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「この僕が……断罪だと?」

 ロイの顔が不気味に歪んだ。
 しかしその瞳の奥には限りの無い闇と、狡猾さを忍ばせながら。
 私の額に汗が浮かんだ。

「ええ、あなたはイザベラに魅了の魔法をかけて、操りました。この国の法律では魔法をそのように使用するのは法律違反です。私たちという証人もいます。だからせめて自分から罪を白状して……」

「ふざけるな」

 ロイの言葉は氷のように冷たかった。
 まるで人間らしい感情を全て憎悪に変えたような、重みのある一言だった。
 彼は私に一歩近づくと、無表情のまま口だけ動かした。

「僕は公爵家だぞ。王族から血を引き継ぎ、体に魔法の力を宿した選ばれた人間なんだ。なのにその僕が断罪だと? 法律違反だと? そんなことはあり得ない。お前らを再び魅了して僕は運命を変えるよ」

 妙に達観したような表情になったロイに、私は淡々と言う。

「無駄です。先ほどの私の魔法で、この部屋にいる人間にはあなたの魔法は聞きません。私の魔法は、ただ魔法を解除するだけのものじゃないのですよ。封じることもできるのです」

 このことを家族以外の人に言ったのは初めてだった。
 ロイの怒りに歪んだ顔が、その理由だった。

「は? ただの伯爵令嬢であるお前がなぜそんな強力な魔法を使える?」

 本来、魔法とは王族かその血を受け継ぐ公爵家の人間にしか使えない。
 しかし本当に稀に、その他の人間にも突然発現することがあるのだ。
 その例が私だった。

「……私は幸運な人間なので」

 苦笑して見せると、ロイの怒りは更に増した。

「ふざけるなよ伯爵風情が!!! この僕に逆らおうというのか!!! お前らみたいなゴミは地面に這いつくばって、一生僕の奴隷になっていればいいんだ!!!」

 言いたいことを言いきったのか、ロイは息を乱していた。
 そして急に笑いだす。

「ははっ……まあ別にいいけどな、魅了が使えなくとも何の問題はない。お前らは二人揃っても結局は身分の低い伯爵家。しかし僕は公爵家。皆がどちらの意見を真実のかは明白だな?」

 どうやらロイは権力を使って、嘘の証言をするつもりらしい。
 私たちの意見を押し付け、自分の望む真実を作ろうというのだ。

「本当に言っているのですか?」

 念のため私は最後にそう訊いた。
 本当にこれが最後になるだろう。

「本当だ。絶望したか??」

 ロイがニヤリと笑った瞬間だった。
 突然彼の隣にアレンの姿が現れて、強烈な平手打ちがロイの顔面に炸裂した。

「ふごっ!!!」

 ロイは衝撃でその場に尻もちをつき、頬と腰を痛そうに押さえた。
 恐怖の眼差しで見上げた彼の瞳には、アレンの鬼の形相が映ったことだろう。

「おいロイ……どうやらお前には仕置きが必要みたいだな」

「ま、待ってくれ兄さん……どうして……くそっ……アリア! お前、僕を罠にかけたな!」

 ロイは怒りの眼光を私に飛ばしてきた。
 私が説明する代わりに、アレンが口を開く。

「僕と二人で考えたんだ。お前がしらばっくれる可能性があったからな。最初から僕はこの部屋にずっといた。魔法で体を透明にしていたけどね。だが、もうその必要もない……」

 アレンはそう言うと、尻もちをつく弟の胸ぐらを掴んだ。
 ロイは「やめろ」と顔面蒼白になっている。

「ロイ。僕の拳は固いぞ」

 アレンは厳しい声でそう言うと、ロイの顔面を何度も平手打ちした。
 ロイは悲痛な叫びをあげながら、涙まで流し、最後には泡を吹いて気絶した。
 アレンは大きなため息をつくと、ロイから手を離し、私に言う。

「とりあえずこれでいいかな?」

 私とイザベラは顔を見合わせると、ぎこちない笑みを浮かべた。
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