悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

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学園編 17歳

65 心を込めて祝いましょう

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 エリーナはこの日のために、綿密に計画を立て秘密裏に行動していた。自室でサリーと顔を突き合わせて怪しげな笑みを浮かべ、クリスの目をかいくぐって料理長と密談した。リズからアドバイスをもらい、ベロニカと街へ行ってはあれでもないこれでもないと店をはしごする。ベロニカは呆れながらも、どこか嬉しそうにつきあってくれていた。

 そして春が終わり、夏の日差しが顔を出し始めている今日。いつもより早く起きて気合いを入れたエリーナは、朝日を見ながら目に闘志を燃やしていた。全てはこの日のために準備してきたのだ。

「今日は、クリスの誕生日を祝って驚かせるわよ!」

 自らを奮い立たせるように宣言し、サリーを呼んで着替えを手伝ってもらう。今日はクリスの二十二歳の誕生日であり、悪役令嬢の戦闘服で臨みたかったが、サリーにクリスが悲しむからと却下された。

 幸いにも本日は休日であり、クリスから遊びに行こうと誘われている。それを逆手に取り、サリーと料理長を筆頭にパーティーの準備をしてもらい例年以上に豪華な誕生日にするのだ。しかも今回はエリーナからのプレゼントも用意してある。その際散々ベロニカに付き合ってもらったので、休み明けには報告会が待っているが今は忘れることにする。今まであげていない罪悪感とか、ベロニカに言われてクリスを結婚相手として意識したことも全て脇に置いて、今日は大切な家族として祝うのだ。

 エリーナは着替えと化粧が終わると、鏡の前で身だしなみを確認した。今日はクリスの好きなラベンダー色の街行きドレスであり、レースがふんだんに使われた可愛らしいデザインだ。夜会用ではないので露出は少なく、ネックレスをつけない代わりにアメジストのイヤリングをつけた。

「朝食の後でもよろしかったのに」

 着替えが終わってからサリーにそう言われたが、特別な日だからこそ朝から常とは違う演出がしたいのだ。

「あら、作戦が始まっているから、気合いをいれないといけないでしょう?」

 エリーナは机の上に置かれた花束に目をやって口角を上げた。他の侍女からクリスはすでに起きて朝食を食べる部屋にいることを聞いている。今日の作戦は花束を渡すところから始まるのだ。

「……どうして獲物を罠にかけるような笑い方なんですか」

「あら、つい悪役令嬢が抜けなくて」

 うふふとお淑やかな笑みに変え、花束を持って部屋を出る。今日はお淑やかな令嬢でなくてはならないのだ。


 軽い足取りでクリスが待つ部屋へ行けば、彼は座って書類に目を通していた。少しでも時間があれば仕事をしており、そのおかげでこうやって自由な時間を作り出せるのだろう。

「クリス、お誕生日おめでとう」

「ありがとう、エリー」

 エリーナに気づくとクリスは破顔し、エリーナが抱えている花束に目を留めて嬉しそうに目を細めた。

「きれいな花だね」

 エリーナは花束をクリスに手渡し、うふふと小さく笑う。花束は赤を基調とした暖色系の花でまとめている。彼のきれいな赤い髪色を意識したものだ。子どもの頃は暗めの赤色だったが、最近は徐々に明るさが目立ち始めている。

「でしょう?」

「でも、エリーの方が何倍もきれいだよ。僕のためにおしゃれをしてくれたの?」

 さらりと赤面もののセリフを口にできるのは、昔から変わっていない。エリーナは嬉しそうに笑って、回ってみせた。

「今日は特別な日だもの」

「なんだか嬉しいな。朝食を食べたら、さっそく出かけようか」

 クリスは侍女に花束を渡し、花瓶に生けて見える位置においてもらう。パッと部屋が華やかになった。
 そして朝食を終えた二人は、馬車に乗り込んで王都の繁華街へと向かうのである。



 本来ならばクリスの誕生日なので、デートコースもエリーナが考えるべきなのだが、「最大のプレゼントはエリーの笑顔だから」という砂糖級の言葉に押されて、クリスのお任せとなった。

 午前中は王都で人気の劇団を鑑賞し、しびれる悪役にハラハラと手に汗握った。ランチは軽くレストランで済ませ、書店や雑貨店をめぐる。クリスがオートクチュールに入ろうとしたので、慌てて止めた。これ以上服が増えたら困る。すでに増設された衣裳部屋にもドレスがひしめいており、サリーにしかわからない迷宮となっているのだから。

 そしてここまでくればカフェ・アークでお茶をするのは自然な流れであり、足が疲れたエリーナは喜んで席に着いた。晩餐にもプリンは出るが、昼のプリンも捨てがたい。やはりプリンのみスイーツとして味わうのと、食事の後にデザートとして味わうのはまた違うのだ。
 店内は女性客でにぎわっており、近いうちに二号店ができるらしい。お嬢様シリーズのお菓子類は好調で、クリスの商才には舌を巻く。
 ほどなく厨房からパティシエが出てきて、いつもより大きな器をテーブルに置いた。それが目に入った瞬間、エリーナは「まぁっ」と驚きの声をあげる。

「プリン・ア・ラ・モードでございます」

「プリン・ア・ラ・モード」

 しっかり復唱してから、まじまじと器の中を見る。いつもより一回り大きな器の中央にプリンが鎮座し、その周りをホイップや果物が彩っている。まるで脇役が主役を引き立てている劇のようだ。悪役はプリンの上に乗っているミントだろう。

「おもしろいよね。プリンだけじゃ彩が弱いから、色々な果物で盛り立てたんだって」

 果物はただ切られているのではなく、飾り切りが施されており目でも楽しむことができる。エリーナは喜々として果物とプリンを味わっていく。

「あぁ、すごいわ。色々な味があるから、プリンがいつでも新鮮な感じで食べられるわ」

 ものの数分でそこそこ量があったにもかかわらず、エリーナはぺろりと食べきってしまった。特別な日に食べたくなる一品だ。

「なんだか、クリスの誕生日なのに私ばかり楽しんでいるわ」

「エリーの笑顔が一番のプレゼントだから、僕も満足しているよ。さぁ、行こうか」

 クリスはいつだってエリーナを甘やかす。差し伸ばされた手を取ったエリーナは、その甘い誘いに乗ってしまうが、いつまでも受け手でいるわけにはいかない。今日の主役はクリスなのだから。

 その後景色のいい公園を歩いて時間を潰し、屋敷に戻って夜に向けた準備をするのだった。
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