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白髪の老女
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「とりあえず先に自己紹介をしておくか。わしは草刈善蔵、妻は緑だ。これからお前たちもわしらの家に来たらよかろう」
「僕は田所健太といいます。こちらは安食調さん。僕らも帰る時間があるので、そんなにゆっくりは出来ませんが、お邪魔させてください」
自己紹介をしつつ、三人で善蔵さんの家を目指した。十分ばかり歩いただろうか。それまでは樹々に隠されて家らしきものはまったく見えなかったが、突然、樹々の間から家が見えてきた。
ちょっと予想していた光景とは違っていた。それは小さな小屋というべきほどのものだった。作りも簡素で、しかも周りを樹々で取り囲まれており、広場らしきスペースさえもなかった。
「おい」
家に到着すると、善蔵さんは家の入り口に顔を突っ込むと中に声をかけた。
「あら!」
家の中から出てきた白髪の老女が出てきた。この人が奥さんの緑さんなのだろうか。髪も、そうだが、腰も曲がっており、見た目は善蔵さんよりもさらに老いて見える。
「森の中でこいつらがいたんで連れてきた」
善蔵さんの言葉に続けて、僕らは挨拶した。
「偶然、善蔵さんに逢いまして……。あなたが緑さんですよね? 僕は田所健太。こちらは安食調さんです」
「まあ、立ち話もなんですからお入りになられたら?」
「狭っ苦しくないですか?」
安食さんが気を使ってそんな返答をする。
「ちと狭いが構わねえ。あんたらも大丈夫だろ?」
善蔵さんが決めつけるように言ったが、もちろん僕らも異存はなかったのでうなずいた。
家の中は一部屋で、やはり本当に狭かった。二人で暮らすのがやっと、という感じだ。家具と思しきものも見当たらないが、部屋の隅にはちょっと石造りの台座らしきものがある。
「まあ、お座りなさって。何もお出しできませんけど」
「いえいえ、構わずに」
緑さんと安食さんが言葉を交わす。
「ええと、聞きたいことが山ほどあるのですが……」
僕は遠慮がちに話を切り出した。桂坂さんとの合流時間を考慮すると、悠長に世間話はしていられない。
「なんじゃ? 言うてみ」
「はい。まず確認ですが、善蔵さんたちは5月20日の1時に二人一緒にこちらに飛ばされたのですね?」
「ああ、そうだ。よく知ってるな。もしや、お前たちもそうなのか?」
「ええ、そうです。もう一つ大事なことなのですが、こちらで生活し始めたのは何日前からですか?」
「何日前と言われても正確にはわからん。ざっと四か月ぐらいだとは思うが」
「四か月!?」
まったく予想もしていなかった。僕たちよりもはるかに早くこちらに来ていたというのか?
「そんなに早くから……。食べ物とかどうしてるんですか?」
「僕は田所健太といいます。こちらは安食調さん。僕らも帰る時間があるので、そんなにゆっくりは出来ませんが、お邪魔させてください」
自己紹介をしつつ、三人で善蔵さんの家を目指した。十分ばかり歩いただろうか。それまでは樹々に隠されて家らしきものはまったく見えなかったが、突然、樹々の間から家が見えてきた。
ちょっと予想していた光景とは違っていた。それは小さな小屋というべきほどのものだった。作りも簡素で、しかも周りを樹々で取り囲まれており、広場らしきスペースさえもなかった。
「おい」
家に到着すると、善蔵さんは家の入り口に顔を突っ込むと中に声をかけた。
「あら!」
家の中から出てきた白髪の老女が出てきた。この人が奥さんの緑さんなのだろうか。髪も、そうだが、腰も曲がっており、見た目は善蔵さんよりもさらに老いて見える。
「森の中でこいつらがいたんで連れてきた」
善蔵さんの言葉に続けて、僕らは挨拶した。
「偶然、善蔵さんに逢いまして……。あなたが緑さんですよね? 僕は田所健太。こちらは安食調さんです」
「まあ、立ち話もなんですからお入りになられたら?」
「狭っ苦しくないですか?」
安食さんが気を使ってそんな返答をする。
「ちと狭いが構わねえ。あんたらも大丈夫だろ?」
善蔵さんが決めつけるように言ったが、もちろん僕らも異存はなかったのでうなずいた。
家の中は一部屋で、やはり本当に狭かった。二人で暮らすのがやっと、という感じだ。家具と思しきものも見当たらないが、部屋の隅にはちょっと石造りの台座らしきものがある。
「まあ、お座りなさって。何もお出しできませんけど」
「いえいえ、構わずに」
緑さんと安食さんが言葉を交わす。
「ええと、聞きたいことが山ほどあるのですが……」
僕は遠慮がちに話を切り出した。桂坂さんとの合流時間を考慮すると、悠長に世間話はしていられない。
「なんじゃ? 言うてみ」
「はい。まず確認ですが、善蔵さんたちは5月20日の1時に二人一緒にこちらに飛ばされたのですね?」
「ああ、そうだ。よく知ってるな。もしや、お前たちもそうなのか?」
「ええ、そうです。もう一つ大事なことなのですが、こちらで生活し始めたのは何日前からですか?」
「何日前と言われても正確にはわからん。ざっと四か月ぐらいだとは思うが」
「四か月!?」
まったく予想もしていなかった。僕たちよりもはるかに早くこちらに来ていたというのか?
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