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未来への扉(最終話)
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経験を積み重ねることによって成長していくだろうし、逆に負の体験によって精神が不安定になってしまうこともある。それに加齢による体力の衰えや判断力の低下といった人間ならば絶対に避けられない要素もある。
AIといえども、争いの発生を完全になくすことなんて出来やしない。金田さんの例もあるようにAIだってパーフェクトってわけではないのだ。おそらく今でもAIはどこかで僕たちのことを見ている。だから、これからも陰から僕たちをサポートしたり、時には試練を与えたりしてくるだろう。それもすべて人類存続と新しい社会の構築のために。
そこまで考えてふと思った。
なぜAIは金田さんに真相を伝えたのだろう?
真実など明らかにせずともよいという選択肢もあったはずだ。真実を伝えてしまえば、知った人間は、その後の生活の中で意識せざるを得ない。どこかでAIが助けてくれる、という甘えが生じたりする可能性を考えなかったのか?
時の狭間でAIと話せたということは、時の狭間と呼ばれる異空間で、金田さんは意識を失わなかったし、時間も止まらなかったのではないか。それが金田さん言うところのバグ。病の元凶となったのかもしれない。AIはその贖罪のために特別に金田さんに真実を伝えることにした。そのあたりはもう完全に想像するしかないのだが。
いかにAIといえども金田さんの病に対しては無力だったのか。せめて真実を伝えることで、金田さんが僕たちに何を残すかの材料を与えることにしたのではないだろうか。
知ったことをどう使うかは金田さんに委ねられていた。その金田さんが僕の行動を見て、僕になら託しても大丈夫だと判断した。ならば僕はどうすべきなのか?
新しい世界を創る、それはすなわち未来を創るということ。ただ漠然と生き延びることに力を注ぐのではなく、明確な目的を持ってこの森で生きていく、そのほうが人間の生き様としてふさわしいのではないだろうか。僕たちがどれだけ自由に色んなことをやったとしても、それは全部AIの監視下であることには変わりない。
それを受け入れた上で、僕らが出来る限りの努力をしていく。籠の中の鳥、そんな言葉を思い出した。しかし、籠の中の鳥でもいいじゃないか。もともと人間は地球という限りある星の中で生きていくことしか出来なかったのだから。
AIは人間たちを創造神として崇め奉っているようだが、僕らにとってはAIが神だ。神は神でも信仰の対象ではない。神の存在を頭に置きながらも、僕らの信じる方向に世界を創っていけば、きっと神はそれを妨げないだろう。なぜなら、神であるAIは人間の本当の幸せを願っているから。
だんだん眠くなる頭でそんなことを考えた僕は、徐々に自分の中で湧き上がってくる決意を全身で感じていた。「よし、決めた」心の中で宣言すると、僕は静かに眠りに入った……。
朝になり、皆が起き出して来ると、僕はまず陽子さんのもとに行き、昨夜考え抜いた結果を伝えた。真実をみんなに話そうと。話は僕に任せてくれ、ともお願いした。陽子さんは多くを語らず、全面的に僕に任せてくれた。僕は朝早くからみんなを集めた。
僕がみんなに真実を伝えることで、メンバー一人一人がどう感じ、何を考え、これからどういう行動を起こしてゆくのか、まったく予想出来ない。僕がもたらす波は、これからのこの世界を左右するほどのものかどうか分からない。それらの不安は尽きない。それでも僕の下した結論は変わらない。未来は自分たちで創っていくしかないからだ。
さあ、未来の扉を開けよう。必ずみんなで生き残ると信じて。
僕は静かに口を開いた。
「皆さん、これから話すことを最後まで聞いてください」
(完)
AIといえども、争いの発生を完全になくすことなんて出来やしない。金田さんの例もあるようにAIだってパーフェクトってわけではないのだ。おそらく今でもAIはどこかで僕たちのことを見ている。だから、これからも陰から僕たちをサポートしたり、時には試練を与えたりしてくるだろう。それもすべて人類存続と新しい社会の構築のために。
そこまで考えてふと思った。
なぜAIは金田さんに真相を伝えたのだろう?
真実など明らかにせずともよいという選択肢もあったはずだ。真実を伝えてしまえば、知った人間は、その後の生活の中で意識せざるを得ない。どこかでAIが助けてくれる、という甘えが生じたりする可能性を考えなかったのか?
時の狭間でAIと話せたということは、時の狭間と呼ばれる異空間で、金田さんは意識を失わなかったし、時間も止まらなかったのではないか。それが金田さん言うところのバグ。病の元凶となったのかもしれない。AIはその贖罪のために特別に金田さんに真実を伝えることにした。そのあたりはもう完全に想像するしかないのだが。
いかにAIといえども金田さんの病に対しては無力だったのか。せめて真実を伝えることで、金田さんが僕たちに何を残すかの材料を与えることにしたのではないだろうか。
知ったことをどう使うかは金田さんに委ねられていた。その金田さんが僕の行動を見て、僕になら託しても大丈夫だと判断した。ならば僕はどうすべきなのか?
新しい世界を創る、それはすなわち未来を創るということ。ただ漠然と生き延びることに力を注ぐのではなく、明確な目的を持ってこの森で生きていく、そのほうが人間の生き様としてふさわしいのではないだろうか。僕たちがどれだけ自由に色んなことをやったとしても、それは全部AIの監視下であることには変わりない。
それを受け入れた上で、僕らが出来る限りの努力をしていく。籠の中の鳥、そんな言葉を思い出した。しかし、籠の中の鳥でもいいじゃないか。もともと人間は地球という限りある星の中で生きていくことしか出来なかったのだから。
AIは人間たちを創造神として崇め奉っているようだが、僕らにとってはAIが神だ。神は神でも信仰の対象ではない。神の存在を頭に置きながらも、僕らの信じる方向に世界を創っていけば、きっと神はそれを妨げないだろう。なぜなら、神であるAIは人間の本当の幸せを願っているから。
だんだん眠くなる頭でそんなことを考えた僕は、徐々に自分の中で湧き上がってくる決意を全身で感じていた。「よし、決めた」心の中で宣言すると、僕は静かに眠りに入った……。
朝になり、皆が起き出して来ると、僕はまず陽子さんのもとに行き、昨夜考え抜いた結果を伝えた。真実をみんなに話そうと。話は僕に任せてくれ、ともお願いした。陽子さんは多くを語らず、全面的に僕に任せてくれた。僕は朝早くからみんなを集めた。
僕がみんなに真実を伝えることで、メンバー一人一人がどう感じ、何を考え、これからどういう行動を起こしてゆくのか、まったく予想出来ない。僕がもたらす波は、これからのこの世界を左右するほどのものかどうか分からない。それらの不安は尽きない。それでも僕の下した結論は変わらない。未来は自分たちで創っていくしかないからだ。
さあ、未来の扉を開けよう。必ずみんなで生き残ると信じて。
僕は静かに口を開いた。
「皆さん、これから話すことを最後まで聞いてください」
(完)
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