悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

文字の大きさ
65 / 194
学園編 17歳

62 小動物を愛でましょう

しおりを挟む
 今年も社交のシーズンが始まり、去年より増えた夜会への参加に疲れを感じ始めた頃。エリーナは昼休みをいつもの庭園で過ごしていた。花の香りを感じ、風に吹かれながらベンチでぼんやりとする。最近は色々な人相手に猫を被ってきたので、たまには無でいたい。しかも夜会では高頻度でルドルフとジークに会うため、気が抜けない。

 ルドルフはその紫の目に熱を込め、言葉巧みにエリーナを口説く。

「貴女のアメジストの瞳に私が映っているのを見ると、まるで一つになったようだ。エリーナとの共通点である紫の目を、これほど嬉しいと思ったことはない。幸せは私が保証するから、この手を取ってくれないか?」

 だがエリーナはその手を取ることはない。ただ曖昧に笑って、「他の方に声をかけてください」と返すことしかできなかった。

 一方のジークは時たま弱音を吐いて、甘えるようになった。かと思えば強気な瞳で見つめられ、直球で愛の言葉を投げられる。

「エリーナ。俺はお前さえ手に入ればいいんだ。俺を信じてくれ、誰よりもお前を幸せにする」

 だが、どれだけ思いを訴えかけられても、悲しいまでにエリーナの心は動かない。「ベロニカ様を大切にしてください」と、ベロニカを盾にして逃げていた。
 最初は困ったらベロニカが助けてくれていたが、最近は恋の修行よと口を出さなくなっていた。甘い言葉を囁き、言質を取ろうと虎視眈々と狙っている二人には悪役令嬢モードも効かず、限界が来てはベロニカの下に逃げ込むのだ。その度に、「エリーナにはまだ早いか」と呆れ顔で溜息をつかれる。

(なんでヒロインはあの糖度の高い言葉を笑って流せるのかしら……恥ずかしすぎて聞いていられないわ)

 リズとベロニカの言う乙女レベルがどれぐらいになればヒロインの領域に到達できるのか全くわからない。まだまだ続く夜会と茶会に憂鬱になっているエリーナの耳に、土を踏む音が届いた。

「エリーナ様発見!」

 子どもっぽい弾んだ声はミシェルで、振り返ったエリーナは彼が両手で包むように持っているものに目を瞬かせた。

「え……子猫?」

 白い子猫はミャオと可愛らしく鳴いており、生まれて間もないように見える。

「そー。校舎の裏で鳴いてたんだよ。親も近くにいないし、育てようかと思って」

 可愛いよねと目を細めて笑うミシェルこそ可愛らしい。ジークとルドルフという肉食獣に心を苛まれた後のため、ミシェルが可愛い愛玩動物に思えてきた。

(小動物みたいで癒されるわ)

 和むわと微笑ましく見ていたら、何? とミシェルは首を傾げた。それがまた可愛らしい。
 ミシェルはエリーナの隣りに座り、エリーナの膝の上に子猫をそっと置いた。ミャオミャオとじたばたするのがまた可愛らしい。

「可愛いわね」

 子猫の青いクリクリした目に心臓を射抜かれ、頬が緩む。すくい上げるように持てば、温かさと柔らかさに胸が高鳴った。

「でしょう? 可愛いから、エリーって名付けようと思ってるんだ」

「え?」

 いつも通りのちょっと抜けたような話し方で、さらっと聞き捨てならない名前を口にしていた。

「この子も可愛いし、エリーナ様も可愛いしぴったりでしょ?」

「何がぴったりなのか、全く分からないわ」

 子猫は可愛いが、知らないところで自分の愛称で呼ばれると考えるとなんだか嫌だ。

「いつもエリーナ様と一緒のようで、いい考えだと思うんだけど」

「やめて、お願いだから別の名前にしましょ」

 ミシェルは可愛い顔と口調で時に怖いことを平気で言う。

「じゃぁ、エリーナ様が決めてよ」

 むぅと唇の先を尖らせているが、今は全く可愛くない。なんとかエリーだけは回避しなくてはと、今までの人生で出会った名前を思い出していく。子猫は女の子なので、この際ヒロインの名前を挙げていくことにした。

「マリー、セリナ、クロエ、シェリー」

「もっと可愛い名前はないの?」

「……ルルは?」

 注文をつけられ、少し投げやりに答えるとミシェルはパッと顔を輝かせた。彼の琴線に触れたらしい。

「それにする。ルル、パパとママだよ~」

「ちょっと、さりげなく私を母親にするのはやめなさい」

 やはり攻略キャラだけあって油断はできない。ミシェルは無邪気に笑っているが、最近はこの笑顔の裏で何か企んでいるのではとヒヤリとすることがある。

(せめてミシェルは和ませ癒しキャラでいてほしいわ……)

 そんなことをつらつら思いながら、指にすり寄って甘えてくる子猫に癒され昼休みを過ごしたのだった。

 そして後日、リズにこの一件を話したところ癒しイベントの一つですと返ってきた。エリーの名前を許可すると、今後ミシェルの家に行った時に子猫をエリーと呼んで可愛がるシーンが見られるそうだ。そんな羞恥プレイたまるかと、エリーナは違う名前にしたことに強く安堵するのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

処理中です...