異世界転移物語

月夜

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集落見回り

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「ちょっと外の様子を確認してみたいんじゃが」

農家さんが言い出した。

「というと?」

「家に入る前にちらっとみた感じだと、家の周りの草が茫々生えているところは、もしかしたら元々畑だったのかも知れんと思ってな。畑が荒地になったのなら、耕せばまた農地になるかも知れんからな」

「なるほど」

    そういった着眼点は農家さんならではだろう。

「それに苗も種もあるから、土地さえあれば少しは野菜も作れるはず。かなり先の話になるが、食材の足しになるかも知れん」

     僕は農家さんと一緒に集落を歩いて回った。桂坂さんは、料子さんを助けて生活面の作業をすることにした。農家さんに見てもらって分かったのは、やはり元々畑だったと思しき土地がかなりあること。手をかければ野菜を作れそうだということだ。

     一輪車と一緒に、鍬一本と小スコップ、鎌などもこちらの世界に来ていた。砥石がないのはつらいが、これで可能な作業も少し増えそうだ。

「農家さんはスマホとか持ってるんですか?」

「スマホじゃと?   ああ、そういえば息子に持たされとったの。これだべ」

    農家さんはそう言いながら、腰のポシェットからスマホを取り出すと、僕に見せてくれた。やや古い型のスマホではあったが、写真を撮ったりなどは問題なく使えるようだった。

「連絡は出来ませんけど、カメラとしても使えますから、普段は電源切っておいて必要な時だけ使ってください。少しは電気が持ちますから」

「使い方はよう分かっとらんが、言う通りにするべ」

    農家さんはどこまで理解しているのか分からないが、僕の言うことに素直にうなずいた。

「それとの……」

    さらに農家さんは、腰にぶら下げていたポシェットを探り、何かを取り出した。

「これなんじゃが。使い方がよう分からんのじゃ」

    驚いたことに、それはモバイルバッテリーだった。しかも、ソーラー充電が可能なタイプである!

「農家さん、これ、スゴイですよ!」

    僕は興奮して声が上ずった。これがあれば、スマホの充電に困ることはない。使用回数の制限もあるからいつかは使えなくなるだろうが、壊れなければこれで当分は大丈夫だ。

「これも息子が無理矢理持たせてくれたんじゃが……」

「息子さん、グッジョブです!」

    説明書はなかったが、あとでじっくり調べてみれば大体の使い方は分かるだろう。ソーラー充電は多分時間かかるから、早く試してみたい気もするが、もう夕方だから明日やってみよう。急に未来への展望が開けたような気がした。
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