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翼の生えた少年
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『ヴィルム伯爵家は取り潰しとなる、財産は王家へ返却し、民のために使用できる様計らうように。これが神からのお告げである。』
芝居がかったボーイソプラノの透き通るような声。
目の前には翼を生やした少年が、豪華な衣装を見に纏い、両手を広げ祈りを捧げている。
周囲の人間はみな、彼を神のみ使いだと疑わず、一言一句聞き漏らすまいと、張り詰めるような静寂を生み出していた。
「今日の夕食だ、お疲れ様ミカ」
穏やかな微笑みを浮かべながら肩に手を置く老人は一番偉い人と言われている。
どうして偉い人なの?
と聞いた事はあるが、一番偉いということだけ覚えていればいいと言われたためそうしている。
「ありがとう!今日のご飯はシチューだね!あと聖杯も!」
赤黒い液体が、金色の杯に似合わずに並々と注がれていた。
「そうだよ、これはありがたいものだからね。」
残さず飲むように、そう言い残し偉い人は去っていった。
今日の夕食はシチューと聖杯!
お勤めは上々!
ほかほかと湯気が立ち上るシチューを頬張りながらお勤めのことを思い出していた。
ヴィルム伯爵ってどんな人だったんだろう?
偉い人が持ってきた託宣には取り潰しって書いてあったけど。
王家にお金を取られちゃって行くところはあるのかな?
そう考えていると珍しく人影がある事に気づいた。
「あれ?誰なの??ここに人が来るのは珍しいんだ!」
そう声かけると人影はゆっくりこちらに向かって動いた。
目が見えないほど深くフードをかぶっているが綺麗な新緑のドレス
白い手は労働を知らない、なめらかな肌。
「ねぇ、君はだあれ?僕はミカ!天使だよ」
そう告げると、フードの人はピクリと震え、両手で肩を抱きながら震える声で答えた。
「わたしはヴィクトリア、あなたに話があってきたの」
「僕に話がある人なんてはじめてだ!」
ミカは無邪気に笑顔を見せた。
ヴィクトリアはフードを恐る恐る外すとそこには豪華な金の紙がさらさらと肩に流れ落ちる。
フードの人はヴィクトリア、女の子って事かな?
女の子もはじめてだ!
神殿の中は男の人しかいない。
女の人は穢れ?ているから入る事はできないって言っていた。
でも、ヴィクトリアは目も神殿の壁画に書いてある神様と一緒の青色でとても綺麗だ。
ほぅ、とミカが見惚れてため息をついていると
「どうしてヴィルム伯爵家は取り潰しになったの?あそこは神殿の汚職を見つけ、そこに充てていた予算を平民の病院運用に充てるべきと意見書を記載していたわ」
射抜くように鋭い青い目がミカを映している
「神は平民の病院よりも神殿の衣装を豪華にするためにお金を使えと仰るのかしら?」
ヴィクトリアは挑発的に、ミカを責めるように人差し指を突き出す。
「ちょっとまって、僕は神様とお話はできないんだ」
「どういうことよ?あなたが毎日託宣を読み上げているじゃない」
「そうなんだけど、僕は力を持って生まれてこなかった天使なんだ、だから僕じゃなくて偉い人が神様から聞いた話を、僕がみんなに伝えているんだよ」
「なにそれ?そんなの、騙されているだけじゃない!」
ヴィクトリアは気付いたように周囲を見渡す。
そういえば、天使がいる部屋は調度品自体は豪華だが、全ての窓に鉄格子が嵌め込まれており、どこのドアを開けても格子状の柵が嵌められている。
柵越しに話している事に気付いたヴィクトリアは
そういうことね、、、
やられたわ
と呟いて黙ってしまった。
気まずい沈黙の中、ミカはヴィクトリアと話していた内容が気になって仕方なかったため女の子にはじめて、勇気を振り絞って話しかける。
「ねぇ、ヴィクトリア」
「なによ?」
「ヴィルム伯爵さん達はどうなったの」
ヴィクトリアは虚をつかれた様にこちらを一瞥し、力強い口調で答えた。
「明朝、処刑されるわ。神の名の下にね」
「処刑?処刑って死んじゃうってこと?どうして??」
「表向きは、王家への反逆罪を神が暴いたという事になっているわ。でも実際は神殿の汚職を隠すためってところね、やり方が汚いわ」
ヴィクトリアは悔しそうに顔を歪ませる
どうして、僕のせいなの?
僕があの託宣を読んだから?
頭の中がぐるぐる回って、立っている場所が揺れている様だった。
「言っておくけど、貴方のせいでもあるわよ。けれど本当に悪い奴は貴方を騙して託宣を読ませているやつよ」
ミカにはどうしても信じられなかった。
偉い人が、人を殺す様なことを僕に言わせているなんて
「でも、この一番偉い人、、なんだよ、そんな事するかなぁ、、」
ヴィクトリアは呆れた顔でこう言った
「ならわたしの父親はこの国で一番偉い人よ。そんな人でも必要とあれば人を殺すわ。偉い人ほど人殺しに責任を、大義を持たなければいけないの」
そう言って前を向くヴィクトリアはとても綺麗だった。
僕はこの時、この気持ちが何なのか全く理解していなかったけど
トリア、君の側にいる事で胸の辺りがとてもギュッとなって温かくなった。
この気持ちが愛するという事だと気付いた時には、僕はもう処刑台に上がっていたけれど。
処刑台からは色んなものが見えた。
次、僕に羽が生えるとしたらどこに行こうか。
これから死ぬと言うのに、口元には自然に笑みが溢れる。
どこに行ったとしても、最後には君の所へ戻ろう。
首に縄がかけられる。
最後の瞬間に、君と目が合った気がした。
「愛してるよ」
そう呟いて僕はそっと目を閉じた。
芝居がかったボーイソプラノの透き通るような声。
目の前には翼を生やした少年が、豪華な衣装を見に纏い、両手を広げ祈りを捧げている。
周囲の人間はみな、彼を神のみ使いだと疑わず、一言一句聞き漏らすまいと、張り詰めるような静寂を生み出していた。
「今日の夕食だ、お疲れ様ミカ」
穏やかな微笑みを浮かべながら肩に手を置く老人は一番偉い人と言われている。
どうして偉い人なの?
と聞いた事はあるが、一番偉いということだけ覚えていればいいと言われたためそうしている。
「ありがとう!今日のご飯はシチューだね!あと聖杯も!」
赤黒い液体が、金色の杯に似合わずに並々と注がれていた。
「そうだよ、これはありがたいものだからね。」
残さず飲むように、そう言い残し偉い人は去っていった。
今日の夕食はシチューと聖杯!
お勤めは上々!
ほかほかと湯気が立ち上るシチューを頬張りながらお勤めのことを思い出していた。
ヴィルム伯爵ってどんな人だったんだろう?
偉い人が持ってきた託宣には取り潰しって書いてあったけど。
王家にお金を取られちゃって行くところはあるのかな?
そう考えていると珍しく人影がある事に気づいた。
「あれ?誰なの??ここに人が来るのは珍しいんだ!」
そう声かけると人影はゆっくりこちらに向かって動いた。
目が見えないほど深くフードをかぶっているが綺麗な新緑のドレス
白い手は労働を知らない、なめらかな肌。
「ねぇ、君はだあれ?僕はミカ!天使だよ」
そう告げると、フードの人はピクリと震え、両手で肩を抱きながら震える声で答えた。
「わたしはヴィクトリア、あなたに話があってきたの」
「僕に話がある人なんてはじめてだ!」
ミカは無邪気に笑顔を見せた。
ヴィクトリアはフードを恐る恐る外すとそこには豪華な金の紙がさらさらと肩に流れ落ちる。
フードの人はヴィクトリア、女の子って事かな?
女の子もはじめてだ!
神殿の中は男の人しかいない。
女の人は穢れ?ているから入る事はできないって言っていた。
でも、ヴィクトリアは目も神殿の壁画に書いてある神様と一緒の青色でとても綺麗だ。
ほぅ、とミカが見惚れてため息をついていると
「どうしてヴィルム伯爵家は取り潰しになったの?あそこは神殿の汚職を見つけ、そこに充てていた予算を平民の病院運用に充てるべきと意見書を記載していたわ」
射抜くように鋭い青い目がミカを映している
「神は平民の病院よりも神殿の衣装を豪華にするためにお金を使えと仰るのかしら?」
ヴィクトリアは挑発的に、ミカを責めるように人差し指を突き出す。
「ちょっとまって、僕は神様とお話はできないんだ」
「どういうことよ?あなたが毎日託宣を読み上げているじゃない」
「そうなんだけど、僕は力を持って生まれてこなかった天使なんだ、だから僕じゃなくて偉い人が神様から聞いた話を、僕がみんなに伝えているんだよ」
「なにそれ?そんなの、騙されているだけじゃない!」
ヴィクトリアは気付いたように周囲を見渡す。
そういえば、天使がいる部屋は調度品自体は豪華だが、全ての窓に鉄格子が嵌め込まれており、どこのドアを開けても格子状の柵が嵌められている。
柵越しに話している事に気付いたヴィクトリアは
そういうことね、、、
やられたわ
と呟いて黙ってしまった。
気まずい沈黙の中、ミカはヴィクトリアと話していた内容が気になって仕方なかったため女の子にはじめて、勇気を振り絞って話しかける。
「ねぇ、ヴィクトリア」
「なによ?」
「ヴィルム伯爵さん達はどうなったの」
ヴィクトリアは虚をつかれた様にこちらを一瞥し、力強い口調で答えた。
「明朝、処刑されるわ。神の名の下にね」
「処刑?処刑って死んじゃうってこと?どうして??」
「表向きは、王家への反逆罪を神が暴いたという事になっているわ。でも実際は神殿の汚職を隠すためってところね、やり方が汚いわ」
ヴィクトリアは悔しそうに顔を歪ませる
どうして、僕のせいなの?
僕があの託宣を読んだから?
頭の中がぐるぐる回って、立っている場所が揺れている様だった。
「言っておくけど、貴方のせいでもあるわよ。けれど本当に悪い奴は貴方を騙して託宣を読ませているやつよ」
ミカにはどうしても信じられなかった。
偉い人が、人を殺す様なことを僕に言わせているなんて
「でも、この一番偉い人、、なんだよ、そんな事するかなぁ、、」
ヴィクトリアは呆れた顔でこう言った
「ならわたしの父親はこの国で一番偉い人よ。そんな人でも必要とあれば人を殺すわ。偉い人ほど人殺しに責任を、大義を持たなければいけないの」
そう言って前を向くヴィクトリアはとても綺麗だった。
僕はこの時、この気持ちが何なのか全く理解していなかったけど
トリア、君の側にいる事で胸の辺りがとてもギュッとなって温かくなった。
この気持ちが愛するという事だと気付いた時には、僕はもう処刑台に上がっていたけれど。
処刑台からは色んなものが見えた。
次、僕に羽が生えるとしたらどこに行こうか。
これから死ぬと言うのに、口元には自然に笑みが溢れる。
どこに行ったとしても、最後には君の所へ戻ろう。
首に縄がかけられる。
最後の瞬間に、君と目が合った気がした。
「愛してるよ」
そう呟いて僕はそっと目を閉じた。
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