異世界転移物語

それぞれの見解

「犯人を許せって言うんですか？」

「まあ、そうかな……。もちろんそれは許されないことなんだけど、今、それを責めたって仕方がないと思う。僕らは一緒に生きていくしか方法がないんだから。お互いが信頼し合って生きることこそ、ここで生き延びる唯一の方法だと思う」

　僕の話はだんだん長くなり、やや説教じみてきたが、皆よく聞いてくれている。

「だからって犯人を信頼なんか出来ません！　いつかまた同じことをやるかもしれないんだし」

「それでも信頼してほしいと僕は思う。複雑な思いがあるのは仕方ないけど、僕らは常に前を向いて歩いていかないと。後ろを振り返ってちゃダメなんだよ、きっと」

　海原君はまだ納得がいかない、という顔をしたままだ。それはそうだろう。常識的にはたぶん僕の考えのほうが間違っているのだろうから。

「私は健太君の言いたいこと分かるな。人間関係とか全然分からないけど、私たちが今すべきなのは争うことじゃないってのには大いに賛成」

　意外なことに陽子さんが真っ先に擁護してくれた。すると料子さんも続く。

「私も健太君と同意見かな。どんな困難ならことがあっても、信頼関係が崩れるようじゃもっとダメな気がする」

料子さんの考えを受けて、安食さんが異議を挟んだ。

「で、でも、食材を盗むって相当ひどいことよ。そんなの簡単に許せるわけ？」

「許せるよ」

　安食さんの発言を遮るようにピシャリと言い放ったのは、釣りキチさんだった。今までの釣りキチさんのイメージからは考えられないほど、きっぱりとした声音だった。

「人を殺したりとかとなるとまた別だけど、食材を盗んだくらいで許せないなんておかしいよ。確かにこの状況では飢え死にの危険と隣り合わせだけれど、今までだってそんな状況の中、みんなで団結して頑張ってきたんだ。今更、それを繰り返したところで苦にもならない」

「まあな。こんな状態でも意外となんとかなるもんさ。それで責め合うなんて馬鹿らしいよな」

　林さんもいつのまにか僕の意見に賛成してくれたようだ。釣りキチさん、林さんなどの賛同を得て、僕は心強かった。

　海原君は唇をギュッと噛みしめながら、まだ言いたそうな雰囲気を醸し出しながらも沈黙を守ったままだった。彼の中で色々な思いが渦巻いているのかもしれない。

　僕は別に海原君を言い負かしたいわけではない。ただ今やるべきことにスポットを当てたいだけなのだ。しかし、やはり僕の心のどこかには、自分の意見を通したい、自分の思うようにやりたい、というわがままな願望がのこっていることも否定出来ないように思う。だから、なおさら今、多数が賛成しているから、なんていう安易な理由で解決しないよう心しておく必要がある。