悪役令嬢の品格 ~悪役令嬢を演じてきましたが、今回は少し違うようです~

幸路ことは

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学園編 17歳

70 王女様対策を練りましょう

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 シャーロットが学園で過ごすようになって二週間が経った。エリーナはなぜか王女に気に入られ、放課後や休日を一緒に過ごすようになった。観光地巡りや観劇、買い物と、護衛のエドガーと共に付き添う。本来の案内役であるベロニカとはそりが合わなかったようだ。

 そして常にジークにくっついて回り、親密さを見せつけるように振舞っている。ジークも曖昧に笑ってつきあっているため、ますます増長していた。その様子からベロニカとの婚約を破棄してシャーロットを正妃に迎えるのではという妙に真実味のある噂が流れ始め、ベロニカに反感を持っていた令嬢たちによって瞬く間に広まっていったのだった。

 そんな中、ベロニカは珍しく学園を休んだ。エリーナは令嬢たちが根も葉もない噂をするのを不快に思いながら、心配になる。そして、ベロニカが倒れたとを聞いたのは、その日の放課後だった。


 家に帰り、クリスから話を聞いたエリーナは、制服のまま馬車に飛び乗って公爵家に向かった。クリスには日を改めたほうがいいと言われたが、居ても立っても居られなかったのだ。
 公爵家の侍女に案内され、ベロニカの部屋を訪れる。彼女によると学校は大事をとって休んだだけで、本人は元気らしい。ドアが開くなり、中に飛び込んだ。

「ベロニカ様!」

「……うるさいわよ」

 ベロニカが横たわっているベッド際へと駆け寄る。彼女はふかふかのクッションに背を預け、半身を起こしていた。その手には小説があり、暇つぶしに読んでいたのだろう。

「お体は大丈夫なのですか!?」

 エリーナは部屋着姿のベロニカを隅々まで見る。ゆったりとした服を着ており、つい豊かなふくらみに目が行ってしまった。

「平気よ……ちょっと疲れが出ただけなのに、周りが騒ぐから」

 エリーナはベッドの側にある椅子に腰かけ、安堵の息をついた。思ったより元気そうで安心する。

「そうだったんですね……」

 ベロニカはベッドから起き上がり、窓際にあるテーブルセットへ向かう。侍女がすぐにお茶の準備をし、エリーナもそこに座った。

「こんな格好でごめんなさいね。今日はゆっくりしようと思って」

「いえ……わたくしこそ突然押しかけて申し訳ありませんでした」

 紅茶を淹れる音が響き、香りが立つ。

「いいのよ。暇をしていたところだしね……」

 そして紅茶をすすりながらベロニカが話すには、シャーロットの一件で上位貴族が騒ぎ出し、その対応に追われていたらしい。しかも以前エリーナにからんできた侯爵令嬢の一派が息を吹き返し、あちこちであらぬ噂を広げるためその火消しに躍起になっていたのもある。心身ともに疲労していたところに、夜気に当てられたそうだ。

「殿下……許すまじですわ」

 ベロニカの苦労話を聞いたエリーナの結論がそれだった。シャーロットにも非はありまくるが、それを許しベロニカに負担をかけているジークが許せなかった。

「……弱いものね。ずっと殿下の婚約者として振舞って気を張ってきたけれど、無意味になるかもしれないと思うとやりきれなくて」

「ベロニカ様……」

 弱気なベロニカは眉尻を下げて、自嘲を口元に浮かべた。

「馬鹿よね。リズに言われたとおりよ。素直にジークを引き留められたらどれだけいいか」

 今日のベロニカはやけに素直だ。体が弱っていることもあって、気が弱くなっているのだろう。

「なんだかんだ言って、殿下のことを想っていらしたんですね……」

 リズとベロニカから鈍いと言われているエリーナだって、この間の反応を見ればそれぐらいは分かる。そう口にすると、ベロニカは悲しそうに頷いて視線を窓辺に飛ばした。出窓にはドライフラワーが飾ってあり、小さな花たちが可愛らしく身を寄せ合っている。

「それなりにはね……でも、本気で愛することはできないわ。だって、この結婚に心を寄せたら苦しむのは目に見えているもの。残念ながら、側妃が増えそれを許せるほど心は広くないのよ。その人を愛するなら、私だけを愛してほしい。そういうものでしょう?」

 率直に気持ちを表現したベロニカの言葉は、エリーナの胸にすんなり入った。愛するなら、私だけを愛してほしい。そのささやかな願いのために、多くの悪役令嬢が散っていった。
 エリーナは決意を込めた瞳を向けて、テーブルの上に置く手を握る。このままではいられない。

「ベロニカ様。ダブル悪役令嬢をしましょう」

「は?」

「シャーロット様がこちらに嫁ぎたくないと思わせればいいんですよ」

 ベロニカからは先ほどの憂いを帯びた表情が消え、冷え冷えとした視線を向けている。

「不敬罪で裁かれるわよ」

 何といっても相手は他国の王女だ。格下の令嬢をいびるのとはわけが違う。エリーナも今までさんざん悪役令嬢として権力を振りかざし、さらなる権力によって断罪されてきた。その恐ろしさは身に染みて理解している。だがエリーナだって考えなしに口にしているわけではない。ゲームのシナリオでは、ヒロインが嫉妬し独占欲を出せば王女は引き下がる。それを利用すればいいのだ。だが、考えたのはそこまでであり……。

「そのあたり、ベロニカ様なら上手くしてくれるかなって」

 潔くエリーナは丸投げし、ベロニカは額に手を当てる。そしてしばらく考えた後、エリーナに視線を向けて諦めたように言葉を返した。

「なんとかしてみるわ……手を回しておくけれど、別に貴女も矢面に立つ必要はないのよ?」

 悪役令嬢として振舞うぐらいベロニカ一人でもできる。エリーナは正式に側室に決まっているわけでもなく、首を突っ込む必要はないのだ。
 だがエリーナはムッとした表情をして、身を乗り出した。

「ベロニカ様が困っているのに、助けない友達がいますか? それに、ベロニカ様と一緒に悪役令嬢ができるなんて、そんな機会逃せるはずがありません!」

 ベロニカに初めて会って師匠と仰いだ時から、いつかは共演したいと思っていたのだ。例の侯爵令嬢の一件があってから、ますますその気持ちは強まっていた。

「……本音は後半でしょ」

「まさか、ちゃんと助けたいって思ってますよ」

 ならいいけどと、溜息をついたベロニカと悪役令嬢劇場のシナリオを練っていく。二人とも重度のロマンス小説好きであり、参考にできるシーンはいくらでもある。そうやって出来上がったシナリオに、二人は悪だくみを心待ちする笑みを浮かべ、実行の日取りを決めたのだった。

 そして帰り際に、エリーナは晴れ晴れとした笑みをベロニカに向ける。

「あ、ベロニカ様……殿下にもちゃんと言うことは言うので安心してくださいね」

「ちょっと、何をするつもりなの」

「ベロニカ様の友人として、少しお話をするだけですよ」

 そんな不穏な言葉を残して、エリーナはオランドール公爵家を後にしたのだった。
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