セーブ・タイム〜荒廃した世界より〜

泡沫

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第一章 結成、みんなのハートを守り隊

結成式

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「妾、ほし奈菜香ななかはここに宣言するッ! 『みんなのハートを守り隊』の結成をッ!」

「「「「おー……」」」」

 室内にこだましたのは、マセた少女の大それた宣言と残る四人の朧げな掛け声。真っ直ぐに伸びたツインテールをプルプル震わせる少女は椅子の上に土足のまま上り、未だ握り拳を高らかに突き上げている。この少女の名はほし奈菜香ななか。十歳の元気有り余る女の子だ。
 その右隣で椅子に腰かけ、身長百四十センチメートルと少しばかりの奈菜香のミニスカートから覗く景色に薄っすらと動揺を見せた男子の名は佐々野ささの修輝しゅうき。茶の混じった黒髪の十七歳だ。
 日曜日の昼過ぎ、地下の寝室から叩き起こされた四人は揺らいだ意識に縋っている。その中の一人である修輝は、草臥れた表情を隠しきれず落胆の息を漏らした。

「奈菜香、靴を履いたまま椅子に乗るな」

「いいだろ、これくらい!」

 折角の実に尊大な宣言を蔑ろにされたのが嫌だったのだろうが、余計に胸を張って拳をさらに突き上げて見せた。

「……早く降りろ」

「修輝のケチッ!」

 何がケチだったのかわからないが、高く上げていた拳で修輝の頭を思いっきりぶん殴った奈菜香はそれ以降無言で椅子から降りてそれにちょこんと座ったので、修輝は静かに胸をなでおろした。間隙を縫って抑えていた眠気が再来する。だがそれはすぐに放逐された。

「私はいいと思うわよ? 『みんなのハートを守り隊』」

「……美里みさと?」

 頬杖をついて目の前の男子を誘惑する艶のある女子はこのチームの長。名前は涼原すずはら美里みさと。常に態度が大きいのだがたまに見せる優しさが修輝の心を震わせる十七歳。
 九月の暮れ、昼過ぎの日差しが乏しく差し込む室内、よく冷えた金属製の机には美里の漆黒の髪がスルスルと流れる。それをまじまじと眺め終えた修輝は乾いた喉で大きく息を呑む。二年も決まっていなかったこのチームの名称がついに決まろうとしているのだ。ヤバい、このメンバーの中には止めようとする人なんて誰もいない。
 このままだと本当に『みんなのハートを守り隊』になる。今までの戦闘参加のときには『涼原班』として登録してきたけどこれからは『みんあのハートを守り隊』なのか。
 どうにか最悪の状況を打破するために、さすがに奈菜香が可哀想と思う気持ちもなかったわけではないが、いつの間にか固く結んでいた口を、勢いをもって開く。

「さすがに『みん――」

「私もいいと思うのです」

 案の定、修輝の声が誰かに届くわけもなく、美里の隣に座る愛らしい少女によって無慈悲にも遮断された。軽くかかったウェーブが肩を斑に隠し、その持ち主は霞む目をフワフワと左右に擦る。年端もいかない九歳の少女の名は山崎やまざきアンナあんな。見ての通り日本とイギリスのハーフだ。
 アンナを見ていると次第にチーム名などどうでもよくなってきた。机に手をついて前方に身体を預ける。

「あぁー、ですよねそうですよね、そうなっちゃいますよね」

 沈鬱な態度の修輝だがこれが場の雰囲気を悪化させることはない。既にみながそれを上回って睡眠を欲している。ただし、奈菜香を除いて。彼女はチーム名が『みんなのハートを守り隊』になる瞬間を今か今かと待ち望んでいた。その証拠に、抑えきれない歓喜の表情が今も漏れ出ている。

「俺もいいと思うぞー」

「言うと思った」

 アンナのさらに隣、背もたれに重そうな身体を託して座る肉付きのよい男子は短髪を軽く掻いて見せた。やる気を起こすまで時間がかかるといつも言っているがやる気を出した瞬間を一度も見せたことがない十七歳。しかし根は驚くほど優しい。彼の名前は剛本ごうもと哲也てつや
 観念した修輝は身体を起こし、運命の時を待った。左隣でやけにそわそわしている目に入れても痛くない少女が鬱陶しいくらいだ。それを除けば、屋外からの瓦礫が風に軋む音だけの変化しか残らない。
 漸く頬杖を外した美里は黒髪に軌跡をスッと席を立つ。

「『涼原班』は解散とし、新たに『みんなのハートを守り隊』を結成することをここに宣言しますッ!」

「やったー‼ やったぞやったぞ‼」

 少女はいよいよ歓喜した。
 宣言して余力を使い果たした美里に対して、奈菜香は椅子から離れたと思うと両腕で勢いをつけながら部屋中を跳ね回った。パソコンや数枚のプリントが置かれたデスク、何冊もの本が堅苦しそうに並べられた棚、無駄に気品のある空色のソファー、その他の物にも目もくれない。もし一階に誰かがいるとすれば間違いなく苦情を頂戴する羽目になるだろう。その様子に美里を含めた三人はまるで何かを尊ぶかのような表情を浮かべながら奈菜香に弛緩の拍手を送った。
 勿論、残りの一人は修輝なわけで、今後の成り行き諸々は思考の範囲から逸脱し、目の前の光景をただ麗しいと思うことしかできなかった。

「最高のチーム名だなッ! 修輝!」

「ああ、そうだな……」

 こうして、『みんなのハートを守り隊』が結成された。
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