異世界転移物語

非情な仕打ち

「そのあとどうなったんですか？」

「ああ。しばらくその空間にいたあと、どこかから声が聞こえてきた。さっき俺が天の声に例えたやつだな。その声が言うには、俺は本来転移先に一瞬で転送されるはずだったのだが、バグがありエラーが生じてしまったと」

「ええと……それは転移が、何かの装置で人為的に行われているってことですか？」

「まあ、そう捉えてもらってもいいと思う」

「その天の声の正体は一体何なのです？」

　僕ははやる気持ちを抑えきれず、金田さんに迫った。

「それはだな……ゴホン、ゴホン」

  咳き込む金田さん。さっきよりもっと苦しそうだ。

「頭が……頭が！」

　今度は今までと違う。金田さんは頭を抱えてのたうち回りだした。

「頭痛いんですか！健太君、身体押さえて！」

　陽子さんが指示するまま、僕は金田さんの身体を押さえようとしたが、僕の手は空を切った。なぜならその直前、横たわった金田さんの身体がぐらっときたかと思うと、一瞬で消えてしまったからだ……。

「えっ？」

　突然のことに戸惑い固まる僕。

「そんな！」

　桂坂さんが悲鳴を上げる。陽子さんも横で呆然と立ち尽くしたままだ。

「さっきのはもしかして」

　驚きから我に帰った理科さんがつぶやく。

「金田さんは転移したのかも知れないわ」

「こんな大事な時にですか？あの様子じゃ金田さんの体力が持ちませんよ！」

　僕は金田さんが消えてしまった空間を横目で見ながら理科さんに詰め寄った。

「私に言われてもどうしようもないわ」

　それはそうだ。僕もパニックになってちょっと冷静さを欠いていた。金田さんが消えたのはおそらくここにいる誰の責任でもない。金田さんのことはものすごく心配なのだが、ドクターとかいる好環境に転移するのを願うしかない。

「あ、でも転移したかどうかは分からないわ。最悪あのまま命が尽きたってことも……」

　陽子さんが悲観的な最悪な推測を提示する。僕は一瞬だけ陽子さんに睨むような視線を送ったが、すぐに楽観的に描けるだけの根拠を持ってないことに気づき、とにかく冷静になろうと努めた。

「とにかくみんなにもう一度集まってもらいましょう。金田さんのことを報告して、今後のことも話し合わないと」

「そうね。それがいいわ」

　理科さんが真っ先に同意すると、桂坂さんや陽子さんも首を縦に振った。

「じゃ、手分けしてみんなを集めましょ」

　理科さんの言葉を合図に僕らは次なる行動に移った。残るメンバーに再び全員集合してもらうのだ。

　数分後、在住メンバーは再び顔を合わせた。夕方と違うのは、この場に金田さんの姿がないことだ。