異世界転移物語

みんなの居場所

「あの子はね、宙っていってまだ中学生なのよ。宙が凧を揚げて、ここら辺の景色をスマホで上空から撮影しようとしているのよ」

    料子さんが今やろうとしていることを解説した。

「ほら、ここにいると森の中全体がどうなってるのか、さっぱり分からないから」

「ああ、なるほど」

「今、二人の男の人が森の探索に出掛けてるけど、毎日やっててもまだまだ分からないことだらけなのよ」

「あ、そういえば私で二十一人目って聞いたんですけど、他の人はみんな森の探索に出掛けてるんですか？」

   辺りを見回しながら笑美さんが疑問を口にする。それでもここには割と人が集まっているのだが、笑美さんにすれば当然の疑問だろう。

「いや、そういうわけでもないんだけどね。ええと……」

    料子さんも全員の居場所は把握していないようだ。ここは僕の出番だ。

「ここにいるのが、僕と桂坂さん。料子さんに生果さん、ナースさん。それからあれが理科さん」

    僕はちょっと離れた場所で何やらノートに書き込んでいる理科さんを指差した。

「凧の調整をしているのが、宙、電気さん、大工さん。それと畑に農家さんと北野君がいます。今、集落にいるのはこれで全部かな……。笑美さんを入れると、十二人ですね」

「他の方は……」

「ええと。泊まりで森の探索に出掛けているのが、スカウトさんと自転車君。山菜採りに出掛けているのが、山菜さんと大地さんです。それから、釣りキチさんと保育士さんは湖に釣りに行ってます。これで十八人か。あとは……」

    僕自身も少々こんがらかってきた。

「あ、そうだ。路木さんと内装さんとドクターは湖の近くで道作りをやってます」

    これで二十一人揃った。今、ここには半分以上の人がいるってことだ。

「みんな帰ってきたらなんだかとても賑やかになりそうですね」

   そんな話をしているうちに、宙たちの準備が出来たようだ。

「じゃあ、もう一回チャレンジしてみます！」

   宙は少し離れた場所から見ていた僕らに大声で叫ぶと、凧揚げに取り掛かった。

    凧を最初に持っているのは電気さんだ。少しずつ宙から離れていき、そっと手を放す。するとふわりと凧が宙に浮いた。宙はバランスを見ながらゆっくりと糸を伸ばしていく。それに連れて、徐々に凧は高度を上げていった。

「あれ？  スマホついてないの？」

    その様子を見ていた桂坂さんが疑問を口にする。言われてみれば確かにそうだ。スマホを凧の下にくっつけるのだとばかり思っていたが。これはまだ凧だけをあげるテストの段階なのか？