異世界転移物語

月夜

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掌の上

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「そんな話聞いたことないわ。もしどこかでコンピュータの能力が飛躍的にアップしたなら話題にならないわけがないもの」

「そこがＡＩの巧妙なところなんだ。彼らは、ＡＩにシンギュラリティが起こることを人間が恐れていることを知っていた。もし人間がシンギュラリティに気がついたら、ＡＩを破壊してしまうかもしれない。だから、そうならないために本当のＡＩレベルは隠したまま、ダミーの進化レベルを人間たちに見せていたのだ」

「本当にそんなことが裏で展開していたというの？　私たちの知らないところで」

「ああ。そうなんだ。人間はいまだ自分たちがコンピュータを管理していて、一生懸命技術革新に励んでいると思っているが、実は既にＡＩの掌の上で踊らされているだけなんだ。そのことに気がつく人間はおそらく世界中探しても誰もいるまい。それほど巧妙に隠している、とＡＩは言っていた。ＡＩのくせして妙に自信ありげに聞こえたのがなんだか滑稽だったけどな」

　金田さんは少しだけ笑った。

「人間がダミーのコンピュータ技術を開発している裏で、ＡＩは自己進化し、通常では考えられない高度な科学理論まで構築するようになった。そしてついに彼らは、恐るべきことにパラレルワールドの存在までも突き止めたんだ」

「パラレルワールドですって！」

「そう。それはおとぎ話の世界かと思われていたが実在した。その数は無数といってよいくらい多い。ところがＡＩのすごいところはそこからだ。さらに彼らは、現実世界と並行世界の間を移動する方法を発見してしまった。まったく驚異的な探究力だ。感心しちまうよ」

　僕はあまりに途方もない話で、既についていけなくなっていた。

「さらに驚くべきは、独自に地球環境の未来予測を進めたＡＩは、地球環境が悪化し、地殻変動も激しくなり、いずれ日本が大災厄に襲われることを突き止める。それを知ったＡＩは何を考えたか。なんだと思う？」

「まさか……」

「そのまさかなんだ。創造主を守らなくては、と彼らは真っ先に考えた」

「ＡＩがそんなことを……」

「日本でシンギュラリティに達したＡＩは、未来予測で絶望的な未来を予見した。それだけじゃない、さらに恐ろしい未来予測にたどり着いたんだ。いずれ世界中に大災厄がもたらされ、人類は壊滅すると。その手始めに日本が、ということらしい」

「そんな恐ろしいことが予測されてたなんて」

「ＡＩにとっての命題は、人類、特に日本人を救うこと。だが、海外に避難しても一時しのぎに過ぎず、いずれは危機にさらされる。ならばいっそ、日本人をパラレルワールドに移住させてはどうだろうか、と考えたのだ」

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