悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

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学園編 17歳

69 王女様を接待しましょう

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 エリーナは困惑していた。休日前の放課後、帰ろうとしたところに例のシャーロット王女に肩を掴まれたからである。

「ねぇ、エリーナ。聞いたわよ。貴女、殿下の側室候補の上に、あのプリンクッキーを生み出したカフェ・アークに顔が利くんですってね。明日、私をカフェに連れていきなさい」

「は、はい」

 明日が命日になるかもしれない。エリーナは内心大変なことになったと固まったのだった。


 そして翌日、エリーナは虚ろな目でシャーロットの豪華な馬車に揺られていた。さすが王族の馬車。揺れは少なくクッションは最高級で、体に負担が少ない。上座に座るシャーロットは護衛のエドガーにお茶を淹れてもらい、くつろいでいた。薄紫の洒落たドレスで、胸周りを彩るフリルに目が行ってしまう。

「エリーナ。そんな緊張しなくてもいいのよ。いじめたりなんかしないわ」

「そ、そんなこと考えておりません」

 ふ~んと意地悪っぽく微笑を浮かべたシャーロットに、エリーナはおずおずと口を開く。

「その、案内役はベロニカ様と伺っておりましたので、わたくしでよいのか不安になっておりました」

 王女が王都に滞在する間、案内はベロニカがすることになっていた。それが王女の一声で代えられたのだ。
 シャーロットはおもしろくなさそうに鼻を鳴らし、茶器をエリーナの隣に座るエドガーに渡してすまし顔で答えた。

「あんな高飛車そうな女嫌だわ。それに、正妻は二人もいらないでしょう? ねぇ、エリーナ。側室に入りたいなら、わたくしと組まない?」

 そう話を持ち掛けるシャーロットにエリーナが言葉を返そうとする前に、エドガーが口を挟んだ。

「シャーロット様。お戯れはそのあたりになさってください」

「あらエドガー、何か不満でも?」

「いえ……エリーナ様が困惑されておりますので」

 棘のある言葉に対し、頭を下げてエドガーは答える。ベロニカによると、彼はエドガー・ベンゼン侯爵家の次男で、シャーロットとは幼馴染らしい。幼い時から騎士として側に仕えており、護衛から身の回りまですべてをこなしているそうだ。

「あの、わたくしは側室に入るつもりはございませんので……」

「あらそうなの? まぁいいわ。今日はジーク様のことを色々と教えてもらうから、いいわね」

「は、はい!」

 エリーナが断れるはずもなく、重圧に気持ちが悪くなる中カフェ・アークに着いたのだった。


 カフェ・アークは南の国の王女が来訪するということで、店の奥を衝立で区切り簡易的な個室が作られていた。エドガー以外にも護衛は三人おり、彼らを引き連れて店内に入れば衆目を集める。エリーナは心を無にして奥へと進んでいった。

「いいお店ね」

「はい、わたくしもよく通わせていただいております」

 テーブルを挟んでエリーナとシャーロットが座り、彼女の後ろにエドガーが立つ。

「まぁすごい。ココナッツプリンがあるわ」

 メニューを見ていたシャーロットが目を丸くする。クリスが指示したココナッツプリンはもともと事前にレシピを完成させていたこともあり、すぐメニューに並んだ。

「今回王女殿下の来訪のおり、多くの特産品が持ち込まれたためですわ。ココナッツの香りと味わいがおいしいと評判なんです」

「そう、なんだか嬉しいわね」

 そう目を細め、メニューを閉じた。

「メニューにあるプリンを一つずつちょうだい」

 今アークで出されているお嬢様シリーズのプリンは、普通のプリン、クレームブリュレ、ココナッツプリン、プリン・アラモードの4つだ。エリーナなら軽々と食べられるが……

「シャーロット様、頼み過ぎではございませんか? 本日は晩餐会もございますし」

 案の定エドガーがそう苦言を呈するが、シャーロットは肩越しに彼を見上げると含んだ笑みを見せる。

「あら、エドガーも食べるでしょ?」

「え、あ……はい」

 それに対し、一瞬虚を突かれた顔をしてから、少し赤くしてエドガーは頷いたのだった。それを意外そうに見てから、エリーナはココナッツプリンとクレームブリュレを頼む。

「エドガー、突っ立てないでここに座りなさい。後ろにいられると邪魔だわ」

「いえ、しかし……」

「どうせ貴方も食べるんだし、外から見えないから大丈夫よ。護衛は向こうに三人もいるしね」

 エドガーは少し躊躇するが、シャーロットがもう一度促すと申し訳なさそうに二人の間に用意された椅子に座った。実のところエドガーはシャーロットの護衛だが、彼自身は侯爵位を持っているためそこまで下手に出る必要はない。だが、長年騎士であり従者として振舞ってきた癖なのだろう。

「エドガー様は、甘いものがお好きなのですか?」

 エリーナの周りの男性は甘いものが得意ではない人が多い。幸せそうに食べるエリーナに自分の分を差し出して、コーヒーを飲んでいるからだ。唯一ミシェルは「一口ちょうだい」とスプーンを伸ばしてくるが。

「あ……はい。嫌いではありません」

 エリーナに話しかけられ、歯切れの悪くそう答える。それをシャーロットは横目で見た。

「何言ってんの。大好きでしょう? この店の情報も、貴方が知ってたんじゃない」

「いえ……それは、侍女たちが……」

「今更隠さなくてもいいわよ」

 二人のやりとりからは親しさが感じられ、エリーナはつい頬を緩める。「はい」と小さく呟いたエドガーは、恥ずかしそうにしていた。

 ほどなく注文したプリンたちが来て、シャーロットは一つずつ味見をしていく。どれも一口食べては、隣に座るエドガーにあげていた。

「おいしい。プリンってこんなにおいしくなるのね。ココナッツプリンも国のレベルと同じだわ」

 目を丸くして驚いており、合格点のようだ。本場の人に食べてもらうのは緊張する。エリーナもいつもの味に満足しており、ブリュレの濃厚な味わいを堪能していた。

「ねぇ、エリーナ。最初に会った時から気になっていたのだけど、貴女親族にニールゲル王国の方がいるの? この国で紫の瞳は珍しいでしょう」

 紅茶を飲みながら、シャーロットは唐突にそう尋ねた。深い意味のない素朴な疑問のようだ。

「え……はい、たぶん。父がニールゲル王国に縁があるのだと思います」

 その曖昧な答え方に、

「ごめんなさい。立ち入っていい話じゃなかったのね」

 とシャーロットが少し表情を曇らせたため、エリーナは慌てて言葉を足す。

「いえ、まったく! わたくしも分からないので、曖昧な言い方になり申し訳ありません」

「そうなの……本当にいい色だと思うわ」

 そう言って微笑むシャーロットの瞳はすみれ色で美しい。そして彼女はニコッと口角を上げてこう続けた。

「さて、ジーク様について色々教えてもらうわよ」

「は、はい!」

 背筋を伸ばすエリーナに対し、エドガーは表情を曇らせる。そしてエリーナが解放されたのは、たっぷり二時間質問攻めにされた後だった。
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