異世界転移物語

月夜

文字の大きさ
223 / 319

善蔵さん夫婦の家

しおりを挟む
「わしと妻は地域の防災講座に参加しとっての。ちょうど非常食の試食をやったったのじゃ。そこでめまいが起こって、気がついたら二人で見知らぬ森の中じゃ。驚いたことに、近くに置いてあった水やら非常食の山もわしらと一緒にこっちに届いた。わしら元々少食なんで、それを細々と食いつないでおるのじゃ」

 善蔵さんはそう言うと台座を指さした。よく見ると台座の下が空洞になっていて、確かに奥に非常食らしきものが見える。

「もうそんなに残ってないがの。缶詰もたくさんあったんで傷むことはなかったしな」

「水はどうしたんですか?」

「ああ、それは雨水じゃな。たまたま次亜塩素の瓶もあったから、それを入れて殺菌に使っとる。入れる塩素はほんのわずかじゃから、まだまだもつ」

 ゴミなどはおそらく外に捨てているのだろう。室内には余分なものは何もない。

「あのかまどは善蔵さんたちが?」

「ああ、あれか。あれはわしが作った。火を起こすものがなかったでな。苦労して起こした火を絶やさないようにするためじゃ」

「あんな離れたところにわざわざ作ったのは何故ですか?」

「そりゃお前。家の中や近くに作るわけにはいかないやろ。火が燃え移ったらどうする?」

「あっ」

 僕はハッとした。実際、それで僕らは火事を経験している。この狭いところで火を使う危険性は確かに高い。

「あれが燃えて煙を出してたおかげで、私たちはここを発見出来たんです」と安食さん。

「そうか。そりゃ、思ってもみなかったな。なにせ、ここに来てから妻以外誰にも会ってないでな」

「そうなんですか!」

 僕のあまりの驚きように善蔵さんは怪訝な顔をした。

「そんなにびっくりするようなことなのか?」

 僕は今までのことをかいつまんで話した。前の村で毎日一人ずつ新しい人が来ていたことも。

「はあ。そんなにおるんか」

 僕の話を聞いた善蔵さんはため息をついた。

「是非会ってみたいですわ」

 緑さんがニコニコしながら目を輝かせる。

「みんなもきっと喜ぶと思います」と安食さんが答えた。

 僕はふと思い出して時刻を確認した。まずい。そろそろ帰らなくては。

「善蔵さん、すみません。今日のところはこれで失礼させてもらいます。明日から明後日あたりまた来ますので、その時またお話しましょう」

 僕は少し名残惜しかったけれど、そう告げて帰途に着くことにした。二人は僕と安食さんを手を振って送り出してくれた。そういえば、今日は聞けなかったけど、四か月もの間、あの二人はどんな暮らしをしてきたのだろうか。とても興味がある。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

処理中です...