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兄妹のやり取りを見て、黎明はガリガリと頭を掻く。
(少し突っ込み過ぎたか。だが、このまま力を多用するのは危険だしなー。にしても)
黎明はそう思いながら、じーっと比奈を見つめる。
(なんで彼女から妖気が、感じられるんだ?)
黎明の目には、比奈を覆う黒く澱んだ妖力の膜が、写っていた。
比奈は兄の背中をポンポンと叩いて、離すように促す。そして自分をじっと見つめてくる黎明に戸惑った表情で首を傾げる。
「あの……」
「あぁすまん。さっきも悪かった。今日、会ったばかりの俺が言うことじゃ無かったな」
「い、いえ! 黎明様は異能者について、よくご存知なのですね。だから、わたしの身を案じても、仰ってくださったのですよね?」
黎明は照れくさそうに目線を反らし、頬を掻く。
「まぁ、な。どんなものでも対価ってものがあるからな。異能は大抵、本人の体力って言うし。神流みたいに底無しの体力なら、心配ないんだろうが」
「私の体力だって底無しではありませんよ!」
黎明の呆れが混じった物言いに、神流が噛みつく。だが、黎明はひらひらと手を振って、相手にしない。
「ところで、この部屋って妖怪払いの結界が、張られているんだな。 庭の隅と部屋の隅にも、札が貼ってあるし」
黎明は先程、庭で見た札と部屋にある札を見比べる。だがそれには黒い靄のようなもので覆われていた。
「はい。父が、法力が強いと噂のお坊様をお連れくださり、その方に施していただきました。そのときにお守りもくださって」
「法力ね……。そのお守り、見せてもらってもいいか?」
黎明に言われて、比奈は異性の前だというのに、気にした様子はなく、衿元をずらしてお守りを取り出す。
その際、彼女の肌が偶然、目に入った。立場上、女性に慣れているはずの黎明だが、純粋な比奈の行動に、思わず頬を赤くする。
妹の肌を見て赤くなる主人に、神流は比奈を己のほうに引き寄せ、冷めた目を向けた。
「どこ見てるんですか、黎明様」
「なっ! べ、べつ、別に! 見てねぇよ! ただ、綺麗だなって……」
神流は無言で刀を手に取る。
「ま、待てって! 不可抗力だろ!」
「もう、兄様。なにをそんなに怒っているんですか?」
「……おまえが無防備すぎるからだろ」
神流は脱力しながら、きょとんとした顔をみせる妹の頭を、優しく撫でた。
彼の怒りが消えたことに、黎明は安心したように息をつく。そして比奈の首から下がるお守りに、視線を向けた。
「っ。これは……」
黎明は言葉に詰まる。妖気の発生源は、そのお守りからだったのだ。
(なんだこの禍々しい気は。札からも同じ気を感じたし。お守り、じゃねぇな。なんなんだよ、これ)
「黎明様?」
神流に声をかけられ、黎明ははっとして顔を上げる。すると、兄妹から心配や不安が混じった視線を受けた。
「あ、えっと……。俺も少しは術を、かじってるからさ。その、すごい、力の強い、お守り、だな」
黎明は苦し紛れに、そう誤魔化す。すると比奈は、お守りに目を落とした。
「えぇ。そう、なのですが」
彼女の横顔は、なにかを迷っている様子だった。
「比奈、どうした?」
「悩みを抱えているのなら、言ってみてくれないか?」
神流と黎明、二人に言われて、比奈は俯きながら口をおずおずと開く。
「実は、結界をお坊様に作っていただいてから、誰かから常に監視されているような気がしていて……」
「はっ!? ちょ、なんで言わなかったんだよ!」
神流の言葉に、比奈は眉を寄せる。
「だって、わたしのせいで、父様たちにご迷惑をおかけしていましたし……。なにより、わたしがもう狙われないとわかって喜ぶ家族に、言えるわけないじゃありませんか」
「だけどっ」
「ちょっと落ち着け、神流」
比奈に詰め寄る神流を、冷静な声で黎明が止める。そして真剣な顔を、比奈に向けた。
「監視されてるって、今もか?」
「……はい。でも、ずっと狙われていたから、そう思ってしまっているのかもしれません」
比奈の言う事も一理あり、黎明は腕を組む。
「なぁ、その坊さんのことで、なにか覚えていないか? 例えばどんな顔をしていたとか」
比奈は小さく首を横に振る。
「お顔は、笠を深く被っておられたので、あまり印象には……。それ以外で覚えていることといえば、結界とお守りが、わたしを守るためのものだと言われたことくらいです」
「そうか……」
「お役に立てず、申し訳ありません」
「いやいや。気にするな」
比奈が落ち込むので、黎明は励ます。彼女を慰めながらも、思考は兄妹のいう旅の僧侶のほうへ、飛んでいた。
(お守りや札の禍々しさと、顔を隠していたとなると、妖怪の可能性が高い。本来、狐や狸の妖怪なら驚かすために人間に化けるが、それ以外のやつらはそんなことしないもんな。だが、比奈を守るためのものを渡しているとなると、異能持ちをすべての妖怪が狙うわけでもないし、良い妖怪か?)
「あ、でも」
「ん?」
声を発した比奈に、黎明は顔を向ける。
「その、なぜか、怖かった、という印象が、あります」
「怖かった、ねぇ」
黎明は唇を撫でた。
(妖怪を見慣れているはずの比奈が怖がるってことは、自分が狙われていると、無意識のうちに理解したからだろうな。じゃあ、やっぱり狙いは比奈? それでここの結界は、ほかのモノに横取りされないためのものとして、お守りは比奈の居場所を、知るためのもの? でもなんですぐに襲わなかったんだ?)
推測を重ねていくうちに、黎明の表情はなくなり、雰囲気も冷たく、刺々しいものになっていく。
「黎明様」
黎明の変化に気づいた神流が名を呼ぶと、黎明は我に返った。
神流はもちろん、比奈までもが困惑した顔を向けている。
「あぁ、ごめんな。とりあえず、その坊さんのことは置いといて。なんか、楽しめる話でもするか」
「あの、では、兄様の職場でのご様子を、お聞きしたいです。兄様はいつも、一緒にお仕事されている方のお話ばかりですので」
黎明が気を使ったのがわかった比奈は、あえてそれに乗り、話題を提供した。
「いいぜ。神流はな、実は職場ですげぇ威張ってて」
「ちょっと、変なこと言わないでくださいよ!」
いきなり黎明が嘘をつきはじめたので、神流は怒った。
(少し突っ込み過ぎたか。だが、このまま力を多用するのは危険だしなー。にしても)
黎明はそう思いながら、じーっと比奈を見つめる。
(なんで彼女から妖気が、感じられるんだ?)
黎明の目には、比奈を覆う黒く澱んだ妖力の膜が、写っていた。
比奈は兄の背中をポンポンと叩いて、離すように促す。そして自分をじっと見つめてくる黎明に戸惑った表情で首を傾げる。
「あの……」
「あぁすまん。さっきも悪かった。今日、会ったばかりの俺が言うことじゃ無かったな」
「い、いえ! 黎明様は異能者について、よくご存知なのですね。だから、わたしの身を案じても、仰ってくださったのですよね?」
黎明は照れくさそうに目線を反らし、頬を掻く。
「まぁ、な。どんなものでも対価ってものがあるからな。異能は大抵、本人の体力って言うし。神流みたいに底無しの体力なら、心配ないんだろうが」
「私の体力だって底無しではありませんよ!」
黎明の呆れが混じった物言いに、神流が噛みつく。だが、黎明はひらひらと手を振って、相手にしない。
「ところで、この部屋って妖怪払いの結界が、張られているんだな。 庭の隅と部屋の隅にも、札が貼ってあるし」
黎明は先程、庭で見た札と部屋にある札を見比べる。だがそれには黒い靄のようなもので覆われていた。
「はい。父が、法力が強いと噂のお坊様をお連れくださり、その方に施していただきました。そのときにお守りもくださって」
「法力ね……。そのお守り、見せてもらってもいいか?」
黎明に言われて、比奈は異性の前だというのに、気にした様子はなく、衿元をずらしてお守りを取り出す。
その際、彼女の肌が偶然、目に入った。立場上、女性に慣れているはずの黎明だが、純粋な比奈の行動に、思わず頬を赤くする。
妹の肌を見て赤くなる主人に、神流は比奈を己のほうに引き寄せ、冷めた目を向けた。
「どこ見てるんですか、黎明様」
「なっ! べ、べつ、別に! 見てねぇよ! ただ、綺麗だなって……」
神流は無言で刀を手に取る。
「ま、待てって! 不可抗力だろ!」
「もう、兄様。なにをそんなに怒っているんですか?」
「……おまえが無防備すぎるからだろ」
神流は脱力しながら、きょとんとした顔をみせる妹の頭を、優しく撫でた。
彼の怒りが消えたことに、黎明は安心したように息をつく。そして比奈の首から下がるお守りに、視線を向けた。
「っ。これは……」
黎明は言葉に詰まる。妖気の発生源は、そのお守りからだったのだ。
(なんだこの禍々しい気は。札からも同じ気を感じたし。お守り、じゃねぇな。なんなんだよ、これ)
「黎明様?」
神流に声をかけられ、黎明ははっとして顔を上げる。すると、兄妹から心配や不安が混じった視線を受けた。
「あ、えっと……。俺も少しは術を、かじってるからさ。その、すごい、力の強い、お守り、だな」
黎明は苦し紛れに、そう誤魔化す。すると比奈は、お守りに目を落とした。
「えぇ。そう、なのですが」
彼女の横顔は、なにかを迷っている様子だった。
「比奈、どうした?」
「悩みを抱えているのなら、言ってみてくれないか?」
神流と黎明、二人に言われて、比奈は俯きながら口をおずおずと開く。
「実は、結界をお坊様に作っていただいてから、誰かから常に監視されているような気がしていて……」
「はっ!? ちょ、なんで言わなかったんだよ!」
神流の言葉に、比奈は眉を寄せる。
「だって、わたしのせいで、父様たちにご迷惑をおかけしていましたし……。なにより、わたしがもう狙われないとわかって喜ぶ家族に、言えるわけないじゃありませんか」
「だけどっ」
「ちょっと落ち着け、神流」
比奈に詰め寄る神流を、冷静な声で黎明が止める。そして真剣な顔を、比奈に向けた。
「監視されてるって、今もか?」
「……はい。でも、ずっと狙われていたから、そう思ってしまっているのかもしれません」
比奈の言う事も一理あり、黎明は腕を組む。
「なぁ、その坊さんのことで、なにか覚えていないか? 例えばどんな顔をしていたとか」
比奈は小さく首を横に振る。
「お顔は、笠を深く被っておられたので、あまり印象には……。それ以外で覚えていることといえば、結界とお守りが、わたしを守るためのものだと言われたことくらいです」
「そうか……」
「お役に立てず、申し訳ありません」
「いやいや。気にするな」
比奈が落ち込むので、黎明は励ます。彼女を慰めながらも、思考は兄妹のいう旅の僧侶のほうへ、飛んでいた。
(お守りや札の禍々しさと、顔を隠していたとなると、妖怪の可能性が高い。本来、狐や狸の妖怪なら驚かすために人間に化けるが、それ以外のやつらはそんなことしないもんな。だが、比奈を守るためのものを渡しているとなると、異能持ちをすべての妖怪が狙うわけでもないし、良い妖怪か?)
「あ、でも」
「ん?」
声を発した比奈に、黎明は顔を向ける。
「その、なぜか、怖かった、という印象が、あります」
「怖かった、ねぇ」
黎明は唇を撫でた。
(妖怪を見慣れているはずの比奈が怖がるってことは、自分が狙われていると、無意識のうちに理解したからだろうな。じゃあ、やっぱり狙いは比奈? それでここの結界は、ほかのモノに横取りされないためのものとして、お守りは比奈の居場所を、知るためのもの? でもなんですぐに襲わなかったんだ?)
推測を重ねていくうちに、黎明の表情はなくなり、雰囲気も冷たく、刺々しいものになっていく。
「黎明様」
黎明の変化に気づいた神流が名を呼ぶと、黎明は我に返った。
神流はもちろん、比奈までもが困惑した顔を向けている。
「あぁ、ごめんな。とりあえず、その坊さんのことは置いといて。なんか、楽しめる話でもするか」
「あの、では、兄様の職場でのご様子を、お聞きしたいです。兄様はいつも、一緒にお仕事されている方のお話ばかりですので」
黎明が気を使ったのがわかった比奈は、あえてそれに乗り、話題を提供した。
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