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学園編 16歳
22 華麗にステップを踏みましょう
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ゆったりとした曲が流れ始める。小さい頃から何度も練習したダンスの基本的な曲。男性が女性を誘い、会場の中央へと集まっていく。
「エリー。僕と一曲踊ってくださいますか?」
クリスがそっとエリーナの手を取り、持ち上げてその手に口づける。ずいぶん気取った誘い方だが、クリスがすると様になっていた。
「えぇ、もちろん」
断るという選択肢はない。出発前も、馬車の中でも「今日は僕だけと踊ってね」と言われ続けたのだから。この夜会は、エリーナが立派な淑女であることと、クリスが庇護していることをアピールするのが目的だ。ろくでもない虫がつかないようにするとクリスは息巻き、エリーナも初めての夜会で色々な人とダンスを踊るよりはましかと任せた。
曲に合わせてステップを踏んでいく。家でもクリスと練習を重ねたため、ミスをすることはない。多くの視線を感じ、エリーナは頬を染めた。
「ほら、みんながエリーを見てる」
クリスのささやき声が上から降ってくる。いつもより声が近い。
「そんなことないわ。クリスを見ているのよ」
エリーナはステップを踏みながら辺りに視線を飛ばし、熱のこもった視線を向けている令嬢の顔を覚える。クリスも攻略キャラと見ているため、近づいて来る令嬢はヒロインの可能性がある。
だが同じことをクリスもしており、こちらはエリーナに見とれている男たちの顔と導かれる名前を要注意リストに入れていく。
そして一曲が終わりエリーナは壁の花に戻ろうとするが、クリスは手を放してくれなかった。そのまま二曲目、三曲目と続けて踊ることになる。通常一曲目は婚約者やパートナーと踊り、二曲目からはフリーとなる。婚約者がいる相手とは二曲以上踊ってはいけないが、エリーナもクリスも問題はない。だが同じ人とばかり踊る人は少ないのも事実であり……。
踊り疲れて壁の花になったエリーナに、呆れ顔のベロニカが言い放ったのだった。
「エリーナ。クリス様に甘えすぎよ。他の男と踊らないなんて、令嬢失格よ」
ベロニカのドレスは真紅で余計な飾りはなく彼女の美しい体の線を表している。赤みがかった金髪がよく映え、自然と目線がいく胸元には大きなダイヤが光っていた。エリーナが希望していた悪役令嬢スタイルである。
「そうなんですけど……」
三曲踊り切ったエリーナに何人かがダンスの申し込みに来たが、妹は疲れたようなのでとクリスが門前払いしていた。そこに物言いたげなベロニカが近づいて来たため、クリスはエリーナを任せて押し寄せてきたご令嬢を捌きにいったのだ。
「クリスが過保護なんです……」
ローゼンディアナ家当主代行として、縁をつなぐためにいろいろな令嬢と踊っているクリスを見ながら、エリーナはため息をつく。
「噂に違わぬ溺愛っぷりで、ご令嬢たちが悔しがってたわ。エリーナ、覚悟なさい。クリス様があなたを可愛がっていると公表した以上、今後クリス様に取り入りたい人たちはあなたに寄って来るようになるわよ」
現に、先ほどまでクリスを目で追っていた令嬢たちはエリーナに視線を向けている。これは悪役令嬢モードの出番かもしれない。
「ベロニカ様、私、おそばを離れませんわ」
「人を虫よけに使わないで」
「そういえば、ベロニカ様のエスコートはどなたが?」
王子の姿は見えないため、別の人だろうと人々に視線を巡らす。
「あそこにいる兄よ」
ベロニカが顎で示した先には、赤みがかった金髪の男性が同年代の男性と話していた。遠めでも見目麗しいのがわかり、切れ長のつり目が兄弟であることを感じさせる。
「ついでに覚えておくといいわ。兄と話しているのがルドルフ・バレンティア。うちと並ぶ公爵家の跡取りよ。兄と同じ一つ上の学年で、次期生徒会長と目されているわ」
バレンティア公爵は現王の下で宰相を務めており、信頼厚い臣下として名高い。その嫡男であるルドルフは容姿端麗、頭脳明晰と子どものころからもてはやされてきた。深緑色の髪を撫でつけ、一分も隙のない立ち姿。眼鏡の奥に光る紫の瞳は、いつも氷のように冷たい。
一目で理解した。
(攻略キャラだわ……冷徹眼鏡、もしくは腹黒眼鏡枠)
そのようなキャラクターは人気があるのか、どの乙女ゲームにもたいてい登場していた。
(私、あのタイプ苦手なのよね……)
冷徹眼鏡であれ、腹黒眼鏡であれ、そのルートの断罪は悲惨なものが多かった。たいてい頭がよく、権力も持っているため家ごと断罪されることもあった。端的に言えば、処刑コースになるのだ。今までの断罪シーンが頭を駆け巡り、少し血の気が引いた。プロの悪役令嬢たるもの攻略キャラを目前に逃げはしないが、できればヒロインには別のルートに入ってもらいたい。
あれこれと考えていると、ベロニカに扇子で腰を小突かれた。
「何を難しい顔で考え込んでるのよ。ルドルフが気になるなら、紹介してあげますわよ。それともうちの兄?」
「いえ! そんな、まったく! むしろ、ルドルフ様は誰か意中の方がいらっしゃるのかなと思いまして」
「そういった噂は聞かないわ。あなた、自分の恋愛よりも人の恋愛が好きなのね。ぼやっとしてると、婚期を逃しますわよ」
ベロニカは歯に衣を着せずに、思ったことをズバズバと言う。その切れ味たるや、見習わなくてはならない。そしてその鋭利な言葉で、クリス狙いでエリーナに近づいて来た令嬢たちを斬り捨て、夜会が終わるまで見事に虫よけとしての役目を果たしたのだった。
「エリー。僕と一曲踊ってくださいますか?」
クリスがそっとエリーナの手を取り、持ち上げてその手に口づける。ずいぶん気取った誘い方だが、クリスがすると様になっていた。
「えぇ、もちろん」
断るという選択肢はない。出発前も、馬車の中でも「今日は僕だけと踊ってね」と言われ続けたのだから。この夜会は、エリーナが立派な淑女であることと、クリスが庇護していることをアピールするのが目的だ。ろくでもない虫がつかないようにするとクリスは息巻き、エリーナも初めての夜会で色々な人とダンスを踊るよりはましかと任せた。
曲に合わせてステップを踏んでいく。家でもクリスと練習を重ねたため、ミスをすることはない。多くの視線を感じ、エリーナは頬を染めた。
「ほら、みんながエリーを見てる」
クリスのささやき声が上から降ってくる。いつもより声が近い。
「そんなことないわ。クリスを見ているのよ」
エリーナはステップを踏みながら辺りに視線を飛ばし、熱のこもった視線を向けている令嬢の顔を覚える。クリスも攻略キャラと見ているため、近づいて来る令嬢はヒロインの可能性がある。
だが同じことをクリスもしており、こちらはエリーナに見とれている男たちの顔と導かれる名前を要注意リストに入れていく。
そして一曲が終わりエリーナは壁の花に戻ろうとするが、クリスは手を放してくれなかった。そのまま二曲目、三曲目と続けて踊ることになる。通常一曲目は婚約者やパートナーと踊り、二曲目からはフリーとなる。婚約者がいる相手とは二曲以上踊ってはいけないが、エリーナもクリスも問題はない。だが同じ人とばかり踊る人は少ないのも事実であり……。
踊り疲れて壁の花になったエリーナに、呆れ顔のベロニカが言い放ったのだった。
「エリーナ。クリス様に甘えすぎよ。他の男と踊らないなんて、令嬢失格よ」
ベロニカのドレスは真紅で余計な飾りはなく彼女の美しい体の線を表している。赤みがかった金髪がよく映え、自然と目線がいく胸元には大きなダイヤが光っていた。エリーナが希望していた悪役令嬢スタイルである。
「そうなんですけど……」
三曲踊り切ったエリーナに何人かがダンスの申し込みに来たが、妹は疲れたようなのでとクリスが門前払いしていた。そこに物言いたげなベロニカが近づいて来たため、クリスはエリーナを任せて押し寄せてきたご令嬢を捌きにいったのだ。
「クリスが過保護なんです……」
ローゼンディアナ家当主代行として、縁をつなぐためにいろいろな令嬢と踊っているクリスを見ながら、エリーナはため息をつく。
「噂に違わぬ溺愛っぷりで、ご令嬢たちが悔しがってたわ。エリーナ、覚悟なさい。クリス様があなたを可愛がっていると公表した以上、今後クリス様に取り入りたい人たちはあなたに寄って来るようになるわよ」
現に、先ほどまでクリスを目で追っていた令嬢たちはエリーナに視線を向けている。これは悪役令嬢モードの出番かもしれない。
「ベロニカ様、私、おそばを離れませんわ」
「人を虫よけに使わないで」
「そういえば、ベロニカ様のエスコートはどなたが?」
王子の姿は見えないため、別の人だろうと人々に視線を巡らす。
「あそこにいる兄よ」
ベロニカが顎で示した先には、赤みがかった金髪の男性が同年代の男性と話していた。遠めでも見目麗しいのがわかり、切れ長のつり目が兄弟であることを感じさせる。
「ついでに覚えておくといいわ。兄と話しているのがルドルフ・バレンティア。うちと並ぶ公爵家の跡取りよ。兄と同じ一つ上の学年で、次期生徒会長と目されているわ」
バレンティア公爵は現王の下で宰相を務めており、信頼厚い臣下として名高い。その嫡男であるルドルフは容姿端麗、頭脳明晰と子どものころからもてはやされてきた。深緑色の髪を撫でつけ、一分も隙のない立ち姿。眼鏡の奥に光る紫の瞳は、いつも氷のように冷たい。
一目で理解した。
(攻略キャラだわ……冷徹眼鏡、もしくは腹黒眼鏡枠)
そのようなキャラクターは人気があるのか、どの乙女ゲームにもたいてい登場していた。
(私、あのタイプ苦手なのよね……)
冷徹眼鏡であれ、腹黒眼鏡であれ、そのルートの断罪は悲惨なものが多かった。たいてい頭がよく、権力も持っているため家ごと断罪されることもあった。端的に言えば、処刑コースになるのだ。今までの断罪シーンが頭を駆け巡り、少し血の気が引いた。プロの悪役令嬢たるもの攻略キャラを目前に逃げはしないが、できればヒロインには別のルートに入ってもらいたい。
あれこれと考えていると、ベロニカに扇子で腰を小突かれた。
「何を難しい顔で考え込んでるのよ。ルドルフが気になるなら、紹介してあげますわよ。それともうちの兄?」
「いえ! そんな、まったく! むしろ、ルドルフ様は誰か意中の方がいらっしゃるのかなと思いまして」
「そういった噂は聞かないわ。あなた、自分の恋愛よりも人の恋愛が好きなのね。ぼやっとしてると、婚期を逃しますわよ」
ベロニカは歯に衣を着せずに、思ったことをズバズバと言う。その切れ味たるや、見習わなくてはならない。そしてその鋭利な言葉で、クリス狙いでエリーナに近づいて来た令嬢たちを斬り捨て、夜会が終わるまで見事に虫よけとしての役目を果たしたのだった。
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