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私を魅了していたロイは終身刑となったらしい。
彼の兄を名乗る男性から慰謝料として金貨千枚を貰い、私はまるで夢うつつといった様子で馬車に揺られていた。
窓の外を見ると、無邪気な子供が街を走りまわっていて、違う国なのに、故郷のように思えてくる。
ロイに操られていた日々は全く思い出せないが、私の脳の片隅に何かが残っているのかもしれない。
馬車に揺られている間中、恋人の彼のことだけが心配になっていた。
彼は私と身分の違う平民だった。
街で酔っぱらいの男性に絡まれたところを助けてくれて、それがきっかけで彼のことが好きになった。
最初は私の一方的な恋だった。
彼は自分の身分を重々承知していたので、私の顔を見ることもなく、話しかけると逃げていった。
しかし私は諦めなかった。
彼に必死でアプローチを続けて、自分の気持ちが本物であることを示した。
彼はため息を共に、不安げな眼差しを私に向けていた。
水晶のように綺麗な瞳だった。
それから私と彼は恋人になった。
しかし貴族社会のルールに染まっている両親には秘密だった。
二人が家を出た日に、私はこっそり家を出て彼に会いに行くのだ。
本当なら堂々と会いたかったが、仕方ないのだ。
と、ふと、あのアリアという女性の雄姿が思い浮かんだ。
彼女は私と同じ伯爵令嬢だが、公爵家のロイに果敢に立ち向かっていた。
私の国では女はおしとやかにと厳しく躾けられるので、あんな女性がいることに驚いた。
もし彼女のような勇気を抱けたら、どんなに素敵だろうか。
いや、違う……こんなこと思っているだけじゃ意味ないんだ。
「行動しなきゃ……」
不思議な感覚だった。
ちょうどよく馬車が停まり、家についていた。
私は馬車を降りると、足早に家の中に入る。
両親は食堂で食事を取っていた。
私はノックもすることなく、食堂に入ると、驚いた顔をした両親に叫んだ。
「お父様! お母様! 聞いて頂きたいことがあります!」
両親はここ三週間ほど家を空けていたので、私が隣国に行っていたことは知らない。
しかし、それを説明するよりも、言わなければいけないことがある。
「私には心から愛する人がいます! 彼は平民ですが、天使のような心と勇気をもっています! どうか私たちの結婚を許してください! お願いします!」
おしとやかな令嬢は謝る時も美しくね……いつかのマナー講座で言われた言葉を私は頭の中から捨て去った。
その場に土下座をすると、一生懸命に叫んだ。
「お願い……! 私には彼しか考えられないの……だから……どうか……どうか……」
涙が溢れ出てきた。
床にぽたぽたと染みを作って、いつかは水たまりになってしまいそうだった。
「顔を上げろ、イザベラ」
父の呆れたような声がした。
母のため息も聞こえる。
ダメだった……私の思いは通じなかったんだ。
私は完全に意気消沈してしまい、恐る恐る顔を上げた。
父は呆れたように笑っていた。
「私たちは気づいていたよ、そんなことは」
「そうよイザベラ。何年あなたを見てきたと思っているの?」
二人は怒っていないようだった。
むしろその逆に思えた。
父は私の前にしゃがむと、肩に手を置いた。
「ずっと母さんと話し合っていたんだ。お前の恋をどう応援してやるべきか……でも、私たちの杞憂だったようだ。お前には私たちの力など必要ないみたいだな」
母も口を開く。
「イザベラ。土下座する度胸があるなら大丈夫よ。その彼、大事にしなさいよ」
私の胸が激しく高鳴った。
涙が溢れて止まらなかった。
「ありがとう……本当に、ありがとう……」
アリアもこれから幸せになってくれるといいな……涙で視界が滲む中、私はそう思った。
彼の兄を名乗る男性から慰謝料として金貨千枚を貰い、私はまるで夢うつつといった様子で馬車に揺られていた。
窓の外を見ると、無邪気な子供が街を走りまわっていて、違う国なのに、故郷のように思えてくる。
ロイに操られていた日々は全く思い出せないが、私の脳の片隅に何かが残っているのかもしれない。
馬車に揺られている間中、恋人の彼のことだけが心配になっていた。
彼は私と身分の違う平民だった。
街で酔っぱらいの男性に絡まれたところを助けてくれて、それがきっかけで彼のことが好きになった。
最初は私の一方的な恋だった。
彼は自分の身分を重々承知していたので、私の顔を見ることもなく、話しかけると逃げていった。
しかし私は諦めなかった。
彼に必死でアプローチを続けて、自分の気持ちが本物であることを示した。
彼はため息を共に、不安げな眼差しを私に向けていた。
水晶のように綺麗な瞳だった。
それから私と彼は恋人になった。
しかし貴族社会のルールに染まっている両親には秘密だった。
二人が家を出た日に、私はこっそり家を出て彼に会いに行くのだ。
本当なら堂々と会いたかったが、仕方ないのだ。
と、ふと、あのアリアという女性の雄姿が思い浮かんだ。
彼女は私と同じ伯爵令嬢だが、公爵家のロイに果敢に立ち向かっていた。
私の国では女はおしとやかにと厳しく躾けられるので、あんな女性がいることに驚いた。
もし彼女のような勇気を抱けたら、どんなに素敵だろうか。
いや、違う……こんなこと思っているだけじゃ意味ないんだ。
「行動しなきゃ……」
不思議な感覚だった。
ちょうどよく馬車が停まり、家についていた。
私は馬車を降りると、足早に家の中に入る。
両親は食堂で食事を取っていた。
私はノックもすることなく、食堂に入ると、驚いた顔をした両親に叫んだ。
「お父様! お母様! 聞いて頂きたいことがあります!」
両親はここ三週間ほど家を空けていたので、私が隣国に行っていたことは知らない。
しかし、それを説明するよりも、言わなければいけないことがある。
「私には心から愛する人がいます! 彼は平民ですが、天使のような心と勇気をもっています! どうか私たちの結婚を許してください! お願いします!」
おしとやかな令嬢は謝る時も美しくね……いつかのマナー講座で言われた言葉を私は頭の中から捨て去った。
その場に土下座をすると、一生懸命に叫んだ。
「お願い……! 私には彼しか考えられないの……だから……どうか……どうか……」
涙が溢れ出てきた。
床にぽたぽたと染みを作って、いつかは水たまりになってしまいそうだった。
「顔を上げろ、イザベラ」
父の呆れたような声がした。
母のため息も聞こえる。
ダメだった……私の思いは通じなかったんだ。
私は完全に意気消沈してしまい、恐る恐る顔を上げた。
父は呆れたように笑っていた。
「私たちは気づいていたよ、そんなことは」
「そうよイザベラ。何年あなたを見てきたと思っているの?」
二人は怒っていないようだった。
むしろその逆に思えた。
父は私の前にしゃがむと、肩に手を置いた。
「ずっと母さんと話し合っていたんだ。お前の恋をどう応援してやるべきか……でも、私たちの杞憂だったようだ。お前には私たちの力など必要ないみたいだな」
母も口を開く。
「イザベラ。土下座する度胸があるなら大丈夫よ。その彼、大事にしなさいよ」
私の胸が激しく高鳴った。
涙が溢れて止まらなかった。
「ありがとう……本当に、ありがとう……」
アリアもこれから幸せになってくれるといいな……涙で視界が滲む中、私はそう思った。
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