異世界転移物語

雨中の危機

「ジャージで来てるけど、こんなところで活動するにはジャージでちょうど良かったと思うよ」

「私、陸上部なんですよ。今日は部活は午前中だけだったんですが、午後から外に走りに出ようとしたタイミングで荷物が届いたんで。それでこんな格好なんです」

「ここの話は聞いてる？」

「はい。保育士さんと釣りキチさんからだいたいのことは」

「じゃ、もうすぐ夕食だから、夕食の時とか夜のミーティングの時とかにまた話聞かせて」

「はい」

「あとは生果さん、面倒みてやって」

    荷物の整理など生果さんに任せて、僕たちは夕食準備に取り掛かった。

「優子ちゃんの食事はどうしましょう？」

    料子さんが介護士さんにお伺いを立てた。

「そうね。もう普通に食事しても大丈夫だとは思うけど、本人の食欲次第ね。眠ってるようならお粥でも作ってあげたほうがいいかも」

「それがいいかもね」

    結局、夕食の時もまだ桂坂さんは眠っていたので、料子さんはお粥を用意していた。

    夕食後、片付けをしていると屋根に叩きつける雨の音が聞こえてきた。外では雨が降り始めたようだ。

「珍しいですね。こんな時間に」

    宙が洗い物で手を動かしながら、僕に話しかける。

「そうだね。雨が降るのはほとんど昼間だったからね」

    そのうち、雨の音がだんだん大きくなってきた。かなり激しい雨だ。トタン屋根だったりしたら、もううるさくて眠れないレベルだろう。みんな少しずつ心配になってきたのか、不穏な雰囲気になってきた。

     いきなりピカっと光った。雷？

「きゃあああ！」

    誰か、女の人が甲高い悲鳴をあげる。直後、地響きかと思うぐらいゴロゴロと重くるしい音が聞こえた。

「近いぞ！」

    光ってからなるまでほとんど時間がなかったことから考えると、雷はほぼ真上にいるのではないか。

「ヤバイな」

    誰かがつぶやく。ここではコンピュータも繋いでないので、パージなどは心配しなくてよいが、樹々が立ち並ぶ森の中の雷は平地よりっずっと怖い。

    ピカッ。

    再び辺りが一瞬明るくなったと思ったら、直後に先ほどよりさらに大きな、地割れでも起こるのではないかと思うような大きな音が地面をる揺るがした。

    バリバリバリ！！！

    これは何なのだ。すべてを破壊するような轟音が鳴り響く。

「おい！  近くで雷が落ちたんじゃないか？」

   叫んだのはどうもエンジさんらしい。灯りを灯してないのでよく分からないが。

「大変だ、火が見える！  家が燃えてるんだ」

    外を覗きに行った宝泉さんが慌てて報告した。

「雨は？」と咄嗟に僕は訊いた。