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 最近のローラ様は見ていられませんでした。
 そんなお節介な思いが、逆にローラ様を苦しめることになるなんて想像も出来ず、私はただただ自分のした愚かな行いを後悔するばかりです。

 一か月前。
 使用人として買い物を命じられた私は、馬車で街に出ておりました。
 買い物が済み馬車を停めた場所へと向かっていると、ふと視界の隅にアーサー様が映りました。

 一瞬気のせいかと思いました。
 なぜならこの時間アーサー様は家で領地関連のお仕事をしているはずだったからです。
 しかし私は自然に、彼の姿を追っていました。

 やはりそれはアーサー様でした。
 見た目は背格好が瓜二つで、他人の空似などでは説明できないほど似ておりました。
 
 おそらく仕事の息抜きに来たのでしょう。
 アーサー様は、男性が一人でほとんど訪れることのないだろうケーキ屋さんの前に佇んでおられました。

「一人で大丈夫かしら?」

 そんな疑問が脳裏をよぎります。
 公爵令息といえど、ケーキ屋さんに一人で入るのは勇気がいるはず。
 そう思った私は、アーサー様に話しかけようとしました。
 しかし。

「アーサー様ぁ……お待たせしましたぁ!」

 私よりも先にアーサー様の元へ向かったのは、可愛らしい恰好をした女性でした。
 美しいピンク色の髪が揺れ、近くにいた男性が彼女の美しさに振り返っています。
 アーサー様は嬉しそうに笑いながら彼女の頬にキスをしました。

「大丈夫、僕も今着いた所だから」

「よかったぁ……遅刻してアーサー様に嫌われるんじゃないかって、不安だったんですぅ……」

「ははっ……そんなこと気にしないでくれ。僕は一生君を愛すから」

「本当ですか!? 嬉しい!!」

 まるで二人は初々しい恋人のような会話を重ねておりました。
 私は愕然としました。
 アーサー様には、私の友人でもあるローラ様という妻がおられます。
 まだ結婚して二年しか経っていないというのに、アーサー様は他の女性に心移りしてしまったようです。

 二人はケーキ屋さんに入っていきました。
 私は話しかけることも出来ずに、その場に立ちすくんでしまいます。
 数秒してから我に返った私は、急いで馬車に戻りました。
 御者に行先は告げずにここで待つように言いました。

 馬車の中からはケーキ屋さんの入り口が見えます。
 そのまま数十分待っていると、アーサー様と先ほどの女性が出てきました。
 私はそっと馬車から降りると、二人の後をつけることにしました。

 二人はどんどん人気のない道へと進んでいき、やがて裏路地へと入りました。
 そこで私は衝撃的な光景を見てしまったのです。

「愛してる! エレーナ!」
「私も! アーサー様! 私も愛してます!」

 二人は情熱的にキスをしておりました。
 私は衝撃で口をぽかんと開けて、その光景にただ見入っておりました。
 しかしだんだん辛い気持ちになってきて、それ以上は見ていられませんでした。

 その後、私はローラ様にこのことを告げました。
 そしてローラ様はアーサー様とお話をしました。
 てっきり離婚が成立したものと思っていましたが、違うようでした。
 私がこのことを話す前よりも、ローラ様は苦しんでおられるようでした。

 全部私の責任です。
 私が身勝手な行いをしたせいで、ローラ様を更に苦しめてしまったのです。

 このままではいけないと思いました。
 友人でもあるローラ様が苦しむ様をただ見ているだけなんて、私には出来ません。
 
 私は覚悟を決めました。
 ローラ様を守るために、アーサー様を断罪する覚悟を。

「ローラ様。私がついております。私があなたを救います」

 そう心の中で思いながら、私は今日も使用人の仕事に励みます。
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