羽の生えた少年が、愛した少女は。

すず

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天使に愛された娘

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『天使病』

羽の生えた魔物イリウスを過剰摂取する事で人体に羽根が生える病。
名前の通り、天使の様に見えることからその名がついたが、羽根が生え、早くて数ヶ月後には死に至る病である。

飢饉や戦争が起きた時に天使が現れ世を導くと思われていたが、食べ物がなく魔物を食べるほか無い状況に陥っただけに過ぎなかったのだ。

そのことにいち早く気づいた神殿は自ら天使を産み出し、長きに渡り民を騙してきたのだ。

今わたしの手元にある書物は近年、友好関係にある隣国から入手したものだが、これらの書物は神の名の下に害悪とされ禁書扱いとなっていた。
全てはあの子が神に背いたおかげで今この景色が見れているのだ。

私達ははじめて話したあの時から、度々人目を盗んでは会う様になっていた。
あの子、ミカは歳の割には幼い話し方をしていたが、歳の頃は当時17歳のわたしと同じであったはずだ。

この本によると、ミカの翼はすでに立派な物となっていた為、この頃からミカの体には死が忍び寄っていたに違いない。

私達はいろいろなことを語り、学び合い、競い合い、最期の瞬間にミカは自身の呪われた運命に気付いてしまった。

神殿の造られた飼い天使である事を拒否したミカは、最後の仕事である託宣で大きな抵抗を成し遂げたのであった。


「ミカっ、、!なぜあの様な事を!?」

いつもの自室とは違う、地下牢に入った天使が浮かべる表情は、出会った時のような無邪気な笑顔ではなく、人そのものであった。

「トリア、僕は気づいてしまったんだよ。この国は腐ってる。だから天使である僕が思う腐ったものは排除したそれだけの話だよ」

「だからって、、、あんな事、私は望んでいなかった!」

「どうして?トリアはりっぱなおうさまになるよ。トリアの弟のヴィクターだっけ?あいつよりよっぽど立派な王になる。それは間違いないよ」

ここに正直に打ち明けよう。
私には王位につく自信があった。
しかし、男だからという理由で王位に着く弟を疎ましく思っていたのも事実である。
しかし、決して、ミカに打ち明けた事はなかったはずだ。

ミカは弟の王位継承の儀を境に解任という名の新たな王から死を賜る予定であった。

使用済みの天使は新たな王の手で処分せよという、神殿のやりそうな汚い手であった。

ミカは王位継承者の名前を勝手にわたしに変更し、王位継承とともに神殿の解散を神の名の下に託宣した。

「ねぇ、トリアこれはもしかしたら僕のわがままなのかもしれないね。でも、最期は君の手で迎えたいと思ったんだ。」

「ミカ、、、」

言葉を発せずに黙るわたしにミカは優しく微笑んだ。

「ありがとう、ヴィクトリア。君と会えて僕の人生は始まったんだ。」

そう言って鉄格子越しにわたしの頬を撫でるその手はゴツゴツとしてどこかあたたかかった。



長年我が国は鎖国状態で『天使が治める国』と呼ばれていたらしい。
わたし自身も、人であり、同じく人であった神殿の人々や、天使達の犠牲に目を閉ざしてきた貴族達と同じ過ちを犯さないとは言い切れない。

私が国はもう二度と天使に頼る様な政治は行わない。

しかし、自戒の念を込め、ここに我が手記を残そう。
どうか子々孫々に繋ぐ平和の導として役立ててほしい。

アシュバルク王国王女 ヴィクトリア・フィン・アシュバルク





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