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空の一角
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「ただのミーハーかと思ってたんですが」
「ひどーい。私を一体どんな目で見てたのよ! 私だって一応、四年生大学出てるんだからね」
「ほう」
「大学を卒業したあと、あらためて調理専門学校に通い直して、調理師になったわけ」
「しっかりしてますね」
「尊敬した? まあ、ぶっちゃけ、大学は文学部だったんだけど、将来何になりたいとか特に夢がなくてね。惰性で通ってたようなもんだったの。でも三年の途中ぐらいから料理にハマっちゃって、就職活動もうまく行かなかったんで、卒業したあと、こっちの道に進もうと決めたのよ。だから自慢とか出来るようなもんじゃないわね」
まさに今までの自分だ。将来の明確な目標もないままに惰性で大学で講義を受ける毎日。それでいいのか、という思いはあったが、具体的に自分が動いてその状況を打開するようなことは考えもしないし、もちろん行動もしなかった。
否応なく生きるための行動を余儀なくされるこの世界に来たことは、僕にとってはすごく良かったことなのかもしれない。今はそう思える。
「さあ、与太話はこれくらいにして。時間もあまりないことだから、集中して捜索しましょ」
安食さんがパンッと手を叩く。
「目的忘れるところでした」
二人は顔を見合わせ笑った。安食さんと近しくなれただけでも、この捜索は意味があったのかも、と少し思った。
「あれ……」
声のほうを見ると安食さんが樹々の間の空を見上げている。
「どうしたんですか?」
「あれ、見て」
安食さんは空の一角を指差す。
「なんだ、あれ……。もしかして煙ですか?」
「そうだと思うわ」
「じゃ、どこか近くで何かを燃やしてるのかな。それがわかれば……」
「行ってみましょう」
僕と安食さんの二人は空に向かって白く立ち昇る煙の見える方向に向かった。見た感じではここからそれほど離れているとは思えない。
「これは……」
ほどなく現場に着いた僕は、思わず絶句した。樹々が途切れたちょっとした小空間にかまどのようなものがあり、そこで火が燃やされていたのだ。明らかに人工的に作られたかまどだ。
「周りに人がいないようですけど……」
戸惑う安食さん。かまどの周囲の草は綺麗に刈り取られており、かまど自体は石で囲まれて作られているために、火が外に燃え移る心配はほとんどない。空気孔もきちんと設計されている。だが、それを作ったと思しき人は見当たらない。
「誰が何のために燃やしてるんだろう?」
僕は誰に問いかけるでもなく独りごちた。こんなことが自然発生的に起こるわけがないので、誰かが何かの目的を持ってやっているはずだ。
「ひどーい。私を一体どんな目で見てたのよ! 私だって一応、四年生大学出てるんだからね」
「ほう」
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「しっかりしてますね」
「尊敬した? まあ、ぶっちゃけ、大学は文学部だったんだけど、将来何になりたいとか特に夢がなくてね。惰性で通ってたようなもんだったの。でも三年の途中ぐらいから料理にハマっちゃって、就職活動もうまく行かなかったんで、卒業したあと、こっちの道に進もうと決めたのよ。だから自慢とか出来るようなもんじゃないわね」
まさに今までの自分だ。将来の明確な目標もないままに惰性で大学で講義を受ける毎日。それでいいのか、という思いはあったが、具体的に自分が動いてその状況を打開するようなことは考えもしないし、もちろん行動もしなかった。
否応なく生きるための行動を余儀なくされるこの世界に来たことは、僕にとってはすごく良かったことなのかもしれない。今はそう思える。
「さあ、与太話はこれくらいにして。時間もあまりないことだから、集中して捜索しましょ」
安食さんがパンッと手を叩く。
「目的忘れるところでした」
二人は顔を見合わせ笑った。安食さんと近しくなれただけでも、この捜索は意味があったのかも、と少し思った。
「あれ……」
声のほうを見ると安食さんが樹々の間の空を見上げている。
「どうしたんですか?」
「あれ、見て」
安食さんは空の一角を指差す。
「なんだ、あれ……。もしかして煙ですか?」
「そうだと思うわ」
「じゃ、どこか近くで何かを燃やしてるのかな。それがわかれば……」
「行ってみましょう」
僕と安食さんの二人は空に向かって白く立ち昇る煙の見える方向に向かった。見た感じではここからそれほど離れているとは思えない。
「これは……」
ほどなく現場に着いた僕は、思わず絶句した。樹々が途切れたちょっとした小空間にかまどのようなものがあり、そこで火が燃やされていたのだ。明らかに人工的に作られたかまどだ。
「周りに人がいないようですけど……」
戸惑う安食さん。かまどの周囲の草は綺麗に刈り取られており、かまど自体は石で囲まれて作られているために、火が外に燃え移る心配はほとんどない。空気孔もきちんと設計されている。だが、それを作ったと思しき人は見当たらない。
「誰が何のために燃やしてるんだろう?」
僕は誰に問いかけるでもなく独りごちた。こんなことが自然発生的に起こるわけがないので、誰かが何かの目的を持ってやっているはずだ。
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