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「僕は君のことが好きだ。どうか僕と結婚して欲しい」

 ハンスが私に告白をした瞬間、応接間の扉が開いた。
 そこいたのは夫のエドガーだった。
 彼は幽霊でも見たような驚いた顔で、私たちを見ていた。

「エドガー……どうして……」

 息が詰まるようだった。
 走ってもいないのに、肺が苦しくなり、思わず胸に手をやった。
 ハンスは心配そうに私を見つめた後、扉をゆっくりと閉めたエドガーに顔を向けた。

「あなたがエドガーさんですね。フィオナの夫の」

「……え? ハンスさん。どうしてそのことを」

 エドガーという夫がいることはハンスには説明していない。 
 しかしなぜか彼はそれを知っていた。
 彼は私に微笑みかけると、当たり前というように言う。

「実は君のことを色々調べてね……家のお世話好きな執事が。それでもう君の事情の大体のことは知っているんだ」

「そうだったんですか……」

 罪悪感と妙な解放感に包まれる。
 しかしハンスは全てを知っていて、私に告白をしてくれた。
 一体彼は何を考えているのだろうか。
 疑問が浮かぶが、それもエドガーの声にかき消される。

「……何だお前は。どうしてフィオナと一緒にいる」

 エドガーは怒気の込められた声でそう答えた。
 彼はそのまま怒りの表情でこちらに少しずつ近づいてきた。
 私はどうして彼がこの家に帰ってきたのか、そして怒っているのかが分からなかった。

「僕は侯爵令息のハンス。フィオナさんの友人です」

「ほう、ハンスか……聞いたことがある、まるで女のように美しい顔を持つ病弱な貴族令息だと。うむ、確かに噂通りの美青年だ。だが、そんな奴がどうして俺のフィオナと会っている? 納得のいく説明をしてもらおうか?」

 ハンスはため息をつくと、余裕そうに口を開く。

「別に何もおかしなことはありませんよ。僕達は友達ですから。むしろおかしいのはあなたの方ではないですか? 妻であるフィオナを放っておいて、愛人の家に入り浸る……まあ、その愛人も結婚詐欺師だったようですが?」

「なぜそのことを知っている!!!」

 エドガーが困惑したように顔を歪めた。
 どうやらハンスの言ったことは真実であるらしい。
 エドガーは愛人を作ると言っていたが、まさかそれが結婚詐欺師とは。
 その女性に振られたから、家に帰ってきたというわけか。

「ハンス……まさかお前……あの女とグルじゃないだろな?」

「まさか……そんなわけありませんよ。フィオナのことを調べるついでにあなたのことも調べたんです。僕の家の執事がね。彼が言っていましたよ、彼女は指名手配をされるような悪女だって」

「ふっ……そうだよ、あいつは正真正銘の悪女だったさ。でも、今はそんなことは関係ない……なぜなら俺にはフィオナがいるからな」

 エドガーが不気味な笑みを浮べて私を見た。
 目が微かに血走っていて、私は身の危険を感じた。

「フィオナ……俺ともう一度やり直さないか? 俺は気づいたんだ、お前の噂は全部嘘だったんだってな。もう惑わされない。一緒に幸せな未来を築いていこう」

 言葉だけ取れば違和感はないが、今のエドガーを見たらとても幸せになれるとは思えなかった。
 本心からそれを言っているようにも見えないし、その場の快楽を満たすために言っているようにしか感じられなかった。
 ハンスも同じ考えのようで、否定するように口を開く。

「エドガーさん。いい加減にしてください。あなたは一度フィオナを裏切り、愛人まで作った。そのことの重大さが分からないのですか? まだそんな自分がフィオナに愛されているとでも思っているのですか?」

「ふん、俺はお前になど話していない。フィオナ、どうなんだ? お前の気持ちを聞かせろ」

「私の気持ち……」

 私は胸に手を当てると、自分の気持ちを確かめた。
 そして覚悟を決めると、口を開いた。
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