願わくば──────

SAKURA

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不思議な話

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 お昼を食べ終わって、薬を差し出された。
 免疫抑制剤。移植手術をして体が治っても、別の人間の臓器を体内に入れたことにより、免疫の過剰反応の拒絶反応で命を落とすことがある。
 それを防ぐために免疫を抑える薬を毎日飲む必要がある。幸人も飲んでいる薬だ。
 その時、勢いよくドアが開いた。先生はビクッと体を震わせ、私は飲んでいた水が咽せて咳き込んだ。そこには、分厚い本を三冊持った結愛が息を切らして立っていた。
「どうした夢叶、大丈夫か!おい医者!なんてことしてくれたんだ!!」
 とんでもないとばっちりを受けた佐藤先生は放心状態になっている。
「あ、いや、全面的に君のせいだと思うよ」
 と、我に返って冷静に返した。
 一方その頃、私はまだ咳き込んでいた。しばらくして落ち着くと、結愛はほっと息をついた。
「佐藤先生の言う通り、さっきのは全面的に結愛が悪い」
「院内ではもう少し静かにしようね」
 と、私たちの集中攻撃を受けた結愛は、わざとらしくダメージを受ける。結愛らしいといえばらしいが。
「どんな本を持ってきてくれたの?」
 私は話を逸らそうと、結愛の持っている分厚い本に目を向けた。
「あぁ、夢叶は感動する系が好きでしょ?だから色々探したんだよ」
 まるで感謝しろとでも言うような口調だが、何も気づかないふりをして本をパラパラとめくった。
 確かに私の好きそうな物語だった。さすがは親友。
「ありがとう結愛。これで暇を持て余すことは無くなるよ」
「他にも何か持ってくる?」
 暇を無くしたいのは山々だが、持ってきてもらうものが思い浮かばない。本だけで十分だとも思っている。
「暇で仕方ないなら絵でも描いたら?」
 守が口を開いた。
 絵か。確かに暇つぶしになるかもしれない。そして私は結愛にスケッチブックと筆記用具を持ってきてもらうことになった。
 申し訳ないと思ったが、結愛は快く引き受けてくれた。
 結愛が出かけている間に、三百ページほどある本を一冊読み終えていた。
 大体二時間といったところだろうか。時計に目を向けると三時前を指していた。
 先生はいつの間にかどこかへ行っていた。
 読み終わった本を振り返っているうちに結愛が戻ってきた。
 どうやら最初にここにきたときは、全速力で自転車を漕いでいたから十分で来れたらしい。本来なら夢叶よりも長く、三十分かかるんだとか。
 家にスケッチブックと色鉛筆がなかったので、急いで店に買いに行ったら二時間もかかってしまったらしい。
 息を切らしながら謝る結愛を見て、私の方が申し訳なくなってきた。
 お詫びとして、似顔絵を描くことになった。私はあまり絵を描かない。全ての時間を勉強に注ぎ込んだ私の絵は、お世辞にも上手いとは言えなかった。
 でも、そんな絵でも結愛は喜んだ。
 それから一週間、私は主に読書と絵を描いて過ごした。
 室内と、窓から見える景色は描き飽きたので、かすみちゃんと結愛に頼んで花を持ってきてもらったりした。
 ずっと絵を描いていれば、次第に上手くなる。佐藤先生も見せたら驚かれた。
 ちなみに結愛とかすみちゃんは、毎日のようにお見舞いに来ていたので、顔見知りになるのに時間はかからなかった。
 私の元彼(幸人)が馬鹿だという話をして盛り上がり、なにやら「夢叶を守ろうの会」とやらが結成されたことは、実に不思議な話だ。
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