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ごめん
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***
かすみから電話が来たことに不信に感じながらも、電話に出た瞬間、聞き覚えのある声が聞こえた。
『早く市内にある中央病院に来い!夢叶が死ぬぞ!三〇四号室な!』
いきなりそんなことを言われ、疑問に思わない人間はいない。
元恋人の名前を出され、自分が入院していた病院に来いと言われて不安に思わないわけがない。
電話が切れた瞬間、俺は気づいたら走り出していた。自転車にまたがり、全力で走らせていた。
『ご臨終です』
この言葉が誰のことを指しているのかを、考えたくもなかった。ドアを開けた瞬間、かつて愛していた女の子がベッドに寝ていた。
…いや、今でも愛している。
昔、夢叶に対して「愛してる」と言い続けたことがあった。それなのに夢叶は「愛してる」と返してくれることはなかった。
別に「愛してる」という言葉だけを言って欲しいわけじゃなかった。
ただ「好き」という二文字だけでもいいから、自分に対しての好意を表して欲しかった。でも、一言も言ってはくれなかった。
それは夢叶が自分を愛していないんじゃないか。もしかしたら他に好きな人がいるのではないか。そう考え、悩んだ末に別れることを決意してしまった。
自分の隣でなくてもいいから、どこかで笑っていて欲しいと思った。だから振ったのだ。
「遅えよ!!」
岩崎結愛が俺に怒鳴る。と同時にグーパンで殴った。頬が痛んだが、そこまで頭が回ることはなかった。夢叶のことで頭がいっぱいだった。
「どうして、どうして…」
なぜ夢叶がそこで息絶えているのかが理解できない。
一体どこから間違えてしまったのだろう。どこからやり直せばこんな結末を回避できたのだろう。
退院してからの最初のテニスの試合で、女の子が熱中症で倒れたらしい。その時、かすみが「夢叶ちゃん」と叫んでいた。
その時も考えた。もしかしたら自分の体の中にある肝臓は夢叶のものではないのかと。そして、もともと癌細胞まみれになっていた自分の肝臓を、夢叶の中に入れたのではないかと。
そんな非現実的なことがあるはずがないと、途中で考えることをやめた。でも、かすみの言葉がそれを確信とさせた。
「夢叶ちゃんは、自分から肝臓を移植するって言ってくれたんだよ」
どこからやり直せばいいのか、もう分からなかった。健康診断でも受ければよかったのか。
いや、もういっそのこと細胞からやり直してしまいたい。どこからやり直したって夢叶はきっと、肝臓の移植を名乗り出るだろうから。
俺を殴った後、佐藤先生に抑えられていた結愛が泣きながら怒鳴った。
「夢叶が私たちの、お前の幸せを願ってた!だから死ぬなよ。夢叶からもらった命を無駄にするなよ、絶対に!!」
「夢叶…」
もう動かない夢叶の手に触れた。まだ温もりが残っているが、とても健康的とは言えない。ガリガリに痩せ細って、肌は荒れている。
「…ごめん」
何に謝ったらいいのか、何に謝っているのか、俺自身も分からなかった。でも、謝らずにはいられなかった。
「ああああああああああああああああああ!!」
病院内にも関わらず大声で泣いて謝り続ける俺を、誰も止めなかった。
***
後から分かったことだが、幸人くんと結愛ちゃんは知り合いだったという。同じ小学校で仲が良かったらしい。
だから躊躇いもせず幸人くんをぶん殴れたのかと、僕とかすみちゃんは納得した。
二日後、幸人くんは全国大会に出場した。本当に病気だったのかと誰もが疑うほどの大活躍をして、当然のように勝利を納めた。
その勝利を夢叶ちゃんの遺影に向かって得意気に、そして悲しそうに話していた。
幸人くんは大学に進んでもテニスを続けた。大会に行くごとにその結果を夢叶ちゃんに伝える日々を繰り返していた。
そんな生活を続けていたとき、幸人くんが死んだ。
かすみから電話が来たことに不信に感じながらも、電話に出た瞬間、聞き覚えのある声が聞こえた。
『早く市内にある中央病院に来い!夢叶が死ぬぞ!三〇四号室な!』
いきなりそんなことを言われ、疑問に思わない人間はいない。
元恋人の名前を出され、自分が入院していた病院に来いと言われて不安に思わないわけがない。
電話が切れた瞬間、俺は気づいたら走り出していた。自転車にまたがり、全力で走らせていた。
『ご臨終です』
この言葉が誰のことを指しているのかを、考えたくもなかった。ドアを開けた瞬間、かつて愛していた女の子がベッドに寝ていた。
…いや、今でも愛している。
昔、夢叶に対して「愛してる」と言い続けたことがあった。それなのに夢叶は「愛してる」と返してくれることはなかった。
別に「愛してる」という言葉だけを言って欲しいわけじゃなかった。
ただ「好き」という二文字だけでもいいから、自分に対しての好意を表して欲しかった。でも、一言も言ってはくれなかった。
それは夢叶が自分を愛していないんじゃないか。もしかしたら他に好きな人がいるのではないか。そう考え、悩んだ末に別れることを決意してしまった。
自分の隣でなくてもいいから、どこかで笑っていて欲しいと思った。だから振ったのだ。
「遅えよ!!」
岩崎結愛が俺に怒鳴る。と同時にグーパンで殴った。頬が痛んだが、そこまで頭が回ることはなかった。夢叶のことで頭がいっぱいだった。
「どうして、どうして…」
なぜ夢叶がそこで息絶えているのかが理解できない。
一体どこから間違えてしまったのだろう。どこからやり直せばこんな結末を回避できたのだろう。
退院してからの最初のテニスの試合で、女の子が熱中症で倒れたらしい。その時、かすみが「夢叶ちゃん」と叫んでいた。
その時も考えた。もしかしたら自分の体の中にある肝臓は夢叶のものではないのかと。そして、もともと癌細胞まみれになっていた自分の肝臓を、夢叶の中に入れたのではないかと。
そんな非現実的なことがあるはずがないと、途中で考えることをやめた。でも、かすみの言葉がそれを確信とさせた。
「夢叶ちゃんは、自分から肝臓を移植するって言ってくれたんだよ」
どこからやり直せばいいのか、もう分からなかった。健康診断でも受ければよかったのか。
いや、もういっそのこと細胞からやり直してしまいたい。どこからやり直したって夢叶はきっと、肝臓の移植を名乗り出るだろうから。
俺を殴った後、佐藤先生に抑えられていた結愛が泣きながら怒鳴った。
「夢叶が私たちの、お前の幸せを願ってた!だから死ぬなよ。夢叶からもらった命を無駄にするなよ、絶対に!!」
「夢叶…」
もう動かない夢叶の手に触れた。まだ温もりが残っているが、とても健康的とは言えない。ガリガリに痩せ細って、肌は荒れている。
「…ごめん」
何に謝ったらいいのか、何に謝っているのか、俺自身も分からなかった。でも、謝らずにはいられなかった。
「ああああああああああああああああああ!!」
病院内にも関わらず大声で泣いて謝り続ける俺を、誰も止めなかった。
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後から分かったことだが、幸人くんと結愛ちゃんは知り合いだったという。同じ小学校で仲が良かったらしい。
だから躊躇いもせず幸人くんをぶん殴れたのかと、僕とかすみちゃんは納得した。
二日後、幸人くんは全国大会に出場した。本当に病気だったのかと誰もが疑うほどの大活躍をして、当然のように勝利を納めた。
その勝利を夢叶ちゃんの遺影に向かって得意気に、そして悲しそうに話していた。
幸人くんは大学に進んでもテニスを続けた。大会に行くごとにその結果を夢叶ちゃんに伝える日々を繰り返していた。
そんな生活を続けていたとき、幸人くんが死んだ。
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