中断してもらおう。
「明日から始めようと思うがいいか?」
「わかりました。」
「それじゃあ明日は朝9時の鐘が鳴る頃にギルドに集合だ。」
最後の鉄のインゴットを取り出すと剣身の腹の部分に合わせてインゴットを引き延ばす。これを2枚、剣身の両面分作る。これにも付与術を施す。こちらには剣身に付与したのと同じハードとヘビーウェイト。さらに先ほど入れられなかった触れたものを滑らせるスムース。
続けて銅のインゴットを取り出して今作った2枚と同じ形、大きさでなるべく薄い銅板を作る。この銅板にもハードとヘビーウェイト、衝撃を分散させて耐衝撃性を上げるレジストインパクトを付与する。
これと剣身の腹を合わせて鉄板、銅板、剣身、銅板、鉄板というように鉄板と剣身で銅板を挟みスキルで圧着する。これで一つに剣に3重のハードとヘビーウェイトが掛かり、強度も重量も相当上がっているはずだ。腹で攻撃を受け止めたときも3重のハードと中央のレジストインパクトの効果で大剣へのダメージを分散できるはず。鑑定で確認しても各パーツごとに付与術が発動していることがわかる。
「(完成か?)」
「あぁ、持ってみてくれ。」
ガルドが台から柄を両手で持ち、腕に力を籠める。筋肉が盛り上がり、切っ先が上を向く。そのまま高く持ち上げると一気に振り下ろした。
振り下ろされた大剣は先ほどの鋭い風切り音ではなく今までのような、それでいて今まで以上に風を巻き込む轟音を響かせて地面にぶつかる直前にピタリと止まった。ガルドはそのまま薙ぎ払い、斬り上げを行い満足したように頷いた。
「(うむ、実に良い。ずっしりと腕にくる重さ。風を切り裂くのではなく厚い剣身が風を巻き込む音。)」
「付与術を掛けてあるからな、切れ味も武器としての耐久性も上がってるはずだ。」
「(では、少し試してみよう)」
そういったガルドは森に近づいていく。程ほどの距離を取って1本の木に向かうと大剣を正眼に構える。
「フッ!」
踏み込みと同時に大剣を振り上げ、短く息を吐きながら大剣を振り下ろした。ガサガサと音を立てて太い枝が切り落とされる。
「(ここまでの切れ味とは……。これならば……。)」
ガルドはそのままガルドの胴体程の太さの木の幹に向かって大剣を水平に構える。
「お、おい!いくら何でもそれは……。」
「フッ!」
俺が言い終わる前にガルドは再び短く息を吐いて大剣を振り抜いた。大剣は木の幹に刃をめり込ませても勢いが衰えず、そのまま両断して見せた。バキバキと周囲の枝を折りながら横倒しになる木を見ながら俺は目を見開いた。
「付与術を掛けてあるとはいえ、ただの鉄の大剣がここまでの物になるなんて……。」
ガルドは切株の切断面と手に持った大剣を交互に見比べ大きな笑い声を上げた。
「ブハハハハ!(良い、実に良いぞ!妻よ、我はこれが気に入ったぞ!)」
「そ、そうか、それは良かった。」
正直ガルドにここまでの業物は危ない気もするが気に入ってしまったものはしょうがない。余計な騒ぎが起きないことを祈ろう。
「(ガルドいいな~。)」
「(ご主人様、僕たちにも何か作ってくださいよ。)」
ガルドの大剣を見たバラムとロアが寄ってくる。
「そうだな。ガルドだけってわけにはいかないからな。今は材料が無いし、2人に何を作ったらいいか考えたいからまた今度作るよ。」
「(わ~い!約束だよ、ご主人さま~!)」
「(ありがとうございます、ご主人様。)」
とはいえ、2人は武器を使わないから前と同じようにブースト付与術を掛けた装飾品にするしかないかもしれない。
喜ぶ2人を見ながら俺はガルドが切り倒した木を異空間収納に片付けておく。
「今日はありがとうございました。また明日からもよろしくお願いします。」
陽が傾き始める前に川を離れた俺達は空が紅く染まり、ちょうど夕方の鐘が鳴る頃にツェマーマン達を工房に送り届けていた。
「おう。また明日、今日と同じ時間にな。」
ツェマーマンの見送りを背に受けて今度はギルドに向かう。ギルドは依頼から帰ってきた冒険者たちで溢れていたが幸い列の進みも早く、並び始めてすぐに順番が回ってきた。
俺はギルドカードを提示して顔合わせの件を伝えるとすぐに奥からファナさんがやってきた。
「タカシ様、お待たせいたしました。会議室にご案内しますのでこちらへどうぞ。」
ファナさんの案内を受けて2階に上がり、資料室の向かいの扉の前に立った。
コンコン。
「おう、入れ。」
ファナさんが扉をノックすると聞き覚えのある声で返事が返ってきた。
扉を開けて中に入るファナさんに続いて俺も部屋に入ると部屋にはベルグさんと初老と呼ぶにはまだ少し早そうな壮年の男性が4人、席に座っていた。
「失礼します。依頼主のタカシ様をお連れしました。」
「来たな。とりあえずこっち座れ。」
4人と向かい合って座るベルグさんが自分の隣を指さす。それに従い席に着くとベルグさんの進行で話が進み始めた。
「こいつがさっき話した今回の依頼人のタカシだ。タカシ、こいつらが今回ギルドが仲介するランクCパーティ『大地の盾』だ。」
「『大地の盾』のリーダー、ダイクンだ。」
向かって左から2番目の男性が手差し出す。
「タカシです。よろしくお願いします。」
その手をしっかりと握り、握手をすると他のメンバーも紹介してくれた。
一番左にいるのが剣士のウォレス。
左から二番目が握手をしたリーダーでタンクのダイクン。
その隣がサブリーダーで魔法使いのレクター。
一番右が斥候のクルツ。
「『大地の盾』はときどき下位ランクの冒険者に訓練場で戦闘の指南や外に連れ出して野営訓練とか後進の育成に力を入れてくれていてな。お前さんの依頼を受けるにはピッタリだろ。」
「依頼内容はギルドマスターから聞いているが、冒険者についての基礎中の基礎の座学と戦闘訓練、野営を含めて実際に依頼をこなしながら各注意点を説明していくということでいいか?」
「はい、それでお願いします。」
「期間は4~5日の予定だったな。それなら1日目に座学。2日目に訓練。3~4日目に掛けて野営込みで泊りがけの依頼を受けよう。覚えの速さ次第では座学か訓練を1日伸ばすことになるかもしれないが。構わないか?」
「はい、大丈夫です。」
ツェマーマンの送り迎えのことはあるが泊りがけの依頼の時は中断してもらおう。
「明日から始めようと思うがいいか?」
「わかりました。」
「それじゃあ明日は朝9時の鐘が鳴る頃にギルドに集合だ。」
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