異世界転移物語

月夜

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一輪車

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    いつものようにぽわーっと霧が生じると、その後そこには一人の男性がいる。少し土などで汚れた作業着を着た、中年から老年に差しかかろうという年齢と推測される男性だ。何が起こったのか分からないまま戸惑った様子でいる。

「こ、こんにちは」

    思わず、普通の挨拶をしてしまった。落ち着け、自分。

「あ、僕らは怪しい者じゃないんです」

「なんじゃ、お前らは」

    男は僕らを睨んできた。

「ここはどこだべ?」

    彼が怒り出すかと思い、身構えたのだが、そうではなかった。

「わしは一体どうしたんじゃ?」

    ただ混乱しているだけのようだ。今回は驚くべきことがもう一つあって、彼と一緒に一輪車が出現したのだ。地域によって、手押し車とか猫車とか色々呼び名はあるが、要するに土とかを運ぶあれだ。

「おじさん、ちょっと話を聞いてもらえませんか」

    桂坂さんが優しく語りかけると、彼はとりあえず、僕たちの話を聞いてくれそうな様子を見せた。さすが、桂坂さん。

     僕らはとりあえず落ち着いて話をするために、その場に腰かけた。

「私は桂坂優子といいます。こっちは田所健太君。ほかに数人仲間がいます」

「仲間……あ、わしは米本耕平と申すもんじゃ」

「驚かないでくださいね。私たちはこの森に強制的に転移させられたんです」

「転移じゃと?」

「そうです。平たくいえば、勝手に見えない力によってこの森に飛ばされてしまったんです。あなたも多分そうです」

「なんじゃと!   ここは一体どこなんじゃ?」

「それが分からないのです。それどころかこの森を出る手段も今のところありません。私たちはどこにあるかも分からないこの森に閉じ込められた状態なんです」

   米本さんは信じられないという顔をした。

「ええと……米本さんはどこからここに来たんですか?  つまり、さっきまでどこに居たかってことなんですが」

「ああ、東北の片田舎じゃよ。わしは農業をやっとってな。苗買って家で軽トラか降ろしとる途中で、いきなりここへ来たんじゃ」

    ああ、それで一輪車か。

「それにしたってなんとも不思議な話じゃの。狐にでも包まれたような気分じゃ」

    少し落ち着いたのだろうか。いつのまにか米本さんの語り口から興奮した様子が消えている。

「あんたたちはいつからここに?」

「私は四日前で、健太君は五日前からです」

「そんなに……あんたらもどっかからかここに飛ばされてきたんか?」

「はい。そうです」

「ほかに何人ぐらいいるんじゃ?」

「あと三人居ます。この近くに家があって、みんなでそこで暮らしているんです」

「家じゃと……こんなところにそんなもんがあるのか」
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