公爵家の娘になりました

杉本凪咲

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「さあ、クララ。君の好きなブタの丸焼きだよ。たくさんお食べ」

その日の夕食はまるで夢のように豪華だった。
あれだけ不安がっていたジャンも、一生懸命に肉にかぶりついている。
クララの母が思い出したように私に言う。

「そうだクララ。今日シモンが来るのよ。楽しみね」

シモン?え?誰?
そんなことを言ったらまずいことになりそうなので、愛想笑いで何とか乗り切る。
そのまま数分が経過した時、食堂の扉が開き貴族の青年が入ってきた。

端正な顔立ちで、絵本の中の王子様みたいだった。
彼を一目見た私の心臓がドクンと跳ねる。
彼は私を見ると、驚いたように目を見開く。

「え……クララ……かい?」

「シモン!久しぶりだな!仕事は順調か!?」

クララの父がそう言ったのを考えると、どうやら彼がシモンらしい。
一体クララとどういう関係なのか……もしかして婚約者か何かだろうか。

「え、ええ……それより……」

シモンは一瞬私に目を向けた後、ジャンを見た。

「彼は誰です?随分と……その……食欲旺盛ですが……」

「あぁ、クララの用心棒で雇ったジャンだ。それだけじゃなくて、クララの身の回りの世話と掃除までしてくれる。頼もしいだろ?」

シモンは明らかに不満がある顔をしていたが、引きつった笑顔で「そうですね」と頷いていた。

まあ彼が不審がるのも当然か。
当のクララはもうこの世にはいないのだし、彼女の関係者なら私がニセモノであることもすぐに気づくに違いない。
今は頭のネジがおかしくなってしまった両親に話を合わせてくれているようだが。

そのまま妙な空気感のまま食事は終わり、私はジャンを無理矢理肉から引きはがすと、食堂を出た。
しかし出た所で、後ろから肩をガシっと掴まれる。
シモンだった。

「クララ……君は本当にクララかい?」

予想はしていたが、実際にそう聞かれると想像の何倍も緊張した。
しかし、この暮らしを維持するためにも、両親を怒らせないためにも、ここはクララとなっていた方が良い。

「そ、そうよ?私が他の誰に見えるというの?」

シモンは疑うように私をジロジロと見ていたが、やがて小さな息をはく。

「そうだよな……変なこと言ってごめん。婚約者を疑うなんて最低だったな」

なるほどやはり彼はクララの婚約者なのか。

「ううん、全然大丈夫よ」

「それならよかった……昨日喧嘩しただろ?まだ怒っているんじゃないかって不安だったんだ」

「え?あ、あぁ……あれのことね……全然怒ってないわよ!全然!」

シモンはふっと笑みを浮かべると、私の頬にそっとキスをする。
体中が急に熱くなり、心臓がバクバクと音を立てた。

「じゃあね、僕の愛するクララ」

最後にシモンはそう言い残すと、足早に帰っていった。
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