異世界転移物語

台車とともに

「うーん。難しいものですね。でも、危険が生じるというのはまた別の問題ですよね。本当にどうなるんでしょうかね」

   僕は考えこんだ。

「いずれは家族を乗せた車の運転手とかも来そうですし、その時には考えざるを得なくなるかもしれませんね」

    ナースさんの言葉が身に染みたのか、皆それ以上何も言わなかった。

   昼食後、僕らは場に向かった。今日は笑美さんも一緒だ。やはり、自分がどのように現れたのか、一度は見ておきたいという意識が働くらしい。笑美さんから同行の希望が上がったので
、僕や桂坂さんと一緒に行くことになったのだ。

    時間になり白い靄がかかる。笑美さんはその様子を固唾を飲んで見守っていた。やがて靄が晴れる。

    最初に目に飛び込んできたのは、大きな鉄の台車だった。会場の設営時や大きな店の店内で搬入搬出に使うような運搬、保管用の台車である。青いペンキで塗られている。その台車には様々なものが積まれていた。

「なんじゃこりゃ！」

    おったまげたような声を上げたのは、グレーの上下服を着ている中年ぐらいの男性だった。作業用の制服だろうか？

「なんで森の中にいるんだ？」

    ストレートな反応である。向こうも僕らに気づいたようなので、ゆっくりと彼に近づいていった。

「こんにちは」

「あ、こんにちは」

    いけない。普通の挨拶を交わしてしまった。これじゃ平穏な日常の隣近所とのご挨拶ではないか。ぶるっぶるっと首を振った僕は、本題に入った。

「まずは落ち着いて聞いてください。いいですか？」

    彼は戸惑ったままだったが、とりあえず話を聞くしかないと考えたのか、真摯に聞く姿勢になった。

「僕の名前は田所健太、こっちは桂坂優子さんと田中笑美さん。いいですか、あなたは現代日本から、この見知らぬ森に飛ばされてきたんです」

「飛ばされてきた？  なんで？」

「理由は分かりません。それどころかここがどこかさえ、私たちにも分からないんです」

「もしかして君たちも、同じように飛ばされてここに来たのか？」

  理解力はあるようだ。

「そうです。僕らのほかに全部でおよそ二十人ほどいます。ここは完全に深い森の中で、ここから脱出する道も見つかっていません」

「どういうことだ？  君らがいつからここにいるか知らんが、森を出られないなんてことはないだろ？」

「どうもただの森じゃないみたいなんです。そもそもここが日本かどうかも定かではありません。それどころか、今がいつの時代なのかってことも」

    ここに至って、彼も事の深刻さを悟ったようだ。