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「あれ? もう来たんですかぁ……」
彼女は甘ったるい声で近づいてくると、値踏みするように私を見た。
その目が狩人のように光ると同時に、彼女は「ふーん」と笑みを見せる。
「あなたがサラさんですね。初めまして、マリーです」
差し出された彼女の手を、私は握ることはできなかった。
マリーはそのまま数秒そうしていたが、やがて諦めると、アレンの隣に移動した。
そして彼の腕に自分の腕を絡める。
「……どういうことかしら?」
私が説明を求めるようにそう言うと、アレンが口を開く。
「見ての通りだ。君と婚約破棄した後は、彼女……マリーと新たに婚約することにした。君と違って可愛らしくて気が利いて、一緒にいて楽しい人さ。彼女以外はあり得ない」
今度はマリーが勝ち誇ったような目と共に、私に言う。
「ごめんなさいサラさぁん……でも、私とアレンの恋は本物だから、これからは応援してくださいねぇ……私がサラさんの代わりにアレンを幸せにしてあげますからぁ」
もしこの国に法律がなかったのなら、私は即座に飛び出して二人を殴っていただろう。
強く握られた拳をその場に留めながら、私は真剣な顔で口を開く。
「……ねえアレン。マリーさんのお腹……膨れているようだけど……もしかして妊娠じゃないわよね?」
震える声の私とは対照的に、アレンの声は嬉々としてはっきりしたものだった。
「よく分かったな。お前も一応は女だからそういうことに気づいたのか。彼女は僕の子供を妊娠しているんだ」
「はぁ?」
思わず貴族令嬢らしからぬ声を出してしまう。
マリーがくくっと口に手を当てて笑っていた。
アレンも嘲笑しながら言葉を返す。
「別に構わないだろ。僕たちは婚約破棄するんだから。そんなことよりも、自分の身の心配でもしたらどうなんだ? お前にいじめられた生徒への慰謝料と僕への婚約破棄の慰謝料……ちゃんと払えるんだろうな?」
「だから私は誰もいじめてなんていないわ。それに、彼女が妊娠しているということは、今日までに男女の関係になったということよね? それに対しての慰謝料は発生しないのかしら?」
「ふん」
アレンは鼻をならすと、ぶっきらぼうに言う。
「確かにその分の慰謝料は払ってやろう。あぁ、そうだ……こういうのはどうだ?」
そこまで言った時アレンの顔が不気味に歪む。
「君のいじめと僕の浮気。本来なら双方が慰謝料は払わねばいけない所だが、両方が払うのだし、相殺とするのはどうだ? これなら面倒な手続きも少なくて済むだろう?」
「は?」
呆れかえるほどの提案に、私は再び貴族令嬢らしからぬ声を出す。
アレンは自分の提案に余程の自信があるのか、笑顔で私を見下ろしている。
マリーも相変わらずの勝ち誇った笑みで、私を見つめていた。
「アレン。相殺なんかにするわけがないでしょう。あなたの浮気は確実だけど、私のいじめは空想の域を出ないわ。証言があると言ったけど、あなたが金でも使って言わせたんじゃないの?」
するとアレンが眉間にしわを寄せ、鋭く私を睨んだ。
しかし、すぐにニコッと少年のような笑みを作る。
「やっぱりお前は頭の良い女だよサラ。そうだよ、僕が金を積んで証言させたんだ」
突然の自白に私は唖然となり、口をぽかんと開ける。
まさかこれほどまでに彼は頭のネジが緩かったとは。
「だが、それを誰が証明する!? こっちには大勢の生徒が味方しているんだぞ! 友人も少ないお前が声を上げた所で、それはただの負け犬の遠吠えだ! 諦めろサラ!」
大声を上げたアレンを見て、私はため息をはいた。
この辺でもう潮時だろう。
私は胸の高さに手を上げると、二回手を叩いた。
それが鳴りやむ前に、物陰に隠れていたアレンの父が立ち上がった。
彼女は甘ったるい声で近づいてくると、値踏みするように私を見た。
その目が狩人のように光ると同時に、彼女は「ふーん」と笑みを見せる。
「あなたがサラさんですね。初めまして、マリーです」
差し出された彼女の手を、私は握ることはできなかった。
マリーはそのまま数秒そうしていたが、やがて諦めると、アレンの隣に移動した。
そして彼の腕に自分の腕を絡める。
「……どういうことかしら?」
私が説明を求めるようにそう言うと、アレンが口を開く。
「見ての通りだ。君と婚約破棄した後は、彼女……マリーと新たに婚約することにした。君と違って可愛らしくて気が利いて、一緒にいて楽しい人さ。彼女以外はあり得ない」
今度はマリーが勝ち誇ったような目と共に、私に言う。
「ごめんなさいサラさぁん……でも、私とアレンの恋は本物だから、これからは応援してくださいねぇ……私がサラさんの代わりにアレンを幸せにしてあげますからぁ」
もしこの国に法律がなかったのなら、私は即座に飛び出して二人を殴っていただろう。
強く握られた拳をその場に留めながら、私は真剣な顔で口を開く。
「……ねえアレン。マリーさんのお腹……膨れているようだけど……もしかして妊娠じゃないわよね?」
震える声の私とは対照的に、アレンの声は嬉々としてはっきりしたものだった。
「よく分かったな。お前も一応は女だからそういうことに気づいたのか。彼女は僕の子供を妊娠しているんだ」
「はぁ?」
思わず貴族令嬢らしからぬ声を出してしまう。
マリーがくくっと口に手を当てて笑っていた。
アレンも嘲笑しながら言葉を返す。
「別に構わないだろ。僕たちは婚約破棄するんだから。そんなことよりも、自分の身の心配でもしたらどうなんだ? お前にいじめられた生徒への慰謝料と僕への婚約破棄の慰謝料……ちゃんと払えるんだろうな?」
「だから私は誰もいじめてなんていないわ。それに、彼女が妊娠しているということは、今日までに男女の関係になったということよね? それに対しての慰謝料は発生しないのかしら?」
「ふん」
アレンは鼻をならすと、ぶっきらぼうに言う。
「確かにその分の慰謝料は払ってやろう。あぁ、そうだ……こういうのはどうだ?」
そこまで言った時アレンの顔が不気味に歪む。
「君のいじめと僕の浮気。本来なら双方が慰謝料は払わねばいけない所だが、両方が払うのだし、相殺とするのはどうだ? これなら面倒な手続きも少なくて済むだろう?」
「は?」
呆れかえるほどの提案に、私は再び貴族令嬢らしからぬ声を出す。
アレンは自分の提案に余程の自信があるのか、笑顔で私を見下ろしている。
マリーも相変わらずの勝ち誇った笑みで、私を見つめていた。
「アレン。相殺なんかにするわけがないでしょう。あなたの浮気は確実だけど、私のいじめは空想の域を出ないわ。証言があると言ったけど、あなたが金でも使って言わせたんじゃないの?」
するとアレンが眉間にしわを寄せ、鋭く私を睨んだ。
しかし、すぐにニコッと少年のような笑みを作る。
「やっぱりお前は頭の良い女だよサラ。そうだよ、僕が金を積んで証言させたんだ」
突然の自白に私は唖然となり、口をぽかんと開ける。
まさかこれほどまでに彼は頭のネジが緩かったとは。
「だが、それを誰が証明する!? こっちには大勢の生徒が味方しているんだぞ! 友人も少ないお前が声を上げた所で、それはただの負け犬の遠吠えだ! 諦めろサラ!」
大声を上げたアレンを見て、私はため息をはいた。
この辺でもう潮時だろう。
私は胸の高さに手を上げると、二回手を叩いた。
それが鳴りやむ前に、物陰に隠れていたアレンの父が立ち上がった。
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