異世界転移物語

待ち時間にて

「ええ。今の揚げた感じからすると、少しぐらい重くなってもいけそうな気がします」

「よっしゃ、分かった。なら、今からちょこっと改造するから、終わったらまた揚げよう」

   あっという間に話がまとまった。みんな発想力や行動力がすごいなあ、とあらためて感心した。

「その間にもう一回、今の映像を詳しく分析したみたいわ。何か分かるかもしれない。何人か一緒に見てくれる？」

    理科さんがそう言うと、桂坂さんとナースさんが手を挙げた。「健太君もどう？」と理科さんが直接言ってきたので、僕も一緒に再度映像を見ることになった。

「ブレた映像だからよく分からないかもしれないけど、樹々とは違う何か別なものが映りこんでないか、よく見てみましょ。例えば、川とか空き地とか鳥とか……」

   理科さんがそう言いながら、再びスマホの映像を再生する。僕らは目を凝らして見続けたが、結局、何も分からなかった。何度か見直したが、特に成果はなく、僕は少々がっかりした。

「仕方ないわ……。方角的には北のほうが映ってただけだものね。次、揚げるときは全方位が撮れるからそれに期待しましょ」

   さばさばと告げる理科さんに僕は尋ねた。

「そういえば、撮影した高さって何メートルだったんですか？」

「およそ31メートルってところね」

「そんなに高いんですか？」

    桂坂さんが驚いて聞き返す。

「ええ。だからほとんどの樹の天辺よりは高いはずよ」

   31メートルなんてあまり想像出来ない。ビルに上ることもあるから、もちろん体験はしているのだけれど、しかし、その高さの空中で下を見下ろすことを考えるとゾッとするのは確かだ。

    僕たちが映像を見ている間に、笑美さんは料子さんや生果さんとともに家に入った。そこで今頃笑美さんは詳しい説明を受けているだろう。ワゴンも見当たらないところをみると、誰かが中に入れたのかもしれない。

    しばらく待ったあと、宙たちが作業場から戻ってきた。凧と何やら小さな器械を抱えている。

 「この装置を電気さんがすぐに作ってくれたんですよ」

     僕らの横を通って現場に向かう時に宙が僕に言った。どうやら、これがスマホの回転を制御する器械らしい。

「ゆっくり回るような仕掛けにしたただけだから単純な装置だよ。器械なんて大げさなもんじゃない。遠隔操作とかが出来るわけじゃないしな」

     宙の後に続いて僕の横を通っていった電気さんが解説を加えてくれた。まあ主目的はスマホで全方位を撮影することだから、きちんとした映像が撮れるようにゆっくりしたスピードで安定した回転をスマホに与えるのが肝である。あまり重くしてもいけないし、なるべく簡易的な仕掛けを施してあるのだろう。